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中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(後編)

2023年05月11日

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■概要
(本記事は、2024/10/24に更新しています。)
 URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/40112/

中国の審査基準(専利審査指南)のうち進歩性(創造性)に関する事項について、日本の審査基準と比較して留意すべき点を中心に前編・後編に分けて紹介する。ただし、本稿では、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。また、発明の認定・対比などについては、「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点」を参照されたい。後編では、進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明について解説する。進歩性に関する法令等の記載個所、進歩性判断の基本的な考え方、用語の定義については「中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(前編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/34480/)をご覧ください。
■詳細及び留意点

 進歩性に関する法令等の記載個所、進歩性判断の基本的な考え方、用語の定義については「中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(前編)」をご覧ください。

4.進歩性の具体的な判断
4-1.具体的な判断手順

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3. 進歩性の具体的な判断」に記載された「(1)から(4)までの手順」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法

(2) 異なる事項または留意点
 前編で述べたとおり、「三歩法」のステップ1(最も近似した現有技術を確定)では、まず技術分野が同一または近似した現有技術を優先的に考慮し、次に発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術を考慮する。同一または近似した現有技術が無かった場合には、技術分野が異なるけれども発明の功能(効果)が実現できかつ発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術を考慮する。さらに、従属請求項も含めて最も近似した現有技術を確定してもよい。ただし、「発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術」が同一または近似した技術分野から発見される頻度が高いことを割り引いて考えると、実務上は、技術分野にかかわらず、「発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術」を選択する傾向が多いとみることもできる。
 「三歩法」のステップ2(発明の区別される技術特徴および発明で実際に解決する技術問題の確定)では、最も近似した現有技術に基づいて発明の区別される技術特徴を確定し、これに基づいて発明の解決しようとする技術問題を確定する。ただし、審査段階での最も近似した現有技術に基づいた技術問題と発明に記載した技術問題とが異なる場合には、審査官が確定した最も近似した現有技術に基づいて技術問題を改めて確定する。
 「三歩法」のステップ3(自明か否かの判断)では、現有技術を全体として、ある技術的示唆が存在するか否かを判断する。以下の場合には技術的示唆があると考えられる。

  1. 区別される技術特徴が公知の常識である。
  2. 区別される技術特徴が最も近似した現有技術の他の部分に記載されかつ作用が同じである。

 また、実務上は以下の場合にも技術的示唆があると判断されている。

  1. 区別される技術特徴が他の現有技術に記載されかつ作用が同じである。
  2. 区別される技術特徴とは異なるけど作用が同一または近似しかつ改良後に最も近似した現有技術に応用できる。
  3. 現有技術には示唆が無いけれども属する技術分野の技術者が既知の技術手段に基づいて最も近似した現有技術を改良する動機がある。

4-2.進歩性が否定される方向に働く要素
4-2-1.課題の共通性

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(2) 課題の共通性」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法の(3)の(iii)

(2) 異なる事項または留意点
 文言上の課題が共通すれば技術的示唆があるとまでは言い切れないが、下記の例で示すとおり、課題(技術問題)が同じである前提で作用が同じであると、技術的示唆があると判断できる。

 【例】
 保護を請求する発明は「ブレーキ表面を清浄するために使用する水を排出するための排水溝を設けたグラファイトディスクブレーキ」である。発明が解決しようとする技術問題は、摩擦によって発生する制動を妨害するブレーキ表面のグラファイト屑をどのように清浄するかである。対比文献1は「グラファイトディスクブレーキ」を記載している。対比文献2は「金属ディスクブレーキに設けた該ブレーキ表面に付着した埃を洗い流すための排水溝」を開示している。
 保護を請求する発明と対比文献1の区別点は、この発明がグラファイトブレーキの表面に凹溝を設けていることであるが、この区別される技術特徴は対比文献2に開示されている。対比文献1のグラファイトディスクブレーキは摩擦によってブレーキ表面に屑を発生させ、制動が妨害される。対比文献2の金属ディスクブレーキは表面に埃が付着することによって制動が妨害される。制動の妨害という技術問題を解決するために、前者は屑を取り除き、後者は埃を取り除く必要がある。これは性質が同一な技術問題になる。グラファイトディスクブレーキの制動問題を解決するために、その分野の技術者は対比文献2の示唆に基づき水で洗い流すこと、そして凹状溝をグラファイトディスクブレーキに設け、屑を洗い流した水を凹溝から排出することを容易に想到できる。対比文献2の凹状溝の役目と発明が保護を請求する技術方案(*)の凹状溝の役目は同じであるため、その分野の技術者には対比文献1と対比文献2を組み合わせて、この発明の技術方案を得ることに動機付けられる。従って、現有技術に前述の技術的示唆が存在すると考えられる。

