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中国における非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて

2023年02月07日

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■概要
カタカナを含む商標は、日本ブランドであることを識別させる手段として有効であるため、中国におけるカタカナを含む商標の取得ニーズは極めて高い。本稿では、中国におけるカタカナなどの非アルファベット文字を含む商標の類否判断基準について、商標審査審理指南および判例とともに紹介する。
■詳細及び留意点

1.記載個所
 標章の類否基準については、「商標審査審理指南2021」(2022年1月1日施行。以下同じ。)の下編「第五章 商標の同一、類似の審査・審理」に記載されている。その概要(目次)の抜粋は以下のとおり。

第五章 商標の同一、類似の審査・審理
1. 法的根拠
2. 解釈
3. 判断の原則と方法
3.1 分離観察、全体比較、要部比較の方法
3.2 関連する考慮事項
4. 具体例:商標同一審理
 4.1 文字商標の同一
 4.2 図形商標の同一
 4.3 組合せ商標の同一
5. 具体例:商標類似審理
 5.1 文字商標の類似
 5.2 図形商標の類似
 5.3 組合せ商標の類似
6. 具体例:一般商標と、団体商標、証明商標の同一、類似審理

2.標章の類否判断に関する基本的な考え方
 日本の商標審査基準(日本)の第3 十「第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標」に対応する「商標審査審理指南2021」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載されたガイドラインの場所
 「商標審査審理指南2021」下編 第5章「3. 判断の原則と方法」には、以下の規定がある。
 「商標の同一または類似を認定するときは、まず指定商品または役務が同一または類似の商品または役務に該当するかどうかを判断し、そして商標自体の形、読み方、意味および全体表現などについて、関連公衆の一般注意力を基準とし、全体の観察と主要部分の対比という方法を通じて、商標の標識自体が同一または類似であるかどうかの判定を行うとともに、商標自体の顕著性、先行商標の知名度、および同一または類似する商品(役務)に使用した場合関連公衆に商品(役務)の出所を混同、誤認させる可能性などを考慮しなければならない。
 また、商標法第57条で登録商標専用権の侵害行為として、「(一)商標登録者の許諾を得ずに、同一の商品にその登録商標と同一の商標を使用すること。(二)商標登録者の許諾を得ずに、同一の商品にその登録商標と類似の商標を使用し若しくは類似の商品にその登録商標と同一または類似の商標を使用し、容易に混同を生じさせること。」

(2) 留意点
 上記下線部の規定から理解されるとおり、類似商標については、下記の順序で審査される。

 (i) まず、指定商品・役務が類似するか否かを判断し、
 (ii) 次に、標章の「外観、称呼、観念」および全体の表現について、消費者の通常の注意力をもとに分離観察して、全体比較および要部比較を行うによって標章自体が類似するか否かを判断し、
 (iii) 商標の顕著性、知名度などを考慮して消費者に出所混同が生じるおそれを判断する。

 また、商標法第57条の規定においては、同一の登録商標を無許可で使用すると、消費者に出所混同が生じるおそれを考慮することなく、権利侵害行為としている。

3.標章の類否判断について
(1) 「商標審査審理指南2021」の下編 第5章「2. 解釈」には、以下の規定がある。
 「商標の同一とは、二つの標章に視覚的な差異がほとんどなく、同一または類似の商品または役務に使用した場合、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあることをいう。
 商標の類似とは、標章の文字の形、読み方、意味が類似し、標章の図形の構造、色彩、外観が類似し、または文字と図形の組み合わせの全体の構造方式・外観が類似し、立体商標における立体標識の形状・外観が類似し、色彩商標の色彩または色彩の組み合わせが類似し、音声商標の聴覚感知または全体的な音楽イメージが類似し、同一または類似の商品または役務に使用するとき、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあることをいう。」

(2) 留意点
 商標同一の定義は、標章の間に「視覚的」な差異がほとんどなく、かつ、商品・役務の出所混同を生ずることとされており、称呼や観念は、必ずしも考慮の前提とされていない。
 商標類似の定義は、まず、標章を、文字商標、図形商標、文字と図形の組み合わせ、立体商標、色彩商標、音声商標等に分類し、次に、文字商標については外観、称呼および観念が類似し、図形商標については構造・色彩等の外観が類似し、文字と図形の組み合わせについては全体の構造および外観が類似することなどとされている。

