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台湾における非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて

2023年02月07日

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■概要
カタカナを含む商標は、日本ブランドであることを識別させる手段として有効であるため、台湾におけるカタカナを含む商標の取得ニーズは極めて高い。本稿では、台湾におけるカタカナなどの非アルファベット文字を含む商標の類否判断基準について、商標審査基準および判例とともに紹介する。
■詳細及び留意点

1.記載個所
 標章の類否基準については、「誤認混同のおそれの商標審査基準」(混淆誤認之虞審查基準)が2021年10月27日に施行されている。その概要(目次)は以下のとおり。

1. まえがき
2. 商標類似(*)、商品類似及び誤認混同の関係
3. 誤認混同の類型
4. 誤認混同のおそれの有無の判断における参考要素
5. 各項参酌要素の内包
5.1 商標識別力の強弱
5.2 商標の類否及びその類似の程度
5.3 商品又は役務の類否及びその類似の程度
5.4 先権利者による多角化経営の状況
5.5 実際における誤認混同の状況
5.6 関連消費者の各商標に対する熟知の程度
5.7 係争商標の登録出願が善意であるか否か
5.8 その他誤認混同の要素
6. 各項参酌要素間の相互作用関係
7. 誤認混同の衝突の排除

(*)「混淆誤認之虞審查基準」では「類否」という用語は用いられておらず、「近似」または「類似」という用語が用いられている。本記事においても、引用記載において「類似判断」と記載した箇所がある。

2.標章の類否判断に関する基本的な考え方
 審査基準「2. 商標類似、商品類似及び誤認混同の関係」において、(i)原則的に二つの商標が同一で同一の商品または役務への使用を指定する場合、誤認混同のおそれを構成すると推定。(ii)二つの商標が異なるもので、同一または類似する商品または役務への使用を指定する場合、商標の類似程度および商品・役務の類似程度を考慮して、更に一歩進んだ「誤認混同のおそれ」を構成するか否かを判断しなければならない、と規定されている。

3.標章の類否判断における(外観、称呼、観念)の認定
 審査基準「5.2 商標の類否及びその類似の程度」において、商標の類否判断は、(i)原則的に商標登録出願をした商標図案を基準、(ii)商標全体の外観、称呼および観念の面において、誤認を生じさせる類似程度に達するか否かを判断することとしている。(ii)について詳述すると、基本的に対象となる商標構成の全体を対象にし、異なる時点において離隔観察を行い、類否を判断する際には、外観、観念および称呼という視点から判断し、そのいずれかの一つが類似すれば、基本的に類似を構成すると認められる。その場合、商標の全体的印象が当然類似すると推論できるわけではないことから、商品または役務の消費者に誤認を生じさせる程度に達しているか否かを類否判断の根拠としなければならない

4.外観、称呼、観念の類否について
4-1.外観の類否について

(1)審査基準「5.2.6 文字商標の類似判断時における関連原則」の5.2.6.1に「商標が消費者に与える第一印象は外観にあると記載されている。従って、二つの文字商標の外観が類似である場合、観念及び称呼が必ずしも類似でなくとも、当該二つの商標を類似していると認定することができる。」とされている。例えば、下記は類似していると認定される。

(2)審査基準5.2.6.2の規定は以下のとおり。
 二つの文字商標の外観が類似していない(例えば一方が楷書体で他方が篆書体であり、または一方が繁体字で他方が簡体字である)ものの、その字の意味が類似している場合は、観念および称呼の類似によって類似していると認定される。

(3) 漢字を含む商標同士の類似性を判断する際には、外観及び観念の比較を重視する(審査基準5.2.6.3)。
例えば、下記は類似していると認定される。

(4) 商標に共通の文字が含まれ、それ以外の文字に、識別力がない、または、商標全体の外観および観念に与える影響が少ない場合、類似と判断される。
 例えば、「好韓村」と「韓村館」、「福味堂」と「福味小吃屋」(審査基準5.2.6.12)や、「LOVEANGELCARE」(出願第108060143号)の出願の審査段階において「安全天使 angel care 及び図形」(登録第1535582号)が引用され、類似していると認定され、拒絶査定が発行された(https://twtmsearch.tipo.gov.tw/OS0/OS0401_SCN3.jsp?issueNo=XpJ13RyT4UEJJSFlSbVFRV3YzV2hFYjhIWVRPQT09&l6=zh_TW&isReadBulletinen_US=&isReadBulletinzh_TW=true)。

