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ブラジルにおける非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて

2023年03月02日

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■概要
カタカナなどの日本語を含む商標は、日本ブランドであることを識別させる手段として有効であるため、日本語を含む商標の取得ニーズは極めて高い。このニーズに資するため、ブラジルにおける商標に関する法律及び審査基準、特に審査時における調査を紹介し、日本の商標の類否判断基準と比較しながら考察する。
■詳細及び留意点

1.記載個所
 商標審査基準「2.3 提出の様式」には以下が規定されている。

2.3 提出の様式
図表形式の提出に関して,標章は,文字的なもの,図形的なもの,混合されたもの及び立体のものに分類される。
(中略)

図形的商標(Figurative Trademark)
図形的又は紋章的商標は,次からなる記号である:
意匠,画像,図及び/又は標章;
単独又は描画,画像,図又は標章を伴う,形象的若しくは図形的な文字又は数字の形態;
ヘブライ,キリル,アラビア語,などのようなその土地特有の言語の異なるアルファベット
文字からなる言葉;
日本語及び中国語のような表意文字
上記に掲載した後者の2例の場合では,法的な保護は,それらが示す言葉又は表現ではなくて,文字の図表形式の表示及び表意文字自体にあるのであるが,出願において出願人が表意文字を示す言葉又は用語を提示した場合を除き,それが大多数の公衆消費者にとって理解できる限り,その場合には,混成商標と解釈されることになる。

 商標審査基準「3.5.2 電子様式への入力」には以下が規定されている。

3.5.2 電子様式への入力
(前略)
フィールドへの記入に対する指示
標章の言葉の要素

(中略)
標章が外国語の要素を含む場合には,同標章は,利用者によって示された訳語を有さなければならない。
(後略)

 商標審査基準「5.11.3 第三者の登録商標」には以下が規定されている。

5.11.3 第三者の登録商標
LPI 第 124 条第 XIX 項に従って,次のものは,商標としての登録を受けることができない:
「同一,類似又は関連の商品又はサービスを識別又は証明するために第三者の登録商標の全部又は一部,さらに付加があればそれを含めて複製又は模造したものであって,第三者の商標と混同又は連携を生じさせる虞があるもの」。
本法的規則の適用上,次の事項が考慮される:
(中略)

LPI第124条第XIX項の侵害の審査についての指針
記号の抵触

LPI 第 124 条第 XIX 項の侵害の審査時には,全体的,部分的又は付加的な模造又は複製の発生が,次の規準に則って確認される:
・セット中の抵触記号が人間の感覚(視覚及び聴覚)に与える印象;
・文言が,外国語で綴られている場合であっても,類似しているが,その独自の識別的意味を有するか否か;
・クレームされた記号が,先の商標との観念的又は知的抵触を有するか否か;
・当該商標が,先の商標を部分的に複製しているが,その文脈を考慮して,先の商標と異なるか否か。
商標記号間の抵触の可能性の分析は,項目 5.11.1 記号間の抵触の分析において取り上げている。
(後略)

 商標審査基準「5.11.1 記号間の抵触の分析」には以下が規定されている。

5.11.1 記号間の抵触の分析
抵触している記号間の衝突の可能性の分析は,類似性により混同又は不当な連携の危険性が生じることを検証するために,その外観,称呼及び観念の局面を評価することを含む。したがって,この工程は,項目5.11.2市場親和性の審査において論じている市場親和性の分析とともに,利用可能性要件を審査するために不可欠である。
原則として,記号間の抵触の分析は,比較される標章の外観,称呼及び観念の局面の何れをも考慮して,その個別要素のみではなく,セットの全体的印象を評価することに基づく。

図形的局面
類似の幾何学的形状,画像,色彩及び/又は色彩の組合せの使用は,商標セット間の混同又は不当な連携の危険性を生じ,又は高める一因となり得る。したがって,記号の図形的局面の比較は,抵触の可能性を検討する際に極めて重要である。
図形的類似性の評価は図形的商標,混成商標及び立体商標の審査において明らかに重要であるが,また,文字記号の審査においても関連性があり,この場合,文字配列の繰返し,単語数並びに文の構造及び文言が,場合によっては混同又は不当な連携の一因となり得る。

