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ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

2023年03月02日

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■概要
ブラジルの審査基準のうち新規性に関する事項について、日本の審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。
前編では、新規性に関する特許法および審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定について説明する。請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項については「ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33933/)を参照願いたい。
■詳細及び留意点

1.記載個所
 ブラジル特許出願の審査基準準第2部第4章、その概要(目次)は以下のとおり。

 関連する条文:ブラジル産業財産法第11条

第4章 新規性
概念
4.1~2
新規性を評価するための諸段階
4.3
技術的詳細及び一般的所見
4.4~10
特定的及び一般的な用語
4.11~13
数値及び数値の範囲
4.14
性能、使用又は製造方法の特徴又はパラメータによって定義される物のクレーム
4.15
用途によって特徴づけられる物のクレーム
4.16
製造方法によって特徴づけられる物のクレーム
4.17
第2用途クレーム
4.18
選択特許
4.19~25

2.基本的な考え方
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.1~10、および
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第2章2.10

(2) 異なる事項または留意点
<審査基準第2部第4章4.1~10>
 新規性の判断に関する、日本の審査基準(第III部第2章第1節2.)では、「審査官は、請求項に係る発明が新規性を有しているか否かを、請求項に係る発明と、新規性の判断のために引用する先行技術(引用発明)とを対比した結果、請求項に係る発明と引用発明との間に相違点があるか否かにより判断する。相違点がある場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していると判断する。相違点がない場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断する」としている。
 新規性の評価に関して、ブラジル産業財産庁は、日本の審査基準に加え、各請求項の評価も考慮する。例えば、独立形式請求項に新規性がある場合、その従属請求項も全て新規性があるため、従属請求項を審査する必要はない。一方、独立形式請求項に新規性がない場合、従属請求項には、先行技術を考慮して当該事項を新規性があるとする特定の要素が含まれている可能性があるため、従属請求項を審査する必要がある。
 新規性は、請求項全体の評価によって決定されなければならず、請求項の特徴的な部分だけでは決定できない。したがって、請求項の前置き部分で構成要件AとBを定義し、特徴付け部分で構成要件CとDを定義している場合、Cおよび/またはDが既知であるかどうかそれ自体は問題ではない。問題は、それらがAおよびBと関連して、つまりAだけでもBだけでもなく、両方と関連して既知であるかどうかが重要である。
 ある請求項のすべての特徴(例えば、製品の要素またはプロセスのステップ)が、明示的または本質的に、単一の先行技術に開示されている場合、新規性は認められない。すなわち、新規性要件の評価において、異なる先行技術文献を組み合わせることはできない。

<審査基準第1部第2章2.10>
 「固有の」という用語は、記載されていない事項が出願時の出願に必ず暗示されていること、およびそれが当業者によって認識されることを意味する。固有性は、確率や可能性によって確立することはできない。与えられた一連の状況から何かが生じる可能性があるという事実だけでは十分ではない。

3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.37

(2) 異なる事項または留意点
 請求項は、出願時の当業者の一般的な知識だけでなく、明細書と図面(および配列表がある場合は配列表)に基づいて解釈される。明細書が請求項の特定用語を定義する場合、その定義は請求項を解釈するために使用される。

3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.40

(2) 異なる事項または留意点
 明細書と請求項の間に矛盾がある場合、保護範囲に疑問を生じさせ、請求項が不明確になり、明細書ではサポートされないため、認められない場合があることがポイントである。このような矛盾に関し、以下のような例が挙げられる。

(i) 単純な言葉の矛盾
 明細書が保護を求める主題を限定的に開示しているが、一連の請求項の対応する事項が広い場合、明細書を考慮して請求項の事項を限定することにより、矛盾を解決することができる。
(ii)明らかに本質的な特徴に関する矛盾
 明細書に記載されたある技術的特徴が、当該技術分野における確立された知識または発明に開示されたものに基づいて、発明の達成に必須であると考えられるが、独立形式請求項に記載されていない場合、当該請求項は、ブラジル産業財産法第25条の規定に反して、明確性および正確性の欠如を理由にブラジル産業財産庁から異議を唱えられることになる。

4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.1~5、3.60
 関連する条文:ブラジル産業財産法第11条、第12条、第16条、第17条

