アジア / 出願実務
韓国における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)
2023年05月09日
■概要
韓国の審査基準のうち進歩性に関する事項について、日本の審査基準と比較して留意すべき点を中心に前編・後編に分けて紹介する。ただし、本稿では、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。また、発明の認定・対比などについては、「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点」を参照されたい。前編では、進歩性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、用語の定義について解説する。進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「韓国における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/34477/)をご覧ください。■詳細及び留意点
1.記載個所
進歩性(韓国特許法第29条第2項)については、「特許・実用新案 審査基準」の第3部第3章に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。
第3章 進歩性 1. 関連規定 2. 特許法第29条第2項の趣旨 3. 関連用語の定義 3.1 特許出願前 3.2 通常の技術者 3.3 容易に発明をすることができること 4. 進歩性の判断の基本原則 5. 進歩性の判断方法 5.1 進歩性の判断手順 5.2 引用発明の選択 6. 容易性判断の根拠 6.1 発明に至るような動機の有無 6.1.1 引用発明の内容中の示唆 6.1.2 課題の共通性 6.1.3 機能・作用の共通性 6.1.4 技術分野の関連性 6.2 通常の技術者が有する通常の創作能力の発揮に該当すること 6.2.1 均等物による置換 6.2.2 技術の具体的適用による単純な設計変更 6.2.3 一部の構成要素の省略 6.2.4 単純な用途の変更・限定 6.2.5 公知技術の一般的な適用 6.3 より良い効果の考慮 6.4 発明の類型による進歩性の判断 6.4.1 選択発明の進歩性の判断 6.4.2 数値限定発明の進歩性の判断 6.4.3 パラメータ発明の進歩性の判断 6.4.4 製造方法により特定された物の発明の進歩性の判断 7. 結合発明の進歩性の判断 8. 進歩性の判断時に考慮すべきその他の要素 9. 進歩性の判断時の留意事項 |
2.基本的な考え方
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章5
(2) 異なる事項または留意点
審査官は、出願当時に通常の技術者が直面していた技術水準全体を考えるよう努力すると同時に、発明の説明および図面を勘案し、出願人が提出した意見を参酌し、出願発明の目的、技術的構成、作用効果を総合的に検討するが、技術的構成の困難性を中心に目的の特異性および効果の顕著性を参酌し、総合的に進歩性が否定されるかの可否を判断する(大法院2007フ1527等)。
進歩性が否定されるかの可否は、通常の技術者の立場で、[1] 引用発明の内容に請求項に記載された発明に至る動機があるか、または、[2] 引用発明と請求項に記載された発明の違いが通常の技術者が有する通常の創作能力発揮に該当するかの可否を主な観点として、[3] 引用発明に比べてより良い効果があるかを参酌して判断する。
3.用語の定義
3-1.当業者
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章3.2
(2) 異なる事項または留意点
韓国では、進歩性有無の判断において基準となる者を特許法第29条第2項において「その発明が属する技術分野で通常の知識を有する者」と記載しており、これを略して「通常の技術者」とする。
通常の技術者とは、出願前の該当技術分野の技術常識を保有しており、出願発明の課題と関連する出願前の技術水準にあるすべてのことを入手して自身の知識としてできる者であり、実験、分析、製造等を含む研究または開発のために通常の手段を利用することができ、公知の材料の中から適合した材料を選択したり、数値範囲を最適化したり、均等物に置き換える等、通常の創作能力を発揮できる特許法上の想像の人物である(特許法院2008ホ8150)。
3-2.技術常識及び技術水準
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「技術常識」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章3.2
(2) 異なる事項または留意点
「技術水準」とは、特許法第29条第1項各号に規定された発明(特許出願前に国内または国外で公知されたり公然に実施された発明、特許出願前に国内または国外で頒布された刊行物に掲載されたり電気通信回線を介して公衆が利用できる発明)以外にも、当該発明が属する技術分野の技術常識等を含む技術的知識により構成される技術の水準をいう。また、日常的な業務および実験のための普通手段等、請求項に記載された発明の技術分野に関連するすべての種類の情報に関係するものである。
3-3.周知技術及び慣用技術
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「周知技術」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
特許・実用新案審査基準 第3部第3章7(2)(注)書き
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「韓国における進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編))をご覧ください。
■ソース
・特許・実用新案審査基準(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/kr/ip/law/sinsasisin20211230.pdf#page=295 ・特許・実用新案審査基準(原文)
https://www.kipo.go.kr/ko/kpoContentView.do?menuCd=SCD0200146 ・特許法(韓国)
http://choipat.com/menu31.php?id=14&ckattempt=1 ・日本の審査基準(第III部 第2章 第2節 進歩性)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0202bm.pdf#page=1
参考情報
・「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/27355/
・「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/27364/
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2023.01.25