アジア / 出願実務
中国における意匠出願の必要書類「簡単な説明」について
2024年03月05日
■概要
中国では、2009年10月1日の中国専利法(以下、「専利法」という。)の改正後、「簡単な説明」が意匠(中国語「外观设计」)出願の必要書類の一つとなった(専利法第27条)。「簡単な説明」は、その内容と形式を、専利法実施細則に定められている規定に合致させなければならないほか、保護範囲に対する影響も考慮して記載しなければならない(専利法第64条第2項)。■詳細及び留意点
1.意匠出願の「簡単な説明(中国語「简要说明」)」の内容
(1) 「簡単な説明」には、以下の内容を含める必要がある(実施細則第28条)。
(a) 意匠物品の名称、
(b) 意匠物品の用途
(c) 意匠の設計要点(中国語「外观设计的设计要点」)
(d) 設計要点を最も良く表せる図面または写真
また、実際の状況に応じて、上記4点以外の内容も必要とする場合がある。例えば、ある図面を省略する場合や色の保護を求める場合、「簡単な説明」の中でその点について説明しなければならない。また、一件の出願で一つの物品(中国語「同一产品」)の複数の類似意匠(中国語「相似外观设计」)を出願する場合は、「簡単な説明」の中でいずれかを基本意匠(中国語「基本外观设计」)として指定しなければならない。
この他、「簡単な説明」には、商業的な宣伝用語を含めることはできず、物品の性能や内部構造を説明してはならない。物品の性能等、「簡単な説明」に記載すべきでない内容を記載した場合、それらの記載を削除するよう通知書が発行される。
(2) 上記4点は、以下の要求に合致させる必要がある(専利審査指南第1部分第3章4.3)。
(a) 「簡単な説明」における意匠に係る物品の名称は、願書の物品の名称と一致しなければならない。
(b) 「簡単な説明」における意匠に係る物品の用途は、物品の類別を確定しやすいように用途を記載しなければならず、複数の用途を有する物品の場合は、対象物品の複数の用途を記載しなければならない。
(c) 意匠の設計要点とは、先行意匠(中国語「现有设计」)と区別されるような物品の形状、図案およびその組み合わせ、あるいは色彩と形状、図案の組み合わせ、あるいは部位を指す。設計要点は簡潔に記載しなければならない。
(d) 設計要点を最も良く表す図面または写真を指定しなければならず、指定された図面または写真は、専利公報に代表図(主視図)として掲載される。
(3) 部分意匠の簡単な説明
2021年6月1日より施行された改正専利法第2条第4項および国家知識産権局公告第510号第1条の規定に基づき、意匠出願人は2021年6月1日(同日を含む)より、物品の部分の保護を請求する意匠専利出願を提出することができる。部分意匠専利を出願する場合、物品全体の斜視図を提出するとともに、破線と実線の組み合わせ、または他の方式により保護しようとする内容を表さなければならず、物品全体の斜視図において破線と実線の組み合わせ方式により保護しようとする内容を表していない場合は、簡単な説明において保護を請求する部分を明記しなければならない。
(4) 中国を指定した国際出願の簡単な説明
中国は世界知的所有権機関(WIPO)の「意匠の国際登録に関するハーグ協定」(以下、「ハーグ協定」という。)に既に加入しており、当該協定は2022年5月5日に中国で発効した。
ハーグ協定(1999年改正協定)第5条(2)(b)(ii)に基づき、中国の法律に基づいて出願日を取得するためには、中国を指定する国際意匠出願は保護を請求する意匠の特徴を説明した簡単な説明を含まなければならないことが宣言された(ハーグ協定第5条(2)(b)(ii)に基づく宣言)。
注意すべきは、国家知識産権局公告第511号第4条により、設計要点を含む説明書が国際事務局により公表された国際意匠出願に含まれている場合、既に簡単な説明は提出されたとみなされることである。
2.「簡単な説明」と意匠権の保護範囲の関係
(1) 意匠権の保護範囲は、図面又は写真に表示される物品の意匠を基準とし、「簡単な説明」は、図面又は写真に表示される物品の意匠を解釈するのに用いることができる(専利法第64条第2項)。
(2) また、「最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(2010年1月1日施行。以下、「司法解釈」という。)においては、意匠権の保護範囲に関して、以下のように定められている。
第8条
登録意匠に係わる物品の種類と同一又は類似する物品において、登録意匠と同一又は類似する意匠を用いた場合、人民法院は権利侵害で訴えられた設計が、専利法第59条第2項※1に定めた意匠権の保護範囲に入っていると認定しなければならない。
第9条 人民法院は意匠に係わる物品の用途を基に、物品の種類の同一又は類似を認定しなければならない。物品の用途確定にあたって、意匠の簡単な説明、意匠の国際分類表、物品の機能、および物品の販売や実際の利用状況などの要素を参酌することができる。 第10条 人民法院は、登録意匠に係わる物品の一般消費者の知識水準と認知能力を以って、意匠の同一又は類似の判断を行わなければならない。 第11条 意匠の同一又は類似の認定にあたって、人民法院は、登録意匠、権利侵害で訴えられた設計の設計特徴に基づき、意匠全体の視覚効果を以って総合的に判断しなければならない。主に技術的な機能で決まるような設計特徴、および全体の視覚効果に影響を与えないような物品の材料や、内部構造などの特徴は考慮しない。 次のような状況は通常、意匠全体の視覚効果に対してより大きな影響を与える。 (一)他の部分に対して、物品の正常使用時に容易に直接観察できる部分 (二)登録意匠におけるその他の設計特徴に対して、登録意匠の既存設計と区別される設計特徴 権利侵害で訴えられた設計と登録意匠とが、全体の視覚効果において相違のない場合、人民法院は二者の同一を認定し、全体の視覚効果において実質的な相違のない場合、二者の類似を認定しなければならない。 |