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル産業財産法第11条によれば、ブラジル産業財産法第12条(猶予期間)、第16条(優先権)、第17条(内部優先権)の規定を除き、先行技術とは、特許出願日前に、ブラジル国内外において書面または口頭による説明、使用、その他の手段により公衆に提供されたすべてのものを含むことがポイントである。
 さらに、同第11条第2項によれば、新規性の有無を判断するために、ブラジルで出願されたがまだ公開されていない出願の内容全体は、後に公開されていれば、出願日または主張された優先日から技術水準とみなされる。また、同第11条第3項は、国内手続が行われることを条件に、ブラジルで有効な条約または協定に基づいて行われた国際特許出願に第2項の規定が適用されることを定めている。
 さらに、ブラジルの特許出願の審査基準では、先行技術調査の際に使用する日付は、関連日、すなわち、出願日または優先日がある場合には、その日とみなすべきであると定めている。また、異なる請求項や請求項中の異なる選択肢は、異なる関連日を有する可能性がある。
 先行技術の決定は、開示の時期(時分秒)を考慮することはなく、その日付のみが考慮される。
 ブラジルでは、先行技術とみなされるものの例外を構成する猶予期間の恩恵を受けることができる(グレースピリオド)。特許出願の発明者の同意なしにブラジル産業財産庁が行った開示、発明者から直接または間接的に得た情報に基づく第三者による開示は、出願日または優先日に先立つ12か月間に行われた場合に限り、先行技術として考慮されない。
 審査中の出願より前に、発明者自身の特許出願が何処かの国で公開されたことは、猶予期間の条件に該当する開示とはみなされない。

4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.7および3.17~23

(2) 異なる事項または留意点
 漫画に稚拙に記載された発明のような、一般に入手可能な事柄に基づく単なる抽象化またはその範囲内のものは先行技術として認められず、当業者がその発明を実施するのに十分な記述が必要である。

4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.22

(2) 異なる事項または留意点
 公開日が開示日となる。公開日として特定の月または年のみが記載されている場合は、その月または年の最終日を公開日とみなす。ただし、公開日を特定できるような記載がない場合、出版物の編集者に対する調査をブラジル産業財産庁の図書館に依頼することができる。

4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.31~35、3.39

(2) 異なる事項または留意点
 インターネット上の資料は、公開日を証明できる場合に限り先行技術として認められる。原則として、利用されるサイトの機密度は問わず、利用可能であれば十分である。
 特許出願日または優先権主張日前に、インターネット上に公開され、ネットアドレスを通じてアクセス可能な文書が、公共のインターネット検索ツールにより一つまたは複数のキーワードを通じて発見でき、誰もが文書を秘密にする義務がなく、文書に直接かつ明確にアクセスできるようにある程度の期間そのアドレスのアクセスが維持されている場合、文書が公開されているといえるから、その文書は先行技術とみなすことができる。
 一方、電子メールで開示された事項は機密文書とみなされるため、公衆がアクセスできる文書とはみなされない。
 インターネット上での開示は、ブラジル産業財産法第11条第1項に従い、先行技術に含まれる。インターネットやオンラインデータベース上で開示された情報は、その情報が公に開示された日から公開されたものとみなされる。
 また、特許出願や特許に対してインターネット上の文書が引用されている場合、公開日を証明する必要がある。多くの場合、インターネット文書は明示的な公開日を提供し、それがまず受入れられる。そうでない場合は、立証責任は出願人にあり、公開日を立証または確認するために状況証拠が必要となる。

4-1-5.公然知られた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載が無い。

4-1-6.公然実施をされた発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.26~30

(2) 異なる事項または留意点
 実施(使用)による開示とは、技術的解決策の使用が公衆によって評価される状態に置かれることを意味する。実施(使用)による開示の手段には、技術情報を一般に公開する可能性のある生産、使用、販売、輸入、交換、提示、実演、展示が含まれる。製品またはプロセスが公衆に利用可能となった日を、実施(使用)による開示の日と考えるべきである。

(後編に続く)

■ソース
・ブラジル特許出願の審査基準第1部
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-tokkyo_kijun.pdf ・ブラジル特許出願の審査基準第2部
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-kijun_tokkyosei.pdf ・ブラジル産業財産法
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf ・日本の特許・実用新案審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
■本文書の作成者
Licks特許法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.10.27

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