(5) 外国語文字の最初の部分が同一の場合(審査基準5.2.6.6)
 外観と称呼において、外国語文字の最初の部分は、全体的な字句が消費者に与える印象について極めて重要な影響を与えることから、類否判断の際にはより重点的に考慮する。
 例えば、「SIGMU」と「SIGMA」、「PEMINESSANCE」と「PEMINISCENCE」等は類似していると認定される。ただし、最初の部分の識別力が欠如または弱い場合には適用されない。例えば「Bioneed」と「BIONEO」については、「Bio」は外国語でよく見受けられる接頭語であり、すでに商品・役務においてもよく使用されていることから、類似の程度は高くないと認定される。

(6) 例えば、英語の字句において、五つの表音文字のうち、四つが同一の場合(審査基準5.2.6.13)、類似である可能性は高い。例えば、「house」と「horse」。ただし、語頭が異なる場合など個別に考慮する。例えば、「house」と「mouse」は非類似と認定される。

4-2.称呼の類否について
(1)審査基準「5.2.6 文字商標の類似判断における関連原則」の「5.2.6.4 商標文字・称呼の類似」においては、
・「商標自身の文字・称呼を基準とすべき」とし、
・中国語の称呼については、台湾の一般民衆が通常習慣的に行う発音を基準とし、
・外国語の称呼については、外国の発音規則を参酌して判断根拠とする
旨が規定されている。

(2)審査基準5.2.6.4には、中国語、外国語との間で翻訳後に初めてその称呼に関連することが明らかになる場合、原則として称呼の類似には該当しない、と規定されている。例えば、中国語の「酷魚」(中国語の発音koujú,、台湾語の発音kɔrhi)と外国語の「corhea」(発音「kɔrhi」)とは非類似とされている。

(3) 外国語のみの商標と中国語・外国語を兼用している商標間での類否
 審査基準5.2.6.4には、原則的に両者の外国語の部分を比較するのみで、その中国語、外国の称呼は対比しないと規定されている。ただし、中国語、外国語が相互に対応する発音で、全体的な称呼が似ている、または社会通念によりすでに特定の対応する字句で、関連消費者に連想を生じやすい場合、全体的な読みはやはり類似となる可能性がある。
例えば、「Fuji」と「富士」(審査基準5.2.6.4例示)、「funai」と「船井」(知財裁判所99年行商訴字第199号判決)、「MITSUI」と「三井」(知財裁判所102年行商訴字第147号判決)が類似していると認定された。
・知財裁判所99年行商訴字第199号判決
https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=IPCA,99%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c199%2c20110310%2c2

・知財裁判所102年行商訴字第147号判決
https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=IPCA,102%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c147%2c20140509%2c1

(4) 英語、フランス語、ドイツ語、日本語等の表音的な外国語
 審査基準5.2.6.5に、これらが「消費者に与える主な印象は、その称呼であり、対比においては自ずとその音節の数、順序と重音等の一連の読みを全体の称呼として判断する。更に、外国語字句の商標は、その字義が台湾の一般民衆に普遍的に熟知されているものでない場合は、文字の称呼及び外観の比較対照に重点を置かなければならない。当該字句が台湾の一般民衆に普遍的に熟知されているものである場合は、比較対照におけるその観念の比重を大きくすることができる。」と規定されている。
 なお、日本語のカタカナ、ひらがなの称呼は、通常、熟知されているとされる。実務上、インターネットの検索エンジンまたはgoogle翻訳で取得できる情報であれば、台湾の当該商品・役務の需要者の理解できる情報であると認定される傾向がある。台湾では日本語を習得している人が多く、審査官が識別力を審査するに際しインターネット検索エンジン等を利用して確認することが知られている。例えば、以下の拒絶事例が知られている(https://twtmsearch.tipo.gov.tw/OS0/OS0401_SCN3.jsp?issueNo=XpJ13RyT4c3krdjFSNXN4WGF0WDhEN3c1TVpUZz09&l6=zh_TW&isReadBulletinen_US=&isReadBulletinzh_TW=true)。

