中南米 / 出願実務
ブラジルにおける商標のコンセント制度について
2023年03月07日
■概要
ブラジルでは商標コンセント制度について審査基準があり、共存合意書を提出することは可能であるが、審査官が考慮するとは限らない。なお、共存合意書を考慮することが可能と論じる判決例があるが、コンセント制度について審査基準の記載以上に詳細に定められているわけではない。このように、ブラジルの商標コンセント制度は要件および効力が確実ではないが、利用する価値があると思われる。■詳細及び留意点
1.商標コンセント制度に関する審査基準
商標審査基準「5.17 商標の共存」にコンセントに関する記載がある。
5.17 商標の共存 共存合意書 INPI/CPAPD技術見解書No.01/2012によれば,標章の「共在合意書」又は「共存合意書」と表示された書類は,商標登録出願の審査を支援する要素としてのみ機能し,標章の登録可能性に関して確信を得るための付加的要素と考えられる。 すなわち,庁がそのような書類が十分に説得力を有するか否かを評価することができるように,当該標章と他人の先に登録された商標との連携又は混同の可能性を排除することに加えて,この意味での先の権利の所有者による抗議の提出の可能性を排除して,その記された市場区分において抵触する標章が共存することを可能にすることが歓迎される。 そのような合意書の存在にも拘らず,当該商標について,抵触している商品若しくはサービス又は当該商標の構成に依存して,共存が実現不可能であるとみなされる場合は,当該商標間の混同又は連携の危険性を十分に回避する手段として,出願人又は先の権利の所有者に対して,所望の保護の範囲を制限するように,方式指令を設定することができる。例えばその商標として意図された記号に関連して,そのような指令を設定することができるが,ただし,項目9.1 商標の変更(自己の権利を守るための商標の登録不能部分の取下げ)に記載している指針に従って,一定の商標要素の削除により,記号の識別的性質を変更することなく,先の商標に対して十分な隔たりが生じる場合に限る。 同一の経済集団の所有者による商標の共存 INPI/PROC/DIRAD見解書No.12/08は,同一の経済集団に属する所有者による類似の標章が,示された商品又は役務の間に市場での親和性が認められる場合,先の登録の所有者の事前の許可なしに共存する可能性を定めている。同一の経済集団の企業間の関係は,適切な許可書類によって証明されなければならず,単なる宣言又は更に両方の企業が共通のパートナーを有することのみでは受理されないことに注目すべきである。そのような書類が存在しない場合は,利害関係人に対して,方式指令が設定される。 最後に,同一所有者による二重商標を禁止している,LPI(産業財産法)第124条第XX項の違反の可能性に留意することが必要である。 |
2.共存合意書の内容について
共存合意書は、商標出願の審査の補助的な要素としてのみ機能し、商標の登録可能性に関する確信を持つための追加要素を考慮する資料に過ぎない。
共存合意書は、審査中の商標と既に登録された第三者の商標との誤認または混同の可能性を排除するのに十分な説得力があるか否かを評価する際に用いられる。先行商標権者または先行出願人が実際に使用している標章と出願の標章とを比較して、市場で共存できることを示し、また、先行商標権者または先行出願人が実際に使用している商品・役務と出願商標の商品・役務とを比較して、市場で共存できることを示すためである。
3.審査官による出願商標の補正命令について
このような共存合意書を提示しても、抵触する商品・役務や審査対象の商標の構成により、先行商標との共存が不可能と判断される場合、審査官は当該商標間の誤認や混同のおそれを十分に排除するために、求める保護の範囲を限定するよう出願人および先行商標権者または先行出願人に要求することが可能である。しかし、実際には後出願が拒絶される例が大半である。
求める保護の範囲の限定に関する対策については、場合によって後行出願の商標の標章自体の補正を求めることが可能である。しかし、補正があったとしても、条件として後行出願の商標の標章の特徴的な部分が変更されてはならない。
なお、共存合意書の書式については特に定められたものはない。したがって、共存合意書に関する所定の要件はないが、両商標が特定され、共存することが認められるべき理由が明確であり、両商標の所有者または所有者に代わって署名する権限を有する者が署名していることが必要である。
4.同一の経済集団の所有者による商標の共存
審査基準は、先行商標権者または先行出願人と後行の出願人とが同一の経済集団に属する場合、先行商標の所有者の許可を得ることなく共存することが可能である旨の見解書について言及している。このことから、同一の経済集団に属していることを理由とする共存合意書を提出すれば、併存登録される可能性が高いと考えられる。
また、ブラジル産業財産権法第124条XX項に基づき、同一人による二重商標の所有は禁止されていることに留意すべきである。ブラジルの審査基準の5.17によると、標章同一で、同区分を指定していても、後行商標の指定商品が先行商標の指定商品の全てを排除して他の指定商品を指定する場合に登録が認められる。また、先行商標の指定商品と後行商標の指定商品が重複している場合に、先行商標の標章と後行商標の標章に差異がある場合(たとえば、先行には色の指定がない一方、後行には色の指定がある場合)に認められる。
5.共存合意書の提出時期について
共存合意書は、商標出願の審査の補助的な要素であるから、審査官の裁量にもよるが、通常、共存合意書を単独で提出しても、ブラジル産業財産庁は受理しない。特に提出時期は定められていないが、通常、拒絶理由通知の応答時および拒絶査定不服審判請求時に提出される。
6.コンセントによる併存登録後について
ブラジルでは、商標登録後、無効審判請求や不使用取消請求などによる取消等がない限り、登録付与日から10年間有効に存続する(LPI第133条)。また、更新申請すれば審査することなく次の10年間、同様に有効に存続する。すなわち、存続期間中や更新申請時に改めて共存合意書を提出する必要はない。
一方、先行登録商標権者または先行出願人が登録後に共存合意書を取り消すことは可能であるが、登録された後行商標の有効性には影響しない。可能か否かは不明であるが、他の手段で後行商標の無効化を図らなければならない。
■ソース
・ブラジル産業財産法https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf
・ブラジル商標審査基準2016.06改
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-shouhyou_kijun.pdf
■本文書の作成者
Licks特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.09.22