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台湾における商品・役務の類否判断について(前編)

2023年12月12日

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■概要
台湾における商標の商品・役務の類否判断に関する事項について、台湾の審査基準に基づいて、日本の実務者はどのように理解すべきかを前・後編に分けて解説する。
(後編:(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/37842/))
■詳細及び留意点

1.はじめに
 台湾智慧財産局(日本の特許庁に相当、以下「知的財産局」という。)は、「誤認混同のおそれに関する審査基準(混淆誤認之虞審查基準)」を制定しており、そこで商品または役務の類否について解説している。ちなみに、知的財産局が、別途、「商品・役務分類及び相互検索参考資料(商品及服務分類暨相互檢索参考資料)」を作成、公開しており、商品・役務の類否判断に際し、重要な参考資料となっている。
 本稿では、主にこの「誤認混同のおそれに関する審査基準」および「商品・役務分類及び相互検索参考資料」を参考にして主題を検討し、商品または役務の類否判断の基本的な考え方、商品間の類否、役務間の類否、商品・役務間の類否、の4点に分けて解説する。

2.基本的な考え方
(1) 台湾の審査手法について
 知的財産局の商標審査実務では、商標が登録できるか否かを審査する際、日本と同様、まずは、①出願商標が識別力を有するか否かを判断し、次いで、②①で識別力を有すると判断した場合、出願商標の指定商品・役務と同一または類似する商品・役務において、同一または類似の先行商標が存在するか否かを調べ、かかる先行商標を発見した場合、最後に、③先行商標と出願商標とを比較対照し、同一または類似するか否かを判断する、という審査手法をとっている。

 ①の識別力の判断に関しては「商標識別性審査基準」に、③の商標の類否判断に関しては「誤認混同のおそれに関する審査基準」に従い、それぞれ判断が行われている。

 ちなみに、商標の標識(mark)が同一または類似を構成し、またその指定商品・役務についても同一または類似関係を有すると判断された場合、次いで、誤認混同を引き起こすおそれがあるか否かについて判断されることになり、その結果、誤認混同のおそれがあると判断された場合、出願商標は拒絶されることになる。

 「誤認混同のおそれに関する審査基準」2.には、基本的に、両商標の標識が同じで、さらに指定商品・役務も全く同じである場合、誤認混同のおそれがあると認められる、と規定されている。ただし、両商標の標識が同一でなく類似を構成し、その商品・役務が同一または類似関係を有する場合、さらに両標識の類似度合いおよび商品・役務の類似度合いを考慮し、「誤認混同のおそれ」があるか否かを判断しなければならない、と規定されている。

 両商標の「標識が類似」および「指定商品・役務が類似」という2つの要素がそろった場合、誤認混同のおそれがないとはいえないが、必然的に誤認混同のおそれがあるといえるものではない。その他の重要な要素の存在により、誤認混同のおそれがないこともあり、例えば、2つの商標が市場において既に長期にわたり並存しており、かつ、いずれも商品・役務の関連消費者に熟知され、容易に区別できる場合、誤認混同のおそれはないと認定される。このように、「標識の類似」および「商品・役務の類似」という要素以外に、誤認混同のおそれの有無に影響しうる他の関連要素が存在するかしないかも考慮されるべきものである。

 前述のように、商品・役務の類否判断の重要な参考資料として、「商品・役務分類及び相互検索参考資料」が作成されている。これは商品・役務が類似するか否かの実務上の判断において極めて重要な参考資料であり、同参考資料によって同じ類似群(類似群コード前4桁が同一)に属するものと、相互検索すべき類似群に属するものであれば、基本的に類似関係を有すると認められるが、商品・役務の類否については、個別案件において一般の社会通念および市場取引の状況を斟酌し、商品・役務の各種の関連要素を考慮しなければならない。

 「誤認混同のおそれに関する審査基準」5.3.3および「商品・役務分類及び相互検索参考資料」によると、通常、類似商品・役務とは、同一もしくは似ている性質・効能・用途を備えていることが一般的である。よって、原則として、商品・役務の類似性を判断する際は、まず、商品・役務の性質・効能・用途から考慮すべきであり、そして、製造者・提供者、それから販売ルート・場所、および消費者層などの要素を考慮すればよい。

