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中国における新規性の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(後編)

2023年02月16日

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■概要
中国の審査基準(専利審査指南)のうち新規性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の事項については省略する。本稿では、前編・後編に分けて専利審査基準の新規性の留意すべき点などを紹介する。後編では、請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意点について説明する。法律や新規性に関する専利審査基準の記載個所などの情報、新規性判断の基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33728/)をご覧ください。
■詳細及び留意点

 法律や新規性に関する専利審査基準の記載個所などの情報、新規性判断の基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」をご覧ください。

5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.1 審査の原則

(2) 異なる事項または留意点
 請求項に係る発明と引用発明とが、技術分野、解決しようとする技術的課題、技術方案(発明の構成)、期待される効果が実質的に同一である場合には、両者が同様の発明または実用新案に当たると判断され、新規性を有さない。すなわち、新規性の判断において、発明の構成の他に、「技術分野」、「技術的課題」および「効果」についても考慮される点に留意する必要がある。
 なお、中国では、方法の発明に属する用途発明があり、物自体に新規性がない場合でも、その用途の発見に基づく用途発明に新規性が認められる可能性があることにも留意する必要がある(専利審査指南第2部分第十章4.5)。

5-2.上位概念または下位概念の引用発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.2.2 具体的(下位)概念と一般的(上位)概念

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.2.2 具体的(下位)概念と一般的(上位)概念

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章2.3 対比文献

(2) 異なる事項または留意点
 技術常識の参酌においては、対比文献に明記される内容とともに、属する技術分野の技術者にとって暗に含まれており、かつ直接に、一義的に確定できる内容で判断する。「直接に、一義的に確定できる内容」という判断基準は、補正の内容と範囲(専利審査指南第2部分第八章5.2.1.1)の判断基準と同様(同レベル)である。すなわち、「技術常識」として参酌される範囲が厳格であり、図面から推測された内容あるいは文字説明がなく、図面を計って得られた寸法およびその間の関係は開示された内容としてはならない点に留意する必要がある。
 
 最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)には、次のように規定されている。

 第二条第二項
 前項の規定に基づき画定できない場合、属する技術分野の当業者が通常採用する技術辞書、技術マニュアル、参考書、教科書、国家又は業界の技術基準等により画定する。

6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.2.5 (1)性能、パラメータ特徴を含む製品の請求項

(2) 異なる事項または留意点
 請求項における性能(機能)の特徴が、保護が請求されている製品がある特定の構造および/または組成を備えていることを暗に含んでおり、その特定の構造および/または組成が引用発明と区別できる場合は新規性を有し、区別できない場合は新規性を有さない。
 例えば、専利出願の請求項がX回折データなど複数種のパラメータにより特徴づけた結晶形態の化合物Aであり、対比文献で開示されたのも結晶形態の化合物Aである場合、もし、対比文献の開示内容に基づいても、両者の結晶形態を区別できなければ、保護を請求する製品が対比文献の製品と同一であることを推定でき、当該出願された請求項は、対比文献に対して、新規性を具備しないことになるが、出願人は出願書類または現有技術に基づき、出願された請求項により限定された製品が対比文献に開示された製品とは結晶形態において確かに異なることを証明できる場合は除かれる。

6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.2.5 (2)用途特徴を含む製品の請求項

(2) 異なる事項または留意点
 請求項における用途の特徴が、保護が請求されている製品がある特定の構造および/または組成を備えていることを暗に含んでおり、その特定の構造および/または組成が引用発明と区別できる場合は新規性を有し、区別できない場合は新規性を有さない。
 例えば、抗ウイルス用の化合物Xの発明は、触媒用化合物Xの対比文献に比べると、化合物Xの用途が変化しているものの、その本質的な特性を決定する化学構造式には何らかの変化もないため、抗ウイルス用化合物Xの発明は新規性を具備しない。
 なお、中国では、用途発明は(使用)方法の発明に属し、当該製品が新規性を具備しないケースであっても、その用途発明が新規性を具備するケースがありえる(専利審査指南第2部分第十章5.4)。

6-3.サブコンビネーションの発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
 異ならないと考えられる。
 専利審査指南のうち新規性に関する部分には、サブコンビネーションに関する記載は存在しないが、請求項の記載形式に関する専利審査指南第2部分第二章3.1.2には、次のとおり記載されている。