4-3.観念の類否について
 既に述べたように外観または称呼と観念とを組み合わせて全体的な印象に基づいて判断し、観念のみを取り出して類否判断する例は、審査基準に示されていない。
一方、外観、称呼および観念以外に、類型(コンセプト)が類似している場合を審査基準5.2.10において以下を例示している。
類似例:

中台異字第G01070684号(異議審決)
https://twtmsearch.tipo.gov.tw/OS0/OS0401_SCN3.jsp?issueNo=XpJ13RyT4bmxZbFR5SmpTM0hjUVpuWFpQTWpkQT09&l6=zh_TW&isReadBulletinen_US=&isReadBulletinzh_TW=true

6.外国語商標、非アルファベット文字商標およびカタカナ商標の識別力について
 台湾において、外国語商標は、その外国における意味が指定商品/役務の通用名称または関連説明である場合、識別力を有しないものとされる。たとえ国民になじみのない言語であり、審査時に、それが商品/役務の通用名称または関連説明であることが発見されずに登録査定されたとしても、登録後に異議申立、無効審判などの手続を通じてその商標登録が取消される可能性がある(商標識別性審査基準4.1.3)。

 例えば、「極生ミルクバター食パン」(知的財産及び商業裁判所110年行商訴字第46号判決)は中文の「極生」(当該商品が極めて天然由来で、余分なものが加えられていないという意味合いを有する)と、日本語の「ミルク」、「バタ一」および「食パン」で構成され、「パン、レストラン」などに使用された場合、指定商品/役務の関連特性を説明する用語に該当し、識別力を有しないとされている。

 審査官が識別力を審査するにあたり、インターネットの検索エンジンおよびgoogle翻訳を使って確認することが多い。これは、台湾の消費者も外国語の商標に接したときには、これらの方法で商標の意味を認識する可能性が高いとの考えに基づいたものである。そのため、インターネットの検索エンジンまたはgoogle翻訳で取得できる情報であれば、台湾の当該商品・役務の需要者の理解できる情報であると認定され、それに基づいて識別力が判断される傾向がある。すなわち、指定商品の性質を日本語で直接的に表したカタカナやひらがなは、台湾語または中国語では直接、当該性質を表していないとしても、識別力が欠如した商標とされる可能性が高い。

■ソース
混淆誤認之虞審查基準
https://chizai.tw/test/wp-content/uploads/2021/11/混淆誤認之虞審查基準(2021年10月27発行).pdf
誤認混同のおそれの審査基準(日本語)
https://chizai.tw/test/wp-content/uploads/2022/03/商標誤認混同のおそれ審査基準(2021年10月27日発効).pdf
知財裁判所102年行商訴字第147号判決
https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=IPCA,102%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c147%2c20140509%2c1
知財裁判所99年行商訴字第199号判決
https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=IPCA,99%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c199%2c20110310%2c2
中台異字第G01070684号(異議審決)
https://twtmsearch.tipo.gov.tw/OS0/OS0401_SCN3.jsp?issueNo=XpJ13RyT4bmxZbFR5SmpTM0hjUVpuWFpQTWpkQT09&l6=zh_TW&isReadBulletinen_US=&isReadBulletinzh_TW=true
商標識別性審査基準(2022.9.1に発効)
https://www.tipo.gov.tw/tw/dl-282589-cf66b69a9e404da29952e8de1f699be8.html
知的財産及び商業裁判所110年行商訴字第46号判決
https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=IPCA,110%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c46%2c20211222%2c1
■本文書の作成者
LEE AND LI, Attorneys-at-law
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.08.31

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