(*) 日本語の技術的解決手段に相当。

4-2-2.作用、機能の共通性
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(3) 作用、機能の共通性」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法の(3)の(iii)

(2) 異なる事項または留意点
 最も近似した現有技術と区別される技術特徴が別の対比文献(副引用例)に開示されている関連の技術手段であり、当該技術手段がこの対比文献において果たす役目が、その区別される技術特徴が保護を請求する発明において改めて確定された技術問題を解決するための役目と同じである場合には、自明であると判断される。

4-2-3.引用発明の内容中の示唆
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(4) 引用発明の内容中の示唆」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法の(3)

(2) 異なる事項または留意点
 現有技術の中から、区別される技術特徴を最も近似した現有技術に適用することにより、そこに存在する技術問題(即ち、発明で実際に解決する技術問題)を解決するための示唆が示されているか否かに基づいて自明であるかを判断する。
 審査指南によれば、以下に挙げられる状況は通常、現有技術に前述の技術的示唆が存在すると考えられる。

(i) 区別される技術特徴は公知の常識である。例えば、当分野において、当該改めて確定された技術問題を解決する通常の手段、或いは教科書や参考書などで開示されたその改めて確定された技術問題を解決するための技術手段など。
(ii) 区別される技術特徴は最も近似した現有技術と関連する技術手段である。例えば、同一の対比文献のその他の部分に開示された技術手段が当該その他の部分で果たす役目は、その区別される技術特徴が保護を請求する発明の中においてその改めて確定された技術問題を解決するための役目と同じである場合など。
(iii) 区別される技術特徴は別の対比文献に開示されている関連の技術手段であり、当該技術手段がこの対比文献において果たす役目が、その区別される技術特徴が保護を請求する発明においてその改めて確定された技術問題を解決するための役目と同じである。

 一方、実務上は、前記の(i)~(iii)以外に、以下の事項も考えられる。

(iv) 他の対比文献に区別される技術特徴とは異なる技術手段が開示され、区別される技術特徴と同一または類似した役目を果たし、属する技術分野の技術者が公知となっている変化または公知となっている原理を利用して該当技術手段に対して改良して最も近似した現有技術に応用して発明が得られ、予測できる効果が得られる。
(v) 現有技術には示唆が無いが、属する技術分野の公認的な問題解決するまたは通常存在するニーズを満たす目的から、より安い、よりきれい、より早い、より軽い、より耐久的またはより有効的な顧慮を鑑み、属する技術分野の技術者が既知の技術手段によって最も近似した現有技術を改良して発明が得られ、予測できる効果が得られる。

 実務上は、以下に挙げられる状況は通常、現有技術に前述の技術的示唆が存在しないと考えられる。

(i) 区別される技術特徴は他の最も近似した現有技術に開示されているが、発明及び/または現有技術の示唆に基づいて、該当技術特徴の役割は区別される技術特徴が保護を請求する発明の中においてその技術問題を解決するための役割と異なる。
(ii) 区別される技術特徴は他の対比する文献に開示されているが、該当技術特徴が現有技術で果たす役割と発明で果たす役割とが異なる。
(iii) 区別される技術特徴は他の対比する文献に開示され、該当技術特徴が現有技術で果たす役割と発明で果たす役割とが同じであるが、該当技術特徴を最も近似した現有技術に応用するには技術的な障害がある。
(iv) 最も近似した現有技術の他の部分または他の対比する文献が発明と反対の示唆をしている。

