アジア / 出願実務
中国における商標コンセント制度に関する留意点
2023年04月25日
■概要
(2024年6月13日訂正:本記事の第2項(3)(b)中の商评字[2022]第0000227183号のURL、およびソースの「行政訴訟法」のURLが、リンク切れとなっていたため、修正いたしました。)
コンセント制度は、中国において基本的に認められておらず、法令、審査指南(審査基準)に明文の規定が存在していないが、併存登録が認められた件もある。本稿では、近年の審決および最高人民法院判決に基づき、中国における権利者の同意(コンセント)に基づく併存登録の可能性について解説する。
■詳細及び留意点
1.コンセント制度について
(1) コンセント制度の根拠となる法令、審査基準等の場所
コンセント制度は、中国において基本的に認められておらず、法令、審査基準に明文の規定が存在していないが、併存登録が認められた件もある。
併存登録が認められた件と認められなかった件として、下記2件の最高人民法院の判例を紹介する。
(a) 判決番号:(2019)最高法行再245号
判例内容(抜粋):商標共存協議は、混同を排除する初歩的な証拠とすることができる。…(中略)…次に、引用商標の商標権者は商標出願の出願人の株主であり、出願商標と引用商標の各自の領域における併存使用は混同・誤認を招くものではないと双方が共通認識に至り、商標共存協議書を発行した。かつ、出願商標と引用商標との併存が、商品の出所に対して需要者に混同・誤認を生じさせることを証明できる証拠も存在しない。…(中略)…上述要素を総合的に考慮すると、需要者に出願商標と引用商標とを混同・誤認を生じさせることはなく、出願商標の出願登録は、商標法30条の規定に該当しない。
(b) 判決番号:(2020)最高法行申3488号
判例内容(抜粋):上告人(商標出願人)は当裁判所に一部の引用商標の商標権者との間で締結した共存協議書を提出したが、商標の標章および商品・役務の区分の類似性が比較的高い状況の下では、出願商標の出願人と先行権利者とがお互いを許容するという主観的な意思表示だけでは、市場の混同を排除することは当然できない。したがって、上告人がこれに関連する上告の申請理由が成立せず、当裁判所は支持しない。
(2) コンセントの対象
コンセントを認める旨の規定が存在しないことから、従来、コンセントが認められた実務上の経験を踏まえて、コンセントが認められる対象を考察する。
まず、標章(マーク)の類似性に注意が必要である。同一または極めて類似性が高い標章(マーク)については、コンセントによる併存登録は基本的に認められない。
次に、商品・役務について、同一類似群であれば、互いに異なる指定商品・役務のほうが、コンセントによる併存登録が認められる可能性が相対的に高いと考えられる。
最後に、出願人が、互いにまったく無関係である主体よりは、グループ会社などの資本関係等がある方が、コンセントによる併存登録が認められる可能性が相対的に高いと考えられる。
2.コンセント制度における審査について
(1) コンセントに関して明文化された法律法規が存在しないため、審査段階でコンセントによる併存登録を実現させることはできない。
前述するように、審判段階(拒絶査定不服審判の手続中)または訴訟段階(審決取消訴訟)においてコンセントが審査されており、認容される可能性が残されていると考える。
なお、拒絶査定から審判請求までの期限は15日間、拒絶審決から出訴までの期間は30日間である(商標法第34条)。なお、不服審判の場合、審判請求後3か月以内に追加書類の提出が可能(商標法実施条例59条)であり、提訴後においても、証拠書類の提出が可能(行政訴訟法37条)なため、証拠提出期間中にコンセントレターを提出することもできるがコンセントによる早期の権利化を望む場合には、審判請求までにコンセントが提出できる状況にしておくことが望ましい。
(2) (1)における留意点
中国国家知識産権局は、コンセントを認める法令等を示しておらず、中国の裁判所でも、コンセントを認める可能性が残されているとはいえ、最近の判例・裁判例などを見ると、より厳しい方向にあると考えられる。
審判段階については、最近の審決も考慮すると、「コンセントは出所誤認が生じないことを証明することができる証拠ではない」と論じる審決自体が少なくなる一方、コンセントの意義自体を認めない審決も存在し、さらに、コンセントが提出されていても、審決でそれに言及されないというケースも増えている印象である。
裁判所においても、極めて厳格な要件(上記の「1.(2) コンセントの対象」参照)を満たさない限り、コンセントを認めない方向にあると考える。
(3) 引用した文献・裁判例など
(a)審決番号:商评字[2022]第0000234534号(商標出願番号:58562707)
審決内容(抜粋):出願商標と引用商標7とが類似することから、共存協議書が存在しても、役務の出所に対して需要者が依然として容易に混同を生じる。
