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ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

2024年04月18日

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■概要
ブラジルの特許出願の審査基準のうち進歩性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。また、発明の認定・対比などについては、「ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点」を参照されたい。前編では、進歩性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、用語の定義について解説する。進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/38708/)を参照されたい。
■詳細及び留意点

1. 記載個所
 発明の進歩性については、ブラジル産業財産法第8条および第13条に規定されている。

第8条
新規性、進歩性および産業上の利用可能性から成る要件を満たす発明は、特許を受けることができる。

第13条
発明は、技術水準を考慮したときに当該技術分野における熟練者にとって明白または自明でないときは、進歩性を有するとみなされる。

審査基準については、ブラジル特許出願の審査基準の第2部第5章に進歩性に関する規定があり、その概要(目次)は、以下のとおりである。なお、本稿では、「2013年12月04日決議124号」を「ブラジル特許出願の審査基準第1部」、「2016年7月15日決議169号」を「ブラジル特許出願の審査基準第2部」と表記した。

第5章 進歩性
概念
5.1~5.3
技術分野における専門家
5.4
進歩性の評価
総括
5.5~5.8
進歩性を確認するための判断ステップ
5.9
最近似な技術水準の判断
5.10~5.19
検討される技術的課題からみて、かつ、最近似な技術水準を始点として、発明が当該分野の熟練者にとって自明であるか否かを判断すること。
5.20~5.21
技術水準から複数の文献を組み合わせること(先行技術文献の組合せ)
5.22
進歩性を有する発明の評価において新分野を開拓する具体的な状況
5.23
組合せによる発明の総括
5.24~5.26
自明な組合せ
5.27~5.29
非自明な組合せ
5.30
選択による発明
総括
5.31~5.32
自明な選択
5.33
非自明な選択
5.34
類似技術分野による発明
5.35~5.39
周知の製品を用いた技術の新規な使用
5.40~5.45
構成要件の変更による発明
総括
5.46~5.47
構成要件間の関係の変更による発明
5.48~5.50
構成要件の置換えによる発明
5.51~5.53
構成要件の省略による発明
5.54~5.55
進歩性の審査において検討される二次的な要因
総括
5.56
解決されていない長年の技術的課題に対する解決策
5.57
偏見または技術的な障壁を解消すること
5.58
商業的な成功を取得すること
5.59
表彰を取得すること
5.60
発明が創造される仕様
5.61

2.基本的な考え方
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章 5.5~5.8

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、審査官の進歩性評価に関して、次のように規定されている。

「審査官は、進歩性を評価するために、技術的解決策自体だけを検討するのではなく、発明が属する技術分野、解決される技術的課題および発明によってもたらされる技術的効果も検討しなければならない。」

「クレームされている発明は、前置き部分および特徴付け部分の要素を斟酌して、全体として検討されなければならない。クレームと技術水準との間の差異を判断するうえで、課題は、当該差異が個々別々に自明となるか否かということではなくて、クレームされている発明がその全体において自明となるか否かについてである。」
「一般的に、独立クレームが発明性を提示している場合は、その従属クレームは、それらが従属するクレームに存在するすべての限定を包含しているので、当該従属クレームの進歩性について審査する必要はない。」「これに反して、独立クレームが進歩性を有さない場合は、その従属クレームは、自体を新規なものとする特定の要素を含有し得るため、審査されなければならない。」

3. 用語の定義
3-1.当業者
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章 5.4

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性判断の主体となる「熟練者」について、次のように記載されている。

「当該技術分野の熟練者は、技術的-科学的知識でもって、出願の提出時点において、課題の属する技術分野における中央知識を有する者および/または主題の実用的な運用知識を有する者であり得る。その者たちは、課題の技術分野に特有の通常の作業および実験の手段および能力を自由に使えるとみなされている。製造または研究のチームの場合のような一群の人々の観点から思考することが、一段と適切である場合があり得る。それは、特に、コンピュータおよびナノテクノロジーのような一定の先進技術に当てはまる可能性がある。」

3-2.技術常識及び技術水準
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「技術常識」および「技術水準」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.1

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル産業財産法では、第11条において「発明および実用新案は、技術水準に含まれない場合は、新規であるとみなされる」、また第13条において「発明は、技術水準を考慮したときに当該技術分野における熟練者にとって明白または自明でないときは、進歩性を有するとみなされる」としたうえで、技術水準を「文書または口頭による説明、使用その他の方法により、特許出願日前にブラジルまたは外国において、公衆の利用に供されていたすべてのものを含む」と定義している(ブラジル産業財産法第11条(1))。

 また、ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.1でも同様に、「技術水準は、文書または口頭による説明、使用またはその他の手段により、特許出願の提出日前にブラジルまたは外国において、公衆の利用に供されていたすべてのものから構成される」としている。

 これらより、ブラジルにおける技術水準は、新規性の判断の基準とされる先行技術をいうと解釈でき、したがって、日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節で定義される技術水準、すなわち「先行技術のほか、技術常識その他の技術的知識(技術的知見等)から構成される」、とは異なることに留意する必要がある。

3-3.周知技術及び慣用技術
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「周知技術」および「慣用技術」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、何が「周知技術」かについては触れられていない。ただし、実務は日本国特許庁と実質的に同じである。

 進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。

■ソース
・2013年12月04日決議124号(ブラジル特許出願の審査基準第1部)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-tokkyo_kijun.pdf(日本語)
https://www.gov.br/inpi/pt-br/assuntos/arquivos-dirpa/resolucao_124_diretrizes_bloco_1_versao_final_03_12_2013_0.pdf(ポルトガル語)
・2016年7月15日決議169号(ブラジル特許出願の審査基準第2部)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-kijun_tokkyosei.pdf(日本語)
https://www.gov.br/inpi/pt-br/servicos/patentes/legislacao/legislacao/bloco-ii-patenteabilidade-resolucao-169-2016.pdf(ポルトガル語)
・ブラジル産業財産法
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf(日本語)
・日本の特許・実用新案審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
■本文書の作成者
Licks特許法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.12.06

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