4-2-4.技術分野の関連性
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(1) 技術分野の関連性」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.1 審査の原則
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法
 専利審査指南第二部分第四章4.4 転用発明

(2) 異なる事項または留意点
 発明に進歩性を具備しているかどうかを評価するときには、発明の技術方案(技術的解決手段)そのもののみならず、発明が属する技術分野、解決しようとする技術問題、得られる技術効果も考慮し、発明を1つの完全体としてみなければならないとされている。
そして、最も近似した現有技術を確定するときに、先ずは技術分野が同一または近似する現有技術を考慮しなければならない。
 実務上は、対比する文献を必ず全体として考慮し、公開された技術方案だけではなく、属する技術分野、解決する技術問題、得られる技術効果、技術方案の機能や原理、各技術特徴の選択/改良/変形等を注意すべきであり、全体として現有技術が与えた示唆を理解すべきである。すなわち、実務上でも属する技術分野に関する判断が最初の考慮要素となっている。

4-2-5.設計変更
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(1) 設計変更等」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.6 要素変更の発明

(2) 異なる事項または留意点
 日本の設計変更に類似する概念として、「要素変更の発明」が挙げられる。
 要素変更の発明には、要素関係が変化された発明(発明の形状、寸法、比例、位置及び作用関係などの変化)、要素が置換された発明(公知となった製品または方法のある要素が他の公知となった要素によって置換)、要素関係の省略の発明(公知となった製品または方法の中にある1つまたは複数の要素の省略)が含まれる。これらの進歩性判断基準は、「専利審査指南第二部分第四章4.6 要素変更の発明」に記載されている。
 「要素変更の発明」だからといって一律に進歩性が否定されるわけではない。判断に際しては、要素関係の変化、要素の代替と省略に技術示唆が存在しているかどうか、その技術効果は予測できるものかどうかなどを考慮する必要がある。

4-2-6.先行技術の単なる寄せ集め
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(2) 先行技術の単なる寄せ集め」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.2 組合せ発明

(2) 異なる事項または留意点
 組合せ発明において、総体的な技術効果が組み合わせた各部分の効果の総和であり、組み合わせた後の各技術特徴同士に機能上相互作用の関係がなく、単純な重ね合わせにすぎないと判断される場合、あるいは、組み合わせが単に公知の構造の変形、または組み合わせが通常の技術の発展の延長線上の範囲にありかつ予測できない技術効果が得られないと判断される場合、進歩性を具備しない。
 逆にいえば、組み合わせた後の発明の技術効果が予測できない技術効果であるあるいは組み合わせた各部分の効果の総和を超える場合には、該当組合せ発明の進歩性が認められる可能性がある。

4-3.進歩性が肯定される方向に働く要素
4-3-1.引用発明と比較した有利な効果

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.2 顕著な進歩の判断
 専利審査指南第二部分第四章5.3 予想できない技術効果を挙げた発明の場合

(2) 異なる事項または留意点
 対比文献と比較して有利な技術効果があると主張する場合、該当技術効果は「区別される技術特徴」によるものであることが前提となる。ただし、審査段階での「区別される技術特徴」と、出願段階での「区別される技術特徴」とが異なることが多いので、有利な技術効果が明細書に記載されていないケースも多くある。この場合、化学分野における技術効果のように実験データでサポートする必要があるケースを除き、実務上は、意見書のみの主張でも認められる可能性が高い。

4-3-2.意見書等で主張された効果の参酌
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(2) 意見書等で主張された効果の参酌」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第十章3.5 実験データの補足提出について(局公告 第391号参照)

(2) 異なる事項または留意点
 「専利審査指南第二部分第十章3.5 実験データの補足提出について」によると、出願日の後、出願人が専利法第22条第3項、第26条第3項等の要件を満たすために実験データを補足提出した場合、審査官は考慮しなければならない。ただし、補足提出した実験データが証明する技術効果は、属する技術分野の技術者が専利出願の公開内容から得られるものでなければならない。
 すなわち、出願日後の実験データの補足提出を全て認めるわけではなく、該当実験データが証明しようとする技術効果が明細書に明確に記載されているか、属する技術分野の技術者が専利出願の公開内容から得られるものでなければならない。

