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中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(前編)

2023年05月11日

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■概要
中国の審査基準(専利審査指南)のうち進歩性(創造性)に関する事項について、日本の審査基準と比較して留意すべき点を中心に前編・後編に分けて紹介する。ただし、本稿では、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。また、発明の認定・対比などについては、「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点」を参照されたい。前編では、進歩性に関する法令等の記載個所、進歩性判断の基本的な考え方、用語の定義について解説する。進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明については「中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(後編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/34483/)をご覧ください。
■詳細及び留意点

1.はじめに
1-1.法律について

 日本の進歩性(特許法第29条第2項)に対応する規定は、専利法第22条に記載されている(下線部)。

第二十二条 専利権を付与する発明及び実用新案は、新規性及び創造性、実用性を具備していなければならない。
 新規性とは、当該発明又は実用新案が既存技術に属さないこと、いかなる単位又は個人も同様の発明又は実用新案について、出願日以前に国務院専利行政部門に出願しておらず、かつ出願日以降に公開された専利出願文書又は公告の専利文書において記載されていないことを指す。
 創造性とは、既存技術と比べて当該発明に突出した実質的特徴及び顕著な進歩があり、当該実用新案に実質的特徴及び進歩があることを指す。
 実用性とは、当該発明又は実用新案が製造又は使用に堪え、かつ積極的な効果を生むことができることを指す。
 本法でいう既存技術とは、出願日以前に国内外において公然知られた技術を指す。

 なお、実用新案の「創造性」は、発明の「突出した実質的特徴」及び「顕著な進歩」に比べて判断レベルが低く、「突出した」及び「顕著な」という条件が省かれたものとなっている。

1-2.用語について
 中国では、日本の「特許・実用新案審査基準」及び「進歩性」に対応するものは、それぞれ「専利審査指南」(专利审查指南)及び「創造性」(创造性)と呼ばれる。

1-3.記載個所
 創造性(専利法第22条第3項)については、専利審査指南の第二部分第四章に記載されている。

第四章 創造性
1. 序文
2. 発明の創造性の概念
 2.1 現有技術
 2.2 突出した実質的特徴
 2.3 顕著な進歩
 2.4 属する技術分野の技術者
3. 発明の創造性の審査
 3.1 審査の原則
 3.2 審査基準
  3.2.1 突出した実質的特徴の判断
   3.2.1.1 判断方法
   3.2.1.2 判断の例示
  3.2.2 顕著な進歩の判断
4. カテゴリーの異なる幾つかの発明の創造性の判断
 4.1 パイオニア発明
 4.2 組合せ発明
 4.3 選択発明
 4.4 転用発明
 4.5 公知となった製品の新しい用途発明
 4.6 要素変更の発明
  4.6.1 要素関係が変化された発明
  4.6.2 要素が置換された発明
  4.6.3 要素関係の省略の発明
5. 発明の創造性を判断する時に考慮すべきその他の要素
 5.1 人々がずっと解決を渇望していたが、始終成功が得られなかった技術的難題を解決した発明の場合
 5.2 技術偏見を克服した発明の場合
 5.3 予想できない技術効果を挙げた発明の場合
 5.4 商業上の成功を遂げた発明の場合
6. 創造性の審査で注意すべき問題
 6.1 発明創造の由来
 6.2 「後知恵」を避ける
 6.3 予想できない技術効果に対する考慮
 6.4 保護を請求する発明に対する審査