4.文字商標、図形商標、組合せ商標の同一および類似について
4-1.文字商標の同一および類似について

(1) 同一
 「商標審査審理指南2021」の下編 第5章「4. 文字商標の同一」には、以下の規定がある。
 「文字商標の同一とは、商標に使用する言語が同じであって、かつ文字の構成と配列の順序が完全同一で、関連公衆に商品または役務の出所を混同、誤認させるおそれがあることをいう。字体、アルファベットの大文字・小文字、または文字の配列に横と縦の違いがあることで二つの商標に微かな差異があるときも、同一の商標と判定される。」

(2) 文字商標の類似
(i) 中国語の商標であって同じ漢字で構成され、字体、デザイン、称呼、配列の順序だけが違い、関連公衆に商品または役務の出所を混同させやすい場合は、類似商標と判定される。
(ii) 中国語商標の顕著な識別性を有する部分の漢字構成が同じであるが、順序が異なるだけで、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。
(iii) 商標文字または顕著な識別性を有する文字の読み方が同一または類似し、かつ字体または全体の外観が類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(iv) 文字の構成と発音が異なるが、字形が類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(v) 商標の文字構成または発音が異なるが、意味が同一または類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあるものは、類似商標と判定される。
(v-1) 外国語商標の意味が中国語および数字商標と主に意味が同じ(意味に対応関係がある)または基本的に同じ(意味に強い対応関係がある)であり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(v-2) 2つの外国語商標の主な意味が同一またはほぼ同一であり、字体に大きな違いがなく、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記の中国語訳はいずれも「生活解決方案」なので、類似商標と判定される。

(vi) 商標が1つまたは2つの外国文字または数字で構成され、字体またはデザインのみが異なり、商標の全体的な外観が類似し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

 ただし、標章が一般的ではない字体から1または2の外国文字で構成され、字体が明らかに異なる場合、商標間の全体的な相違は明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合、類似商標と判定されない。例えば、下記は、類似商標と判定されない。

(vii) 外国語の商標が3文字以上で構成されている場合、個々の文字のみが異なり、全体に意味がないかまたは意味に明らかな相違がなく、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあるものは、類似商標と判定される。
 ただし、商標のイニシャル(読み始めの部分)の発音と形が明らかに異なり、商標間の全体的な違いが明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合は、類似商標と判定されない。例えば、下記は、類似商標と判定されない。
(例1)LOVE(意味:愛)とEOVE(意味無)
(例2)RELGAN(意味無)とSELGAN(意味無)

 また、商標の全体的な意味が異なり、商標間の全体的な相違が明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合も、類似商標と判定されない。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定されない。

(viii) 商標が3以上の外国文字で構成され、文字が異なる順序で配置され、商標間の全体的な相違が明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合、類似商標と判定されない。例えば、下記は、類似商標と判定されない。

(ix) 商標が2つの外国語で構成され、語順のみが異なり、意味に明らかな相違がなく、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標として判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(x) 外国語商標の単語が、単数形と複数形、動名詞、略語、比較級と最上級、品詞、冠詞の追加、接続詞の追加、前置詞の追加などの形でのみ変化する場合;例えば、「MORE」「THE」「LA」「LE」「AND」「BY」「FROM」など、表現が基本的に同じであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標として判定される。

4-2.図形商標の同一および類似について
(1) 同一
 構成要素や表現に関して図形商標間に視覚的な相違が基本的にないことを意味し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、同一と判定される。例えば、下記は、いずれも同一と判定される。

(2) 類似
(i) 図形商標の構成と全体的な外観が類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標として判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(ii) 他人の過去の著名な商標や特徴的な図形が商標に含まれており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

4-3.組合せ商標の同一および類似について
(1) 同一
 標章の文字構成、図形の外観、配置および組合せが基本的に同一であり、同じであるため、標章の称呼と全体の視覚の点で基本的に区別できず、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、同一と判定される。例えば、下記は、いずれも同一と判定される。