 1件の専利出願の権利要求書において、少なくとも1つの独立請求項を有しなければならない。2つまたは2つ以上の独立請求項がある場合、一番先頭に書いてある独立請求項は第一独立請求項、その他の独立請求項は並列独立請求項と呼ばれる。審査官が注意しなければならないのは、並列独立請求項も、前の独立請求項を引用する場合がある。例えば、「請求項1における方法を実施する装置で、…」、「請求項1における製品を製造する方法で、…」、「請求項1における部品を含む設備で、…」、「請求項1におけるコンセントに対応するプラグで、…」など。このようなその他の独立請求項を引用する請求項は並列独立請求項であり、従属請求項と見なされてはならない。こうした別の請求項を引用している独立請求項の保護範囲を確定する時に、引用された請求項の全ての特徴を配慮しなければならないが、その実際の限定役目は、最終的に当該独立請求項の保護主題に与えた影響において具現しなければならない。

 上記下線部のとおり、例えば、一方のサブコンビネーションの発明の請求項に、他方のサブコンビネーションの構成が記載されている場合(例:プラグの発明の請求項にコンセントに関する記載がある場合)、経験的にその記載に基づいてプラグの機能が特定されていると把握される。

6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.2.5 (3)製造方法の特徴を含む製品の請求項

(2) 異なる事項または留意点
 日本では、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する最高裁判決(平成24年(受)1204号、同2658号)を受けて、特許・実用新案審査ハンドブック2203~2205が設けられており、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合は、審査官が「不可能・非実際的事情」があると判断できるときを除き、当該物の発明は不明確であるという拒絶理由を通知するとされている(特許・実用新案審査基準(日本)第Ⅱ部第2章第3節4.3.2)。
 これに対して、中国では、「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」であることのみに起因して明確でないとの拒絶理由が通知されることはない。

 専利審査指南第2部分第三章3.2.5(3)には、次のとおり記載されている。

この類の請求項について、当該調整方法により、製品にある特定の構造及び/又は組成をもたらすかを考慮しなければならない。もし、属する技術分野の技術者は、当該方法が必然的に、対比文献の製品と異なる特定の構造及び/又は組成を製品にもたらすことを断定できれば、当該請求項は新規性を具備する。逆に、もし出願された請求項により限定された製品は対比文献の製品に比べて、記述された方法が違うものの、製品の構造及び組成が同じであれば、当該請求項は新規性を具備しない。

 また、最高人民法院による専利権侵害紛争案件の審理における法律応用の若干問題に関する解釈(二)の第10条では、次のように規定されている。

 請求項の中で調製方法により製品を区分する技術的特徴について、被疑侵害製品の調製方法がそれと同一でも同等でもない場合には、人民法院は、被疑侵害技術案は専利権の保護範囲に含まれないと認定しなければならない。

 以上のとおり、権利化段階では、「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」における方法的記載が直接的に新規性を持つことに貢献することはない一方で、権利化後の段階ではその方法的記載が権利範囲を狭める役割を果たしてしまう(**)
 したがって、中国では、「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」は、通常、特許請求の範囲の作成において発明を適切に表現するには「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」を用いるしかないというような状況で利用されていると考えられる。
(**)日本では、最高裁判決(平成24年(受)1204号)において、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。」との判断が示されている。

6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3.2.4 数値と数値範囲

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

7.その他の留意点
 専利審査指南のうち新規性に関する事項について、その他留意すべき点として以下の事項がある。

(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
 専利審査指南第2部分第三章3. 新規性の審査

(a) 新規性を具備するかどうかは、実用性を具備した場合に考慮される。
(b) 実用性とは、発明または実用新案の出願の主題は、産業上で製造、または使用することができ、かつ積極的な効果を生じるものでなければならないことを指し(専利審査指南第2部第五章2.実用性の概念)、日本の産業上の利用可能性に対応するものである。

■ソース
専利審査指南2010(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201.pdf
※第二部分第三章については2010年版から改定されていない。
専利審査指南2010(原文)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/section20100201.pdf
最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)
https://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-254761.html
https://zh.wikisource.org/wiki/最高人民法院关于审理专利授权确权行政案件适用法律若干问题的规定(一)
特許・実用新案審査基準(日本)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
特許・実用新案審査ハンドブック(日本)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/02.pdf#page=29
最高人民法院による専利権侵害紛争案件の審理における法律応用の若干問題に関する解釈(二)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/interpret/20210101_1.pdf
■本文書の作成者
北京銀龍知識産権代理有限公司
■本文書の作成時期

2022.08.29

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