(b) 審決番号:商评字[2022]第0000227183号(商標出願番号:58925143)
審決内容(抜粋):審理を経て、我が局は申請人が提出した共存協議書を承諾しない。
商標局の審決決定書の詳細は次のURL( https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/03/cceb154da7d8feb50359531a9538786d.pdf)からも確認することができる。検索手順については「中国における商標の審決の調べ方」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/17963/)を参照されたい。
3.コンセントの書式(記載事項)
前述のように、コンセントに関して明文化された法律法規が存在しないことから、その書式についての規定も存在しない。このため、従来、認められたコンセントを踏まえて、コンセントの書式について記載する。
記載内容について、以下のものなどが挙げられる。
(i) 先行登録商標(同意を与える商標)の登録番号、先行登録商標の標章(マーク)、先行登録商標の指定商品・役務、商標権者の名称および住所、商標権者が捺印した法人登記簿。
(ii) (同意を得る)出願商標番号、出願商標の標章(マーク)の内容、出願商標の指定商品・役務、出願人の名称および住所。
(iii) 需要者の誤認・混同のおそれがない理由(コンセントの対象で考察した内容)、商標権者が上記要件で登録および使用を承認する旨の一文。
なお、コンセントは、最終的に裁判所に提出することになるので、日本でコンセントを作成した場合、または、同意を与える商標権者が日本(法)人の場合、中国語へのコンセントの翻訳文の作成、日本での公証手続および領事認証の手続を行うことが求められると考えられ、いずれもただちに対応できないことから、あらかじめ準備しておくことが好ましい。
審判や裁判でコンセントの原本が求められる可能性があるので、あらかじめ、中国代理人に当該原本(公証を含む)を送付しておくことが望ましい。なお、審判や訴訟における電子化が進んでいるのでカラースキャンした書証のみが求められる場合もある。
4.コンセントによる併存登録後の要件について
コンセントに関する要件についての規定がないことから、コンセントによる併存登録された商標の譲渡に関する特別な規定や、コンセントを取下げる規定も存在しない。また、審判決例において、コンセントにより登録された商標に関する事例やコンセントを取下げた事例は知られていない。
商標の更新に関する規定において、コンセントにより登録された商標についての特別な規定がないことから、更新登録出願時において、コンセントを更新することは求められていない、と考えられる。
5.アサインバックについて
(1) アサインバックに関する中国の法令および審査基準において、商標の移転についての審査する旨の規則の有無について
商標の譲渡の場合、同一または類似商標の一括での譲渡しなければならない(中国商標法第42条2項)。このため、アサインバックを使うことができない。
■ソース
中国商標法https://www.cnipa.gov.cn/art/2019/7/30/art_95_28179.html 中国商標法(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20191101law_2_jp.pdf 商標法実施条例
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20140501_rev.pdf 行政訴訟法
https://www.gov.cn/flfg/2006-10/29/content_1499268.htm (2019)最高法行再245号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/03/1c23e8a3f4b23e9d04ba3ad40908d5ef.pdf (2020)最高法行申3488号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/03/27c5d83fe139e66368adeef650151bd8.pdf 商评字[2022]第0000234534号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/03/658d535be920cc168916f8d5e1a77bff.pdf 商评字[2022]第0000227183号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/03/cceb154da7d8feb50359531a9538786d.pdf
■本文書の作成者
北京銀龍知識産権代理有限公司■本文書の作成時期
2022.09.21