※1 専利法第59条第2項は、2009年10月1日施行の専利法に基づく条文番号であり、2021年6月1日施行の現行専利法では、第64条第2項となる。
(3) 「簡単な説明」が意匠権の保護範囲に与える影響
以上の規定から、意匠権の保護範囲は、図面または写真に表示される物品の意匠を基準とするとされており、実務上、「簡単な説明」は意匠権の保護範囲に一定の影響があると考えられている。
(a) まず、意匠に係る物品の名称について、司法解釈第8条から見れば、意匠権の保護範囲を特定する機能を持つことがわかる。
(b) 意匠物品の用途について、審査指南では、用途を記載する目的は物品の種類を確定するためだとしているが、司法解釈第9条から見れば、これも意匠権の保護範囲を限定する機能を持つことがわかる。
(c) 意匠の設計要点について、審査指南では、設計要点を記載する目的は出願する意匠と先行意匠とを明確に区別するためだとしているが、設計要点が意匠の保護範囲に影響を及ぼすか否かについては、以下の2つの見解に分かれている。
・侵害が訴えられた物品と意匠の設計要点が同一または類似する場合、物品の他の部分が同一または類似であるか否かにかかわらず、同一または類似する意匠であると判断し、侵害が訴えられた物品の設計は意匠権の保護範囲に入る、という見解。
・意匠の同一または類似を判断する際は、総合的に判断すべきであり、設計要点が同一または類似し、かつ、設計要点が物品の外観の主要部分である、あるいは物品の外観の主要部分ではないが物品の全体外観と同一または類似する場合のみ、同一または類似の意匠であると判断し、侵害が訴えられている物品の意匠は、意匠権の保護範囲に入る。もし設計要点が物品全体の外観において占める割合が非常に小さく、物品全体の外観の識別に影響を及ぼさない場合、類似する意匠と判断すべきではない、という見解。
【留意事項】
中国では、意匠の「簡単な説明」の内容について具体的な規定があり、物品の性能や内部構造を説明することができず、この点は日本と異なる。
「簡単な説明」の記載は、意匠の解釈に供される程度のもので、直接的な法律的効果は規定されていないが、禁反言の原則が適用されることも考えられるので、権利行使時の保護範囲の広狭にも配慮して検討されるべきである。
「簡単な説明」における設計要点が意匠の保護範囲に影響を及ぼすかどうか、また、その影響の程度が不確定であるため、実務においては、一般的に設計要点に対して具体的な記載を避ける方向で対応している。設計要点を、例えば「設計要点は、意匠物品の形状にある」、「設計要点は、意匠物品の図案にある」、「図Xの示す意匠形状のとおりである」というような書き方をすることができる。
意匠物品の類否は、その用途に基づいて認定すべきである(司法解釈第9条)とされており、意匠物品の用途の記載が将来の意匠権の範囲に大きな影響を及ぼす可能性が否定できないので、先行意匠との類否の可能性と保護範囲の広狭の2つの観点から充分に検討されるべきである。設計要点の記載についても同様で、登録意匠の要部(設計特徴)判断に大きな影響を及ぼすことも考えられるので、具体的な記載を行う場合には充分な検討が必要である。
■ソース
・中国専利法(2021年6月1日施行)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf(日本語)
・中国専利法実施細則(2010年2月1日施行)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20100201.pdf(日本語)
(注:本稿作成後、上記URLは(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20100201_rev.pdf)に変更されています。また、中国専利法実施細則(2024年1月20日施行)(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf)(日本語)が公開されています。)
・中国専利審査指南 第1部分第3章 意匠専利出願の方式審査(2010年2月1日施行)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201.pdf
(注:本稿作成後、上記URLは(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201_rev.pdf)に変更されています。また、中国専利審査指南(2024年1月20日施行)(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf)(日本語)が公開されています。)
・最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/interpret/20091228.pdf(日本語)
・中国国家知識産権局公告第510号
https://www.cnipa.gov.cn/art/2023/1/5/art_527_181246.html(中国語)
※ 中国のサイトへ日本からアクセスする場合には、通信状況により接続に時間がかかるか、または接続できない場合があるので注意されたい。
・中国国家知識産権局公告第511号
https://www.cnipa.gov.cn/art/2023/1/5/art_74_181249.html(中国語)
・ハーグ協定第5条(2)(b)(ii)に基づく宣言
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.wipo.int%2Fedocs%2Fhagdocs%2Fen%2F2022%2Fhague_2022_6.docx&wdOrigin=BROWSELINK(英語)
■本文書の作成者
中原信達知識産権代理有限責任公司 パートナー弁理士 陸錦華■協力
中原信達知識産権代理有限責任公司 日本事務所日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2023.11.30