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アジア / 出願実務


中国出願時の翻訳留意事項

2013年09月24日

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■概要
パリルート、PCTルート、いずれの場合にも、外国語書面を基礎として中国に出願する場合、中国語への翻訳が必要となる。日本語と中国語は語彙から文法まで大きな違いがあり、言語習慣も異なるため、翻訳作業は言葉の簡単な変換ではなく、翻訳担当者が原文を十分に理解した上で、中国語で改めて表現する作業である。特に、オープン形式、クローズド形式、多義的言葉の意味、主語と述語の関係などに留意しなければならない。
■詳細及び留意点

 クレームに誤訳がある場合、技術的範囲が不明確になり、ひいては出願人の意図する技術的範囲とは異なるものになってしまうことがある。

 中国では訂正審判制度がないため、誤訳が残った状態で登録されると、登録後に訂正を行う機会はない。また、誤訳によって権利が無効になる、または、権利行使が不可能になることもある。

 したがって、翻訳作業においては誤訳がないように留意しなければならない。以下、日本語から中国語への翻訳における主な留意事項を紹介する。

 

(1) 特にクレームの翻訳において、オープン形式か、クローズド形式かを十分意識して翻訳しなければならない。

 例えば、「~からなる」という表現は、中国語に翻訳されるとき、クローズド形式に誤訳されやすい。

 

(2) 日本語には多義的な言葉がある。このような言葉については、誤訳が発生しやすい。

 例えば、日本語の「ベンジル」は英語の「benzyl」と「benzil」の両方に対応する。このような言葉を中国語に翻訳する際に、前後の文脈に照らしてその意味が何なのかを正確に把握した上で翻訳すべきである。また、音訳が同じになる外来語については、括弧書きで原文を表示することも一策である。

 

(3) 複数の限定語がある場合、中国語表現の語順は日本語表現と異なることがある。

 例えば、「ワークの一部を加熱する。加熱されたワークにおける部分を冷却する。」という文章において、「加熱されたワークにおける部分」は「工件的(ワークにおける)被加热的(加熱された)部分」と翻訳すべきである。この例で、日本語の語順のままで「被加热的工件的部分」と翻訳した場合、場合によっては意味が異なってしまう可能性がある。

 

(4) 中国語の文章において、述語は、日本語の場合とは異なり、文章の最後ではなく主語の直後にある。そのため、日本語の長い文章を中国語に翻訳する場合、文章の最後まで読んでから翻訳しなければ、文の区切りの間違いによる誤訳が発生しやすい。

 例えば、「圧力P1が大気圧を超える場合、バルブを開放させて排気するように装置が構成される」という文章は、「在压力P1高于大气压时,将装置构造成打开阀门进行放气(圧力P1が大気圧を超える場合、装置は、バルブを開放させて排気するように構成される)」と誤訳されやすいが、「将装置构造成,在压力P1高于大气压时打开阀门进行放气(装置は、圧力P1が大気圧を超える場合にバルブを開放させて排気するように構成される)」が正しい翻訳である。文章が長いほど、また区切りが多いほど、このような誤訳が起こりやすい。

 

(5) 同じ文法でも、脈絡によって意味が異なる場合が多いため、適切な訳語を選んで翻訳しなければならない。

 例えば、「ために」は、理由・原因を表す場合には「由于」に翻訳すべきであり、目的を表す場合には「为了」に翻訳すべきである。

 

(6) 時の表現に留意すべきである。

 例えば、日本語の「し、」「して」が動作の前後順序を表さない場合に、前後順序があるように翻訳すると、余計な限定になってしまうので、注意しなければならない。

例えば、「撹拌して加熱する」という文を「搅拌后加热」と翻訳すれば、「撹拌してから加熱する」という意味になるが、「搅拌并加热」と翻訳すれば、動作の順序は特に限定されないと解される。

■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター
■本文書の作成時期

2013.01.22

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