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ベトナムにおける非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて

2023年03月14日

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■概要
ベトナムでは、広く使用されて標章として認められている標識を除き、通常使用されない言語の単語や文字は識別性を欠くと評価される(ベトナム知的財産法第74条(2)(a))。そして、ベトナム語および英語以外の言語は「通常使用されない言語」であると考えられるから、日本語で使われる文字(漢字、カタカナ、ひらがなを指す。以下同じ)のみから構成される商標は、ベトナム国内において使用による識別力を獲得しない限り、登録が認められない。
■詳細及び留意点

1.記載個所
 ベトナム知的財産法第72条「保護に適格な標章に係る一般的要件」ならびに第74条「標章の識別性(1)および(2)(a)」には以下の規定がある。

第72条 保護に適格な標章に係る一般的要件
標章は,それが次の条件を満たすときは,保護に適格とする。
(1) 立体図形又はそれらの組合せを含み,1又は複数の色彩により表現された文字,語,絵柄,図形の形態による目に見える標章であること
(2) 標章所有者の商品又は役務を他人のそれらから識別できること

第74条 標章の識別性
(1) 標章は,それが1若しくは複数の目立ち易く,かつ,記憶し易い要素,又は目立ち易く,かつ,記憶し易い組合せを形成する多数の要素から構成され,また(2)に規定する標識でないときは,識別性があるとみなす。
(2) 標章は,それが次の1に該当するときは,識別性があるとはみなさない。
(a) 広く使用されて標章として認められている標識を除き,簡単な図案及び幾何学的図形,数字,文字,稀な言語の語

 科学技術省通達01/2007/TT-BKHCN 39.3 a)には、以下の審査基準が示されている。

39.3 知的財産法の第74条の第2項に定める文字又は数字形態の標章(以下「文字標章」という)の識別性の評価
本省令の規則39.5に規定する例外を除き、下記の文字標章は、識別性がないものとみなされる。
a) 通常の知識を有するベトナム消費者が、認知できず、記憶できない(読めず、理解できず、覚えられない)言語の文字。ローマ由来のない文字がその例である(アラブ文字、スラブ文字、サンスクリット、中国文字、日本文字、朝鮮文字、タイ文字など)。ただし、上記の言語に属する文字が、その他の成分とともに識別性のある総体を形成し、又は図画もしくはその他の特別な形態で表示される場合を除く。

 科学技術省通達01/2007/TT-BKHCN 39.5には、以下の審査基準が示されている。

39.5 文字標章及び図形標章の識別性評価に際して、下記の例外が適用される。
a) 標章は、本省令の規則39.3のa、b、c、g、h及び規則 39.4のa、b、c、d、eに規定する場合に該当する標識が標章として使用され、消費者の間で広く知られることにより、標章は関連の商品又は役務に対する識別性を獲得する
b) 出願人は、この例外の適用を受けるには、その商標の広範囲の使用に関する証拠(使用開始時、現在使用の範囲及び程度など。ただし、使用が適法な生産、取引、商事、広告、又はマーケティングの諸活動で行われる場合に「使用されている」とみなされる)、商標所有者の関連の商品又は役務に対する当該商標の識別性に関する証拠を提供しなければならない。この場合、その商標が現実に連続的及び広範囲にわたって利用された形態によって表示された場合に識別性があると認められる。

 科学技術省通達01/2007/TT-BKHCN 39.8には、以下の審査基準が示されている。

39.8 その他の商標と混同を招くほどの類似性の有無の評価
a) 申請書に記述する登録要件の標章が他の商標(以下「対照商標」という)と同一又は混同を招くほど類似するか否かを評価するために、構造、内容、発音方法(文字標章の場合)、標章の意義及び表示形式(文字標章と図形標章の場合)を比較する。同時に、本規則の規定に基づき、対照商標を付した商品及び役務と出願した商標を付した商品及び役務を比較しなければならない。
b) 対照商標と同一の標章:標章が構造、内容、意義及び表示形式の側面で、完全に同一である場合、対照商標と同一とみなされる。
c) 標章は、下記の場合に、対照商標と混同を招くほど類似するとみなされる。
(i) 当該標章が、消費者が同じ対象であると混同し、一方の対象が他方のバリエーションであると考えるほど又は二つの対象が同一の出所を有すると考えるほど、構造、内容、発音方法、意味及び表示形式から選ばれる少なくとも1つの側面で、対照商標と近似する。
(ii) 当該標章が、対照商標からの音訳又は翻訳であって、当該対照商標が周知商標である。

 科学技術省通達01/2007/TT-BKHCN 37.4 d) (iii)には、以下の審査基準が示されている。

37.4 申請書に係る要件
d) 申請書に記述する商標見本及び商標関連の表記は、下記の各規定に従うものとする
(iii) 商標がベトナム語以外の文字、言葉、又は表現を含有する場合、発音方法(ベトナム語の音訳)を明記し、かつその文字又は言葉が意味を有する場合、ベトナム語に訳さなければならない。