 なお、日本国特許庁および日本台湾交流協会は、日本と台湾のそれぞれの商標審査で使用されている類似群コードの対応関係を示す一覧表(日台類似群コード対応表)を作成し、公表しているので参考にされたい。

3.商品間の類否について
(1) 商品間の類否判断における考え方

 台湾における商品の類否判断について、前述のとおり、基本的に「商品・役務分類及び相互検索参考資料」に開示されている同じ類似群(類似群コード前4桁が同一)に属するものと、相互検索すべき類似群に属するものであるか否かをもって行われている。その具体的な判断原則としては、「誤認混同のおそれに関する審査基準」5.3.4、5.3.5において、「商品の性質・効能または用途に関する原則」および「完成品と部品、原料または半製品に関する原則」という2つが規定されている。

① 商品の性質・効能または用途に関する原則
 商品の性質とは、商品の本質または特性を指す。例えば、「新鮮な果物」と「コーヒー」は、いずれも食用できる商品であるが、性質が異なる。一方、「炭酸水」と「ジュース」は、いずれも飲み物で、性質が同じである。
 商品の効能または用途とは、主な使用予定の目的を指しており、使用可能な方法ではないので、一般の社会通念により判断されるべきである。例えば、「スリッパ」の効能・用途は足元を保護し、歩くことを補助することであって、ゴキブリを殺すことではない。よって、「スリッパ」と「ゴキブリ駆除器」は、性質が異なる商品である。同一の効能・用途を有する商品とは、例えば、「ボールペン」と「万年筆」のように、書くことが主な効能または用途であり、書くために使用されることによって消費者の需要を満足させるものである。

 同審査基準では、更に「相互補完効能を有する商品」と「コーディネートして使用される商品」という2つの類型が取り上げられている。

A.「相互補完効能を有する商品」:
 「万年筆」と「万年筆のインク」のように、消費者群が同一で、片方がないと、他方も影響を受け、一緒に使用する必要があり、互いに補い合うことにより、共同で消費者の特定の要求を満たすことができる商品をいう。相互補完関係が密接になればなるほど、類似程度も高くなる。
 相互補完効能は、原則的に商品の使用のみに適用され、商品の製造過程には適用されない。また、完成品とその部品の間に類似関係があるとは限らない。(下記②を参照)
B.「コーディネートして使用される商品」:
 2つの商品がコーディネートして使用されることは、概念上、相互補完関係を有することとは異なり、例えば、第9類の「眼鏡」と第14類の「宝石」は、スタイリングとコーディネートとして併せて使用される可能性があるが、両者の性質および主な用途は異なるので、類似商品とは認められない。「眼鏡」の主な目的は視力改善用で、「宝石」はアクセサリーとして付けられるもので、両者は販売ルートが異なるほか、競争性も相互補完関係も有さないと認められる。一方、第25類の「被服」と「靴」は、いずれも体を保護するために、通常コーディネートして使用される商品である。消費者が「被服」を買うときに、同じ売り場で「靴」が見つかることを期待でき、両者が同一業者により製造されることもよくあることから、類似関係があると認定される。

② 完成品と部品、原料または半製品に関する原則
 商品自体とその製造材料には、必ずしも類似関係があるわけではない。当該材料が他人により製造・販売され、消費者は商品と材料が異なる出所であることを知っている場合、またはある材料が製造過程においてのみ使用され、一般人が買うことのできない場合、類似関係はないと認められる。
 商品自体とその部品または半製品とが必要な依存関係を有する場合、例えば、部品または半製品がなければ、商品の経済上の使用目的を達成できない場合は、類似商品として認められる可能性が高くなる。例えば、「電気式歯ブラシ」と「電気式歯ブラシ用ヘッド」、「自動車」と「自動車用リム」がその例である。
 一方、「皮革」と「皮革製被服;皮革製靴」のように、当該部品または半製品が製造過程において著しく変化し、完成品とは、その性質・用途、または消費者層・販売ルートも大きく異なる場合、前者(半製品)の購買者は製造産業であって、通常、消費者が直接買うことはなく、その販売ルートや消費者層も後者(完成品)とは異なるので、類似商品ではない。また、当該部品または半製品があらゆる商品に使われる場合、原則的に商品自体と類似しないと認められる。例えば、「酵母」と「パン」、「卵」と「ケーキ」も類似商品ではない。
 また、上記のほか、両商品が同一の製造業者に由来するものである場合、類似関係を有すると認定される可能性は高い。例えば、第27類の「カーペット」と第24類の「タペストリー」、第9類の「電子出版物」と第16類の「本;雑誌」がその例である。
 一方、両商品の販売ルートや売り場が同じであっても、類似関係があるとは限らない。例えば、第21類の「お皿;コップ」と第24類の「マットレスカバー;布団カバー」は、同じ売り場で販売されるにもかかわらず、商品の性質・効能または用途に差異が大きく、製造者も異なるので、類似しないと認められる。しかし、第7類の「家庭用ミキサー」と第11類の「電気コーヒー沸かし」は、同じ家電エリアで販売されるものなので、類似商品として認められる。