 以下、「創造性」も含めて「進歩性」と表記する。

2.進歩性判断の基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章3.1 審査の原則

(2) 異なる事項または留意点に関する説明
 発明の進歩性の判断においては、現有技術に対する「突出した実質的特徴」および「顕著な進歩」が審査されるが、実務上、「顕著な進歩がない」という理由のみで拒絶理由が通知されることはない。
 まず、進歩性の審査のうち「突出した実質的特徴」の判断では、3つの手順(実務では「三歩法」と呼んでいる)が採用される(専利審査指南(第二部分第四章)3.2.1)。「三歩法」によると、進歩性の判断は、[ステップ1]最も近似した現有技術を確定する、[ステップ2]発明の区別される技術的特徴及び実際に解決する技術問題を確定する、[ステップ3]保護を請求する発明がその分野の技術者にとって自明か否かを判断する(以降、「自明か否かの判断」という)、という順番に従って行われる。
 ここで、「三歩法」のステップ1では、まず技術分野が同一または近似した現有技術を優先的に考慮し、次に発明の技術特徴を最も多く開示している現有技術を考慮する。ステップ2では、審査官が認定する最も近似した現有技術と出願人が説明書(明細書)において説明している現有技術とが異なる可能性があるところ、異なる場合には、審査官が確定した最も近似した現有技術に基づいて技術問題を改めて確定する。ステップ3では、現有技術を全体として踏まえてみて、何らかの技術的示唆が存在するか否かにより自明か否かの判断を行う。
 進歩性の審査では「顕著な進歩」も判断されるが、ステップ3は「最も近似した現有技術の確定」(ステップ1)および「発明の区別される特徴及び実際に解決する技術問題の確定」(ステップ2)が前提となる。そして、ステップ2における「発明の区別される技術特徴および発明で実際に解決する技術問題の確定」は、「突出した実質的特徴」の判断ポイントであるから、「突出した実質的特徴がある」と判断されつつ「顕著な進歩がない」と判断され、「顕著な進歩がない」というだけの拒絶理由が通知されることは想定困難である(*)
 なお、実務上、進歩性を判断する際に、「予想できない技術効果」があると進歩性を有していると判断することは十分考えられるが、「予想できない技術効果」がないという理由のみで進歩性を有していないという結論を出してはならない点は、日本と同様である。

(*) 顕著な進歩の判断基準は、以下のとおりであり、日本でいう「顕著な効果」とは異なるものである(専利審査指南(第二部分第四章)3.2.2)。

(1) 発明は現有技術に比べて、より良好な技術効果を有する。例えば、品質の改善、生産量の向上、エネルギーの節約、環境汚染の防止と処置など。
(2) 発明で技術的構想が違う技術方案が提供されており、その技術効果はほぼ現有技術の水準に達している。
(3) 発明はある新規な技術発展の傾向を表している。
(4) ある側面においてマイナス効果も有するが、発明はその他の側面において明らかに積極的な技術効果を有する。

 「三歩法」のステップ2ないしステップ3に至るような事案で、上記(2)~(4)のように評価できないことは稀であろう。

3.用語の定義
3-1.当業者

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第二部分第四章2.4 属する技術分野の技術者

(2) 異なる事項または留意点
 日本の審査基準では、当業者として「材料の選択、設計変更等の通常の創作能力を発揮できる複数の技術分野からの専門家からなるチーム」が挙げられているが、専利審査指南にこのような記載はない。日本の審査基準とは異なり、中国における「属する技術分野の技術者」は、属する技術分野における出願日または優先権日以前の通常の実験の手段を適用する能力を有するが、創造能力は有しないものである。すなわち、中国での「属する技術分野の技術者」は、属する技術分野における出願日または優先権日以前の現有技術以上に創造能力を発揮できないものである。
 ただし、解決しようとする技術問題に他の技術分野から技術手段を探すことの示唆があった場合、属する技術分野の技術者は他の技術分野から技術手段を得る能力も有する。すなわち、「発明の属する技術の分野」に限られない。

3-2.技術常識及び技術水準
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「技術常識」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 技術常識及び技術水準について明確な定義はないが、「現有技術」の枠内で「創造能力」を発揮せずに得られるものは全て「現有技術」に含まれる。

3-3.周知技術及び慣用技術
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「周知技術」に対応する専利審査指南(中国)の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第四部分第八章4.3.3 公知常識
 専利審査指南第二部分第三章3.2.3 慣用手段を直接置換えた場合

(2) 異なる事項または留意点
 「専利審査指南第四部分第八章4.3.3 公知な常識」によると、「公知な常識」は教科書または技術用語辞書、技術マニュアルなどの参考図書に記載された内容を含んでいるが、これらに限られていない。
 「専利審査指南第二部分第三章3.2.3 慣用手段を直接置換えた場合」によると、慣用手段(または慣用技術)はある特定技術分野での技術問題を解決する手段(または技術)である。
 一方、実務上は、「公知な常識」は、例えば、属する技術分野における発明が実際に解決しようとする技術問題を解決した慣用手段、教科書または技術用語辞書等に記載した発明が実際に解決しようとする技術問題を解決した技術手段、教科書または技術用語辞書における関連技術問題を解決するために引用した他の文献に記載された内容などを含む。
 つまり、「公知な常識」が上位概念に、慣用手段(または慣用技術)が下位概念になる。

 進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明については「中国における進歩性(創造性)の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。

■ソース
・中国専利法(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf ・専利審査指南2010(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201.pdf ・専利審査指南2010(原文)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/section20100201.pdf ・日本の審査基準(第III部 第2章 第2節 進歩性)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0202bm.pdf#page=1 「参考情報」
・「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33728/ ・中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33755/
■本文書の作成者
北京銀龍知識産権代理有限公司
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.01.06

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