アジア / 出願実務
シンガポールにおける特許審査迅速化の方法
2023年02月14日
■概要
シンガポール特許出願、またはシンガポールに国内移行したPCT出願において、特許を早期に取得するためにはいくつかの方法がある。これらの方法について2014年2月14日に施行された改正特許法により導入された2種類の審査オプションに基づき説明する(補充審査請求については、2020年1月1日以降利用できなくなった)。また、2020年5月1日に開始されたSG IP Fast Trackについても説明する。
■詳細及び留意点
1.審査オプション(a)シンガポール知的財産局での調査および審査
審査オプション(a)において、出願人は、「出願日もしくは優先日から13か月以内にシンガポール知的財産局(Intellectual Property Office of Singapore:IPOS)での調査を請求し、36か月以内にIPOSでの審査を請求する」方法か、「出願日もしくは優先日から36か月以内にIPOSでの調査と審査を同時に請求する」方法のいずれかを選択することができる。
審査オプション(a)において特許を早期に取得するための1つの方法は、特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway:PPH)*1により審査手続きを迅速化することである。
PPHは特許庁間で調査および審査結果を共有し、出願人が双方の国において、迅速かつ効率的な特許取得を可能にするプログラムである。
2014年11月1日よりIPOSは、グローバル特許審査ハイウェイ(Global Patent Prosecution Highway:GPPH)*2ネットワークに参加し、GPPH試行プログラムの参加特許庁となっている。GPPH試行プログラムに基づき、IPOSにおける特許出願に対する審査促進の請求を、その他のGPPH参加特許庁のいずれかにより発行された特許調査および審査結果または特許協力条約(PCT)に基づく国際調査や審査結果に依拠することにより行うことができる。
2022年11月3日時点で、IPOSは、中国国家知識産権局(China National Intellectual Property Administration:CNIPA)、メキシコ産業財産権局(Instituto mexicano de la propiedad industrial:IMPI)、および欧州特許庁(European Patent Office:EPO)、ブラジル産業財産庁(National Institute of Industry Property Ministry of Economy of Brazil:INPI)とNORMAL-PPH、PPH-MOTTAINAIおよびPCT-PPHを実施または試行しており、日本国特許庁(Japan Patent Office:JPO)、米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office:USPTO)、ドイツ特許商標庁(Das Deutsche Patent- und Markenamt:DPMA)および韓国特許庁(Korean Intellectual Property Office:KIPO)を含む27の知財庁とグローバルPPH(Global Patent Prosecution Highway:GPPH)を実施している。
一般的に、GPPHまたはPPH請求は、OEE Dossier Access System*3に参加していない他のGPPH参加特許庁または個々のPPH参加特許庁による特許調査および審査結果をIPOSに対して提出することが要求される。その結果において、認可可能あるいは特許可能と判断された少なくとも一つの請求項が存在する必要がある。出願されたシンガポール特許出願におけるすべての請求項は、他の先行庁であるGPPH参加特許庁または個々のPPH参加特許庁による特許調査および審査結果において認可可能あるいは特許可能と判断された一つ以上の請求項に十分に対応したものであるか、もしくは十分に対応するように補正されたものでなければならない。ここで請求項は、翻訳および請求項の形式による差異を考慮して、同一または類似の範囲を有する請求項である場合、もしくはその範囲が狭い場合には、当該請求項は請求項の対応要求事項を満たすものと見なされる。
なお認可可能あるいは特許可能な請求項と当該シンガポール特許出願の請求項の関連性を示す請求項の対応表が提出されなければならず、GPPHまたはPPH請求が提出されたシンガポール特許出願については審査が既に開始されていてはならない。
*1:Acceleration Programmes
https://www.ipos.gov.sg/about-ip/patents/how-to-register/acceleration-programmes
*2:Global Patent Prosecution Highway Pilot Programme Guidelines for Filing a Request at the Intellectual Property Office of Singapore Relying on the international Search and/or Examination Results under the Patent Cooperation Treaty
https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/default-document-library/gpph-guidelines-(pct)-jun2022.pdf
*3:OEE(Office of Earlier Examination)の文書アクセス・システム、上記*2参照
2.審査オプション(b)対応外国出願またはPCT出願の調査結果に基づく審査
審査オプション(b)において、出願人は、出願日もしくは優先権日から36か月以内に対応出外国願または対応PCT出願の調査結果に依拠して、IPOSに審査を請求する。
審査オプション(b)に基づき、対応PCT出願の国際調査報告書の写しまたは対応外国出願において発行された調査報告書の写しをIPOSに提出することにより審査を迅速化することができる。その後、審査官は審査を行うに際して、提出された国際調査報告書または対応外国出願において発行された調査報告書を参照する。この審査オプション(b)では、さらなる調査報告書が発行されることはなく、意見通知書または最終審査報告書のみが審査官により発行される。
国際調査報告書の写しまたは対応外国出願において発行された調査報告書の写しには、知的財産局により提出を指示された場合のみ、依拠した調査報告書において引用されたすべての文献の写し、依拠した調査報告書で引用された非英語文献それぞれの特許ファミリーに対する引用リストが添付されなければならない。また、シンガポール知的財産局の指示により、依拠した調査報告書が英語で書かれていない場合は当該調査報告書の証明付き翻訳文、および提出したその他すべての非英語文献の証明付き翻訳文(Verified Translation)の提出を求められる場合がある。
審査オプション(a)で議論されたGPPHおよびPPHは、要求される文書をIPOSに提出することにより、審査オプション(b)においても請求することができる。
対応外国出願:オーストラリア、カナダ、欧州特許庁(EPO)(英語で出願されている場合)、日本、ニュージーランド、韓国、英国または米国における出願であって、出願されたシンガポール特許出願の発明と同一または実質的に同一の発明に関するもので、かつシンガポール特許出願における優先権主張の基礎となった出願、当該シンガポール出願を基礎として優先権主張した出願、またはシンガポール特許出願における優先権主張と同一の優先権主張をする出願である。
3.シンガポール知的財産ファストトラック(SG IP Fast Track)*4
SG IP Fast TrackはIPOSが2020年5月1日に特許について開始し、同9月1日に商標、意匠に拡張された、出願の加速施策のパイロットプログラムであり、現在、2024年4月30日までの実施が予定されている。
出願から査定までの期間は以下のようになるとされる。
・単純な特許出願は最短で6月、複雑な特許出願は最短で9月
・単純な商標出願は最短で3月、複雑な商標出願は最短で6月
・意匠出願は最短で1月
特許出願は一月当たり10件の受付制限があるが、商標、意匠には制限を設けていない。
商標、意匠の出願については、Fast Trackの対象となる特許に関連した出願に限られるなど、いくつかの制限が設けられている。
*4:Extension of SG IP FAST Track Programme and Sunset of 12 Months File-to-Grant
Programme (Circular No. 3/2022, dated 22 April 2022)
https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/patents/circulars/(2022)-circular-no-3.pdf
■ソース
・シンガポール知的財産局ウェブサイトhttps://www.ipos.gov.sg ・シンガポール知的財産局「Acceleration Programmes」
https://www.ipos.gov.sg/about-ip/patents/how-to-register/acceleration-programmes ・シンガポール法務省ウェブサイト
https://www.mlaw.gov.sg
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.11.03