音声的局面
音声的な複製又は模造の発生は,2つのセット間の抵触を特徴付ける際の決定要因の1である。商標は,混成表現の商標であっても,その言語的形態で記憶され,言及されることが多いことに留意されたい。
音声的比較においては,照合される記号中に存在する音節の配列,単語のイントネーション並びに語句及び文言のリズムにおける類似性及び相違が評価される。しかしながら,視覚的に類似の用語又は文言が,全く異なる音声的印象を与え得ることに留意すべきである。

観念的局面
聴覚的及び/又は図形的に識別的であるにも拘らず,同一又は類似の思想を喚起する記号が,公衆消費者の混同又は不当な連携を招く虞もある。この現象は,概念の複製又は模造であることから,異なる表現形式を有する商標(文字記号X図形的記号)の場合であっても生じ得る。
異なる言語の単語又は語句の場合には,関連する公衆の言語領域並びに記号及び喚起される思想の類似性を検討することが必要である。
(後略)

 商標審査基準「5.16 調査」には以下が規定されている。

5.16 調査
(前略)
インターネットによる調査
インターネットは,商標登録出願の審査のための別の有益な情報源であり,疑義を解決し,又は理解を強化することができる。しかしながら,多くの結果は誤ったデータを提供し,誤解を生じ得ることから,この手段によって得られた情報の関連性及び信頼性を常に観察することが必要である。

辞書による調査
外国語による記号の場合には,その登録可能性を分析する際にその意味が考慮される。特に拒絶の場合には,標章が識別しようとする商品又はサービスに関する平均的な消費者の知識のレベルが考慮される。この推奨は,一般に使用され,標章が対象とする公衆に知られている言語についてのみ有効であることに留意することが重要である。

(「辞書による調査」について、実務上はあまり重視されず、実質的に需要者がどのようにその文字を認識しているかの方が重視される。)

 産業財産法第2節 登録を受けることができない標識 第124条として以下が規定されている(識別力に関する産業財産法上の規定(抜粋))。

第124条
次のものは,標章としての登録を受けることができない。
(中略)
(II) 単独の文字,数字及び日付。ただし,十分に識別的形状を具えているものを除く。
(中略)
(VI) 識別の対象とする商品又は役務に関連する,一般的な,必然的な,共通の,通常の,若しくは単に説明的性格の標識,又は商品若しくは役務について,その性質,原産国,重量,価格,品質及び商品の生産若しくは役務提供の時期に係わる特徴を示すために通常使用される標識。ただし,十分に識別的形状を具えているものを除く。
(VII) 単に宣伝手段としてのみ用いられる標識又は文言
(VIII) 色彩及びその名称。ただし,独特でかつ識別的方法により配置又は結合されているものを除く。
(中略)
(XVIII) 識別対象とする商品又は役務に関連する産業,科学又は技術において使用されている技術用語
(中略)
(XIX) 同一,類似又は同種の商品又は役務を識別若しくは証明するために第三者が登録している標章の全部又は一部,更に付加があればそれを含めて複製若しくは模造したものであって,第三者の標章と混同又は関連を生じさせる虞があるもの。
(中略)
(XXI) 商品若しくはその包装に係わる必然的な,共通の若しくは通常の形状,又は,さらに,技術的効果の観点から不可欠な形状
(後略)

2.標章の類否判断に関する基本的な考え方
 ブラジルにおける標章の類否判断基準は,ブラジル商標審査基準5.11.1にあるように、日本と同様、外観、称呼、観念を考慮し,その個別要素のみではなく、標章の全体的印象を評価することになっている。