4-3-3.阻害要因
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.2.2 阻害要因」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章5.2 技術偏見を克服した発明の場合

(2) 異なる事項または留意点
 実務上は、区別される技術特徴が果たす役割と、他の対比文献(副引用例)に開示された対応する技術特徴が現有技術で果たす役割とが同じであるとしても、他の対比文献に開示された対応する技術特徴を最も近似した現有技術に応用するには技術的障害がある場合は、技術的示唆が無いと判断される。さらに、最も近似した現有技術の他の部分または他の対比文献が発明と反対の示唆をした場合には技的術障害があり、技術的示唆が無いと判断される。

4-3-4.その他
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章5 発明の創造性を判断する時に考慮すべきその他の要素

(2) 異なる事項または留意点
 以下の場合には、進歩性が認められる。

(i) 人々がずっと解決を渇望していたが、始終成功が得られなかった技術的難題を解決した発明の場合
(ii) 技術偏見を克服した発明の場合
(iii) 予想できない技術効果を挙げた発明の場合
(iv) 商業上の成功を遂げた発明の場合

4-4.その他の留意事項
4-4-1.後知恵

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」でいう「後知恵」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章6.2 「後知恵」を避ける

(2) 異なる事項または留意点
 実務上、「三歩法」で進歩性を判断することは、審査官が客観的な角度で進歩性を評価するためである。そのため、「三歩法」の判断において発明が解決しようとする技術問題を新たに確定する際に、技術手段を技術問題の一部にしてはならない。このようにすることは、日本でいう「動機づけ」の中に「課題解決手段」を含めてしまうことに他ならないから、「後知恵」とみなされる。
 発明者は様々な方法で現有技術に基づいて発明を完成するので、発明の形成過程を理解することは進歩性の判断に役立つ。新しい考案やまだ認識されてない技術問題に対する認識、既知の技術問題のために新たな解決手段を設計することに対する認識、既知現象の内在原因を発見することに対する認識は、いずれも発明の出発点として利用できる。

4-4-2.主引用発明の選択
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(2)でいう「主引用発明」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.2.1.1 判断方法(1) 最も近似した現有技術を確定する

(2) 異なる事項または留意点
 専利審査指南第二部分第四章「3.2.1.1 判断方法(1)最も近似した現有技術を確定する」には、次のとおり記載されている。

 最も近似した現有技術とは、現有技術において保護を請求する発明と最も密接に関連している1つの技術方案(技術的解決手段)を言う。これは、発明に突出した実質的特徴を有するかどうかを判断する基礎になる。最も近似した現有技術は、例えば、保護を請求する発明の技術分野と同一であり、解決しようとする技術問題、技術効果又は用途が最も近似し、及び/又は発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術、若しくは、保護を請求する発明の技術分野とは違うが、発明の機能を実現でき、かつ発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術など。注意されたいのは、最も近似した現有技術を確定する時に、先ずは技術分野が同一又は近似した現有技術を考慮しなければならない。

 ただし、実務上は、最も近似した現有技術の確定は、属する技術分野、解決する技術問題、技術効果または用途、公開された技術特徴の四つの面で考慮すべきである。
 通常は、以下の順番に基づいて最も近似した現有技術が確定される。

(i) 技術分野が同じまたは近似した現有技術を優先的に考慮する。技術分野が同じまたは近似した際には、解決しようとする技術問題、技術効果または用途が最も近似した現有技術を優先的に考慮し、次に開示する技術特徴が最も多い現有技術を優先的に考慮する。
(ii) 技術分野が同じまたは近似した現有技術が無い際には、技術分野が異なるけど発明の功能が実現できかつ発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術を考慮する。さらに、従属請求項も含めて最も近似した現有技術を確定してもよい。
 なお、以前は発明での先行技術文献を最も近似した現有技術として確定した後、区別される技術特徴を公知な常識、慣用手段、常用技術と判断して進歩性を否定する傾向があったが、最近はこのような拒絶理由が明らかに少なくなっていることから、内部規程などで禁止されていると予測する。

