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台湾における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

2024年02月08日

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■概要
台湾の特許出願の審査基準(専利審査基準)のうち進歩性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。また、発明の認定・対比などについては、「台湾における新規性の審査基準に関する一般的な留意点」を参照されたい。前編では、進歩性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、用語の定義について解説する。進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「台湾における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/38230/)を参照されたい。
■詳細及び留意点

1.記載個所
 進歩性(台湾専利法第22条第2項)については、専利審査基準の第2篇第3章3.に記載されている。その概要(目次)は、以下のとおり。

3. 進歩性
 3.1 前書き
 3.2 進歩性の概念
  3.2.1 当該発明が所属する分野において通常の知識を有するもの
  3.2.2 先行技術
  3.2.3 容易に完成できること
  3.2.4 引用文献
3.3 進歩性の審査原則
  3.3.1 全体審査
  3.3.2 組み合わせの対比
  3.3.3 請求項毎の審査
 3.4 進歩性審査を判断するステップ
  3.4.1 進歩性を否定する要素
   3.4.1.1 複数の引用文献と組み合わせる動機付けがある
    3.4.1.1.1 技術分野の関連性
    3.4.1.1.2 解決しようとする課題の共通性
    3.4.1.1.3 機能又は作用の共通性
    3.4.1.1.4 教示又は示唆
   3.4.1.2 簡単な変更
   3.4.1.3 単なる寄せ集め
  3.4.2 進歩性を肯定する要素
   3.4.2.1 阻害要因
   3.4.2.2 有利な効果
   3.4.2.3 補佐的判断要素     3.4.2.3.1 予測できない効果を奏する発明
    3.4.2.3.2 長期間存在した課題を解決した発明
    3.4.2.3.3 技術的偏見を解決した発明
    3.4.2.3.4 商業的成功を収めた発明
 3.5 選択発明の進歩性判断
 3.6 審査における注意事項

2.基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応する専利審査基準(台湾)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 専利審査基準の第2篇第3章「3.4 進歩性を判断するステップ」

(2) 異なる事項または留意点
 台湾における進歩性の判断は、(1)記載の「進歩性を判断するステップ」における進歩性の5つの判断ステップを順に実行することにより、進歩性の有無を判断する。両国の審査基準には、若干の差異はあるが、基本的には、ほぼ同じであると考えられる。5つの判断ステップは、以下のとおりである。

 ・ステップ1:特許出願に係る発明の範囲を認定する。
 ・ステップ2:関連する先行技術に開示された内容を認定する。
 ・ステップ3:当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者の技術レベルを認定する。
 ・ステップ4:当該発明と関連する先行技術が開示する内容との間の差異を確認する。
 ・ステップ5:その発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が先行技術に開示された内容及び出願時の通常の知識を参酌して、特許出願に係る発明を容易に完成できるか否かを判断する。

3.用語の定義
3-1.当業者

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応する専利審査基準(台湾)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
専利審査基準の第2篇第3章「3.2.1 当該発明が所属する技術分野において通常の知識を有する者」

(2) 異なる事項または留意点
 複数人を当業者とする態様について、日本では、複数の技術分野からの「専門家からなるチーム」を当業者とするのに対して、台湾では、同じ技術分野の仮想の一群を当業者とするので、日本よりも狭い態様といえる。

3-2.技術常識及び技術水準
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「「技術常識」および「技術水準」」に対応する専利審査基準(台湾)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
専利審査基準の第2篇第3章「3.2.1 当該発明が所属する技術分野において通常の知識を有する者」

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査基準の第2篇第3章3.2.1における「一般知識には、マニュアルまたは教科書等に記載された周知(well-known)の知識が含まれ、普遍的に使用(commonly used)される情報および経験則から理解できる事項も含まれる。「普通の技能」とは、ルーティンワーク、実験を実施する普通の能力を指す。「一般知識」と「普通の技能」を『通常の知識』と称する」との記載によれば、日本での「技術常識」「周知技術」「慣用技術」のそれぞれは、台湾の「通常の知識」「一般知識」「普通の技能」に相当すると考えられる。
「技術水準」について、台湾の審査基準には、該当する用語が明確に記載されていないが、同3.2.1の記載により、「出願時の先行技術を理解、利用できる」ことを指すと考えられる。

3-3.周知技術及び慣用技術
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「「周知技術」および「慣用技術」」に対応する専利審査基準(台湾)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
専利審査基準の第2篇第3章「3.2.1 当該発明が所属する技術分野において通常の知識を有する者」

(2) 異なる事項または留意点
 「3-2. 技術常識及び技術水準」の「(2) 異なる事項または留意点」を参照。

進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「台湾における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編))をご覧ください。

■ソース
・日本特許・実用新案審査基準
第III部 第2章 第2節 進歩性
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
・台湾専利審査基準
第2編発明の実体審査 第3章特許要件(専利要件)
(中国語)https://topic.tipo.gov.tw/patents-tw/cp-682-870054-84cb7-101.html
(日本語)https://chizai.tw/wp-content/uploads/2022/09/第二篇第3章-特許要件(2022.7.1施行)-.pdf
■本文書の作成者
理律法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.11.09

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