3.外観の類否について
 ブラジル商標審査基準5.11.1の規定から、外観についての判断基準は日本と大差ないと考えられる。「標識の外観の比較は,抵触の可能性を検討する際に極めて重要」「文字標識の審査においても関連性がある」との記載から、外観が重要であり、文字商標についても外観が考慮されることに留意する必要がある。
 日本語の文字からなる商標に関する外観の判断について判例を見つけることができなかったが、最近の判例としてサン・パウロ州裁判所が以下の商標が非類似と判断した(2021年8月9日判決、訴訟番号:1008042-04.2017.8.26.0009)*1。服(原告は第25類の「帽子、Tシャツ、靴、短パン、靴下、ズボン」を指定)について双頭の鷲の外観について独占権を与えることができず、被告側の商標は原告よりも現実的な描写していることからその他の異なる部分に照らして、両方の双頭の鷲には総合的な印象が非類似と判断された。

*1:判例は各裁判所のウェブサイトの検索ツールを通してアクサスすることができるが、判例毎に固定のリンクが存在しない。以下の判決も同様である。

関連記事:
「(ブラジル)判例の調べ方ーサン・パウロ州司法裁判所(TJSP)ウェブサイト(2019.8.27)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/17648/

4.称呼の類否について
 審査基準5.11.1によれば、称呼の類否判断基準についても日本と大差がないと考えられる。なお、「組合せの表現であっても、その言語的形態で記憶され、言及されることが多い」と記載されていることに留意する必要がある。
 最近の判決において、サン・パウロ州裁判所が飲食店の提供の役務(第43類)について、称呼「Makoto」は同一としてもその識別力が低いとし、非類似と判断した(訴訟番号:1008342-08.2022.8.26.0003*2)。

*2:関連情報:
TJSPの検索サイト:https://esaj.tjsp.jus.br/cpopg/open.do;jsessionid=DC22D3D74E10A131F44E0D106AE66459.cpopg8にアクセスし、左から2番目の入力欄に訴訟番号「1008342-08.2022」を入力、左から3番目の欄が「8.26」であることを確認、左から4番目の欄に「0003」を入力し、右端の「Consultar」をクリックすると判決例(ポルトガル語)が閲覧できる。
検索方法の詳細については、以下を参照してください。
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/75008ca25f18a44957d8bf25c8e4acf1.pdf

5.観念の類否について
 審査基準5.11.1から、規定上は日本と大差がないと考えられる。「異なる表現形式を有する商標(文字商標と図形商標)の場合であっても」類似とされ得ること、「異なる言語の単語又は語句の場合には,関連する公衆の言語領域並びに記号及び喚起される観念の類似性を検討することが必要である。」旨の記載に留意する必要がある。
 通常、外観の類否によって決した判決例が多く評価されているが、観念としては、2012年の第2巡回区連邦高等裁判所*3において、飲食の提供について称呼および外観が異なっても観念が類似することで総合的に商標が類似するとした判決がある(訴訟番号:0523618-64.2008.4.02.5101)。

*3:関連記事:
「(ブラジル)判例の調べ方ー第2巡回区連邦高等裁判所(TRF2)ウェブサイト(2019.6.4)」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/17398/

6.審査官による日本語の調査について
 商標審査基準「3.5.2 電子様式への入力」には標章に外国語の要素を含む場合,その訳語を記すこと、商標審査基準「5.16 調査」において、インターネットや辞書による調査が含まれるものの、平均的な消費者の知識レベルが考慮される旨が規定されている。また、日本語は審査基準2.3にあるように原則、図形商標として取り扱わる。
 つまり、日本語からなる商標であっても、称呼、観念を一般的な消費者が認識することが可能な場合、文字と図形からなる結合商標として取り扱われる可能性があるものの、作成者の知り得る限り、日本語からなる商標について日本語本来の意味を調査し、それに基づいて類否判断した例は見当たらなかった。

7.外国語商標、非アルファベット文字商標及びカタカナ商標の識別力について
 識別力は、ブラジルにおいて商標が効力を有するための根本的な条件の1つであり、産業財産法第124条の規定から、識別力については日本と大差はない。
 前項に述べたように、例外的なケース以外は、日本語の商標は図形商標として取り扱われる。なお、上記の「Makoto」は英文として識別力を失ったものと考えられる。

■ソース
・ブラジル商標審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-shouhyou_kijun.pdf ・ブラジル産業財産法
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf
■本文書の作成者
Licks特許法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.09.30

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