4-4-3.周知技術と論理付け
 前編の「3-3. 周知技術及び慣用技術」を参照。

4-4-4.現有技術
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)の意見募集時には、「第十三条 明細書に記載された背景技術は専利法第二十二条第五項に規定された現有技術とはみなさないが、出願日前に国内外で公衆に知られたことを証明できる証拠があることは除く。」という条目があった。
 この背景としては、実用新案(出願番号:99225557.0)の無効審理に関する行政訴訟の二審判決((2005)高行終字第441号)(https://aiqicha.baidu.com/wenshu?wenshuId=9affc27dd7026b372aab4f3090a001e815ce98c6)において、出願人の主張をそのまま受け取るのではなく、証拠の提出を要求するか、職務によって調査すべきであると判示されたことが挙げられる。
 しかしながら、正式に施行された司法解釈では、この第十三条の内容が削除されている。削除の理由としては、上述の項目が法理的にまたは論理的に間違っているためではなく、この問題が一般的な現象であり、突出した現象ではないので、司法解釈で決めるほどではなかったことが考えられる。

4-4-5.物の発明と製造方法・用途の発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の「(5) 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法及びその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.5 公知となった製品の新しい用途発明

(2) 異なる事項または留意点
 化学や医薬分野には製造方法・用途発明に関する特別な規定があるが、通常の審査には特に無い。また、物の進歩性が認められると、通常、その製造方法や用途の進歩性も認められる点は日本と同様である。

4-4-6.商業的成功などの考慮
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(6)でいう「商業的成功」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章5.4 商業上の成功を遂げた発明の場合

(2) 異なる事項または留意点
 商業的成功の主張を実際の審査段階や審判段階において複数回試みたことがあるが、商業的成功が発明の技術特徴により直接にもたらしたものであることが認められた案件は稀である。すなわち、ある製品の商業上の成功は販売技術の改善や広告宣伝などにより証明できるが、これらを根拠としても、該当製品における発明が突出した実質的特徴と顕著な進歩を有し、進歩性を具備することは証明できない。

5.数値限定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 数値限定については、新規性判断時の数値限定とほぼ同じ判断が行われている。すなわち、日本の審査基準とは異なり、数値範囲が公開されず明細書に臨界値の技術効果が記載されていれば、その進歩性が認められる傾向にある。

6.選択発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「7. 選択発明」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章4.3 選択発明

(2) 異なる事項または留意点
 日本の審査基準では、請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が、(i) その効果が刊行物等に記載又は掲載されていない有利なものであること、(ii) その効果が刊行物等において上位概念又は選択肢で表現された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際立って優れたものであること、(iii) その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないことの全てを満たす場合に進歩性を有すると判断されるが、中国の場合には、日本の条件(iii)のみを満たせば進歩性が認められる。
 極端にいうと、選択したことにより発明で予測できない技術効果さえ得られれば、その技術効果が有利である否か優れるか否かに関係なく、その進歩性が認められる。

■ソース
・専利審査指南2010(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201.pdf ・専利審査指南2010(原文)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/section20100201.pdf ・「専利審査指南」の改正に関する国家知識産権局の決定 (局公告)第 391 号(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20210115.pdf ・最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)(原文)
https://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-254761.html ・専利の権利付与・権利確定に関わる行政事件の審理における若干の問題に関する最高人民 法院の規定(一)(意見募集稿)(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/opinion/20200428_1.pdf ・(2005)高行終字第441号
https://aiqicha.baidu.com/wenshu?wenshuId=9affc27dd7026b372aab4f3090a001e815ce98c6 ・日本の審査基準(第III部 第2章 第2節 進歩性)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0202bm.pdf#page=1 ・日本の審査基準(第III部 第2章 第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0204bm.pdf#page=14
「参考情報」
・「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33728/ ・「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33755/
■本文書の作成者
北京銀龍知識産権代理有限公司
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.01.06

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