(2) 類見出し(Class Heading)の取り扱いについて
 台湾では、類見出し(クラスヘッディング)の表記が認められているものもあれば、認められないものもある。「商品・役務分類及び相互検索参考資料」によると、類見出しの前に「#」記号を付けているものは、範囲が広すぎるため表記として認められないものであり、具体的な商品を指定しなければならない。

(3) 商品名を指定する際の留意事項について
 「商標登録出願の方式審査基準(商標註冊申請案件程序審查基準)」2.1には、商品名を指定するときに、必ず具体的に指定しなければならず、「他の区分に属さない全ての商品」、「本区分に属する全ての商品」という範囲が広すぎる表記を指定することができない、と示されている。例えば、「台所用具」は、範囲が広すぎて不明確であるため、具体的に第8類の「台所用ナイフ」、第11類の「電気式ケトル」、または第21類の「コップ」を指定することが考えられる。
 実務上、日本の商標実務者は、「電子応用機械器具及びその部品」、「測定装置」など日本で認められている商品を指定しがちであるが、台湾では、それらの範囲は広すぎて不明確であるとして、具体的に列挙するよう補正を求められる。
 また、台湾の商標登録出願の政府手数料は、指定する商品が20個までの場合はNT$3,000となり、20個を超える場合は、1個ごとに政府手数料(割増料金)NT$200を納付する必要がある。よって、費用の面から、商品数は20個以内に抑えることも考えられる。
 商品個数の計算基準として「商品と特定商品の小売・卸売の個数計算原則及び例示(商品及特定商品零售服務個數計算原則及例示)」が定められている。例えば、一つの商品に、形状/用途を説明する形容詞を付ける場合、形状/用途の数により個数が異なり、「粉状・粒状・ペースト状のプラスチック」の場合は計3個で、「写真複写機用及びプリンター用カートリッジ」の場合は計2個となる。
 指定商品・役務の表現および所属区分は、実務変更により変わるほか、審査官により取り扱いも異なり、同一名称が過去に認められたことがあっても、後願で認められない場合もある。最新情報は、知的財産局の下記データベース、「商品・役務名分類照会(商品及服務名稱分類査詢)」を参照されたい。
(後編に続く)

■ソース
・商標識別性審査基準(商標識別性審查基準)
https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/cp-517-860259-f5cf9-201.html(中国語)
https://chizai.tw/wp-content/uploads/2023/03/商標識別性審査基準(2022年9月1日改訂).pdf(日本語)
・誤認混同のおそれに関する審査基準(混淆誤認之虞審查基準)
https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/dl-280016-cfbd6f2d0de04a86b65a061645abc68d.html(中国語)
https://chizai.tw/wp-content/uploads/2022/12/商標誤認混同のおそれ審査基準(2021年10月27日発効).pdf(日本語)
・商品・役務分類及び相互検索参考資料(商品及服務分類暨相互檢索参考資料)
https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/lp-653-201-1-20.html
・日台類似群コード対応表(ニース国際分類[第11-2022版]対応)の公表について
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/bunrui/kokusai/jpo_tipo-ruiji2022.html
・商品・役務名分類照会(商品及服務名稱分類査詢)
https://cloud.tipo.gov.tw/S282/OS0/OS0303.jsp?l6=zh_TW&isReadBulletinen_US=&isReadBulletinzh_TW=true
■本文書の作成者
理律法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.09.07

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