 科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNは、ベトナムの知的財産法の施行に関する詳細を定める政府決議103/2006/NĐ-CPよりも下位の法規範文書に該当し、細則を定めている。科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNは2010年、2011年、2013年、2016年と4回改正されている。詳細は以下のとおり。
 科学技術省通達01/2007/TT-BKHCN(2007年5月9日施行)
 2010年:科学技術省 通達13/2010/TT-BKHCN(2010年7月30日施行)
 2011年:科学技術省 通達18/2011/TT-BKHCN(2011年9月5日施行)
 2013年:科学技術省 通達05/2013/TT-BKHCN(2013年2月20日施行)
 2016年:科学技術省 通達16/2016/TT-BKHCN(2018年1月15日施行)
 なお、上記4回の通達には改正部分のみが記載されている。本稿で紹介する審査基準の該当する条項が改正の影響を受けていないため、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCNを審査基準の記載個所として記載している。

2.標章の識別力に関する基本的な考え方
 日本では、標章の識別力は絶対的要件とされているが、ベトナム知的財産法では、標章の識別力に関する規定である第74条において、日本における絶対的要件に加え、相対的要件,例えば先願と同一または類似の商品または役務に係る登録標章と同一または混同を生じる程に類似の標章等も「識別力なし」と規定しているのが特徴である。

3.日本語のみからなる商標の識別力について
 ベトナム知的財産法第74条(2)(a)において「稀な言語の語」については「識別力なし」と規定され、科学技術省通達01/2007/TT-BKHCN(以下、通達)39.3 a)には,識別性がないものとして、通常の知識を有するベトナム消費者が、認知できず、記憶できない(読めず、理解できず、覚えられない)言語の文字が挙げられ、日本文字および中国文字が具体例として挙げられている。
 このように、カタカナ、ひらがな、漢字などの日本語のみからなる商標は、原則、「識別力なし」として登録が認められず、通達39.5に規定しているように、使用による識別力を獲得しない限り、登録は難しい。
 なお、知的財産法の施行(2006年7月1日)より前に出願された商標については、日本語のみからなる場合であっても登録されているものがある。そのような登録があることをもって、日本語のみからなる商標が識別性を有する根拠とすることはできない。

4.ベトナム語またはアルファベット文字と日本語とからなる商標の識別力について
 通達39.3 a)ただし書にあるように、ベトナム語またはアルファベット文字と日本語とからなる商標については、全体として識別性がある場合、登録が認められる可能性がある。登録例は以下のとおり。

 登録商標40337275000号,日本香道\Nipponkodo\NIPPONKODO
 登録商標40345650000号,郷の誉\SATO NO HOMARE

 念のため、ベトナム語またはアルファベット文字と日本語とからなる登録商標の日本語部分のみを使用するなど、一部の要素のみの使用は不使用取消のリスクがあるため、登録商標と同一態様での使用をお勧めする。
 また、通達37.4 d) (iii)に規定されているように、非アルファベット文字からなる商標については、翻字・翻訳を願書に記載することが求められるので、翻字・翻訳の両面から検索することが必要である。例えば、「サロンパスロール」の文字が含まれる登録商標40050626000号の詳細情報を見ると、「SALONPAS RORU CUON」、つまりアルファベットに翻字した「SALONPAS RORU」と「ロール」の語を翻訳した「cuốn」に相当する「cuon」が記載されている。
 なお、明文化された規定はないが、実務上では、全体として識別性を有していても、識別性欠如の部分については権利不要求(ディスクレーム)を求められる場合がある。

5.日本語をベトナム語またはアルファベット文字に翻字した商標の識別力について
日本語をベトナム語またはアルファベット文字に翻字した商標は、直ちに、「識別力なし」とはされず、登録要件の有無が審査される。
登録例は次のとおり。

登録商標40194580000,Aichi Tokei Denki(ただし、Aichi部分はディスクレーム)

 4.および5.で紹介したベトナム登録商標は、ASEAN TMview(http://www.asean-tmview.org/tmview/welcome)の「Advanced Search」ページの「Application/registration number」欄に登録番号を入力すると詳細を確認できる。

■ソース
・ベトナム知的財産法(日本語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/vietnam-tizaihou.pdf
・科学技術省通達01/2007/TT-BKHCN
(ベトナム語)(改正合冊版703+704:1~22.14、705+706:23~67.2)
https://congbao.chinhphu.vn/noi-dung-van-ban-so-07-vbhn-bkhcn-26697?cbid=22752
(英語)https://www.most.gov.vn/en/Pages/Detaildocument.aspx?vID=19
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/vietnam-sangyou_syourei.pdf
(同通達は改正されているが、引用部分は執筆時時点で改正されていない。)
・ASEAN TMview
http://www.asean-tmview.org/tmview/welcome.html?lang=en#
・ベトナム登録商標40337275000号
・ベトナム登録商標40345650000号
・ベトナム登録商標40050626000号
・ベトナム登録商標40194580000号
■本文書の作成者
阿部・井窪・片山法律事務所
■本文書の作成時期

2022.09.23

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