アジア / 出願実務
韓国における商標優先審査制度
2024年01月30日
■概要
韓国における商標優先審査制度は、⼀定の要件を備えた商標登録出願について、他の出願よりも優先的に審査を受けることができる制度である。通常は、審査結果を得るまで10~12か月程度を要するところ、この制度を利用すると、2~3か月以内に得ることができるため、早期権利化が必要な場合に有効である。優先審査制度を利用する場合は、別途優先審査申請料が必要となる。■詳細及び留意点
1.申請人
韓国に商標を出願する出願人は誰でも優先審査を申請することができる。ただし、国際商標登録出願の場合には、申請することができない。
2.申請できる時期
優先審査は、商標出願と同時に、または出願後でも未だ審査がなされていない場合に、申請することができる。ただし、審査着手まで2か月以内と審査着手時期が迫っている場合には、実益がないため申請が却下される可能性がある。なお、申請却下の場合は、申請料は返還される。
3.優先審査の要件
韓国では、商標登録出願において、一定の要件を備えた出願については、他の出願よりも優先的に審査を受けることができる(韓国商標法第53条)。
第53条(審査の順位及び優先審査) ①商標登録出願に対する審査の順位は、出願の順位による。 ②特許庁長は、次の各号のいずれかに該当する商標登録出願に対しては、第1項にかかわらず審査官をして他の商標登録出願よりも優先して審査させることができる。 1.商標登録出願後、出願人ではない者が商標登録出願された商標と同一・類似した商標を同一・類似した指定商品に正当な事由なしに業として使用していると認められる場合 2.出願人が商標登録出願した商標を指定商品の全部に使用しているなど、大統領令で定める商標登録出願として緊急な処理が必要であると認められる場合 |
具体的には、優先審査申請は、以下の(1)~(8)のいずれかの場合に申請することができる(商標登録出願の優先審査申請に関する告示(韓国語「상표등록출원의 우선심사신청에 관한 고시」)第4条)。
第4条(優先審査の申請対象) 次の各号のいずれかに該当する出願については、優先審査を申請することができる。 1. 出願人が出願した商標を指定商品全部に対して使用していたり、使用する準備をしていることが明白な場合(注:下記記事「6. 留意事項(1)」参照) 2. 次の各目のいずれかに該当する場合であって、出願後、出願人でない者が正当な事由なく、業として出願された商標と同一または類似した商標を同一または類似した指定商品に使用していると認められる場合 イ. 出願人が第 3 者に出願された商標の使用禁止を警告した場合 ロ. 出願人が第 3 者に商標使用禁止仮処分申請をした場合 ハ. その他に出願人が第3者に出願された商標の使用を許諾しない場合 3. 出願人から出願された商標と同一または類似した商標を同一または類似した指定商品に使用することと認められるという理由で「商標法」第58条第1項により書面警告を受けた場合、警告の根拠となる出願 4. 出願人が他の出願人から、その出願人の出願した商標と同一または類似した商標を同一または類似した指定商品に使用するという理由で「商標法」第58条第1項により書面警告を受けた場合の該当出願 4の2. 商標登録出願人が、その商標登録出願に関連して他の商標権者から異議の提起を受けた場合 5.「商標法」第167条のマドリッド議定書による国際出願の基礎になる出願をした場合であって、マドリッド議定書による国際登録日または事後指定日が国際登録簿に登録された場合の該当出願 6. 「調達事業に関する法律」第26条第1項第2号による中小企業者が共同で設立した法人が団体標章を出願した場合 7. 条約による優先権主張の基礎となる出願をした場合であって、外国特許機関で優先権主張を伴う出願に関する手続きが進行中である場合、該当の出願 8.存続期間満了で消滅した登録商標の商標権者が出願をした場合として、その標章と指定商品が存続期間満了で消滅した登録商標の標章および指定商品と全部同一した場合の該当出願 9. 優先審査を申請しようとする者が商標登録出願された商標に関して、商標法第51条第2項により登録した商標専門機関(以下「専門機関」という。)のうち、特許庁長が公告した専門機関に先行商標調査を依頼した場合で、その調査結果を特許庁長へ通知するよう、該当専門機関に要請した出願(該当専門機関が優先審査申請後1ヶ月以内に優先審査用の先行商標調査結果報告書を特許庁長に提出する場合のみ該当する。) |
(注)作成者追記
4.必要書類
優先審査の申請書類は、優先審査申請書と優先審査申請説明書および関連資料(商標使用あるいは商標使用準備を証明する資料等)である。
出願人が、外国人である場合には、実務上は、外国での使用の事実を証明する書類等と共に韓国での使用計画書を作成して提出すれば、優先審査の対象として認定を受けることができる。
使用準備を証明する資料として、商標審査基準第6部第2章2に次の記載がある。
2. 優先審査申請に対する審査 2.1.2 商標使用準備中であるという事実(次のいずれかに該当する資料) (ⅰ)指定商品について使用する商標を印刷するために印刷会社に発注したことを立証する書類 (ⅱ)商標が添付された指定商品のカタログ、パンフレット、広告等を印刷会社又は広告会社に発注したことを立証する書類 (ⅲ)その他、出願人が指定商品について商標使用を明白に準備していることを立証できる資料 (例)商標と商品を確認できる国家および地方自治団体に提出された法廷書類(医薬品の品目許可申請書等)、出願商標について使用しようとする計画が明確に示されている事業計画書等 |
5.費用
優先審査申請料は、1区分につき16万ウォン(印紙代)を特許庁に納付しなければならない。
6.留意事項
(1) 日本には、同様の制度として早期審査制度があり、早期審査の対象とされる要件において出願人に加えライセンシーによる使用または使用の準備も考慮されるが、韓国の優先審査制度では出願人による使用等のみが要件として考慮され、ライセンシーによる使用等は考慮されない。
また、条文中には「指定商品全部に対して」とあるが、ここでの「商品」には「役務」も含まれる。
(2) 日本の早期審査申請では費用はかからないが、韓国の優先審査制度では費用がかかる。
■ソース
・韓国商標法https://www.law.go.kr/lsSc.do?section=&menuId=1&subMenuId=15&tabMenuId=81&eventGubun=060101&query=%EC%83%81%ED%91%9C%EB%B2%95#undefined(韓国語)
http://www.choipat.com/pds/siryou/choipat_26_20230914.pdf(日本語)
・상표등록출원의 우선심사신청에 관한 고시(商標登録出願の優先審査申請に関する告示(2021.02.05施行 特許庁告示第2021-3号)
https://www.law.go.kr/admRulLsInfoP.do?admRulSeq=2100000198023(韓国語)
https://www.choipat.com/menu31.php?id=198(日本語)
・韓国商標審査基準
https://www.kipo.go.kr/ko/kpoContentView.do?menuCd=SCD0200155(韓国語)
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/notice/2023/dd73cb5c7145f751.html(日本語)
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2023.10.30