(2) 類似
(i) 標章の漢字部分が同一または類似であり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、(図形が非類似でも)類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

 ただし、漢字が標章の識別力のない部分または識別力を有する主要部分でなく、外観が明らかに相違しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがない場合を除く。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定されない。

(ii) 標章の外国語部分または数字部分が同一または類似し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

 ただし、標章の全体的な称呼、観念および外観が明らかに相違し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がない場合、類似商標と判定されない。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定されない。

5.外国語マーク、非アルファベット文字およびカタカナについて
(1) アルファベット文字
 中国の消費者の通常のレベルで認識できれば、称呼、観念が生じるが、認識できなければ、造語として認識し、称呼、観念が生じない。例えば、下記商標に含まれるアルファベット文字「MEN’S WEARHOUSE」は、通常良く見られる英単語であり、中国領域内の消費者の通常の認識によって「男のたんす」と容易に認識できるため、類似と判断された例である(案件番号:(2021)京行終3574号)。

 アルファベット文字を含む商標の類否については、前記の規定および例示を参照のこと。

(2) 非アルファベット文字
 通常、図形として認識し、称呼、観念が生じないが、その内容を中国の消費者が通常のレベルで認識できるものであれば、称呼、観念が生じる。例えば、下記の商標について、判決書では、「外国語の商標と中国語の商標との類似性判断について、消費者の認識レベルおよび外国語商標と中国語標章との間に対応関係を形成しているか否かなどの要素を考慮すべきである」と述べたうえ、「本件において、係争商標の図形は韓国語文字であり、かつ見慣れない単語ではなく、対応する中国語の観念は、『氷雪』である。係争商標の中国語意味と引用商標一の顕著な識別部分『雪冰元素』とは、文字の構成、称呼などにおいて類似し、類似商標を構成する」と判断された((2019)京行終5884号)。

(3) カタカナのみからなる商標
基本的には(2)と同じであるが、文字(漢字)と認識された事例があるので留意が必要である。例えば、「トモエ」(出願No.19652325)は、漢字の「卜乇工」として認識された(案件番号:商評字[2021]第291360号)。

(4) カタカナを含む商標
 カタカナ(またはひらがな)と漢字(簡体字、繁体字、和製漢字、異体字)またはアルファベットとの組み合わせの場合、漢字またはアルファベットが要部と認識されて判断された事例があるので留意が必要である。例えば、

について、判決書では、「係争商標は、漢字『薬局』、日本語『スギ』によって構成する。その内、漢字『局』には機関および団体などの意味を有し、『薬』には病を治る物品の意味を有し、『薬局』を『血圧計,哺乳瓶』などの商品に使用する場合、消費者が商品の出所、品質、機能、用途などの特徴に容易に誤認を生じ、欺瞞性を有し、商標法10条1項7号に該当する」と述べ、「スギ」の観念について言及せず、漢字の部分のみで商標の観念を判断した((2021)京行終8945号)。
 また、例えば、「シルウォーム\SILLWARM」(引用商標3)は、英語『SILLWARM』および日本語によって構成されており、中国の消費者の認識習慣からすると、引用商標3の要部は英語部分である」とした((2019)京行終4965号)。

■ソース
商标审查审理指南2021(商標審査審理指南2021)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20220101_3.pdf
商标审查审理指南2021 下編 商標審査及び審理編(日本語版)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20220101_2.pdf
商標法(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20191101law_2_jp.pdf
关于《商标审查审理指南》的解读(「商標審査・審判要領」の解釈)
https://www.cnipa.gov.cn/module/download/downfile.jsp?classid=0&showname=关于《商标审查审理指南》的解读.pdf&filename=ff2d8c7b31b141af861c18ccb1346abb.pdf
日本の商標審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/document/index/20_4-1-11.pdf
北京市高級人民法院 行政判決(2021)京行終3574号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/57083fca5433c84ebef60c41c32b162c.pdf
北京市高級人民法院 行政判決(2019)京行終5884号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/3e3fc9f465cf526e0dadc015cf36ca5d.pdf
商標審査委員会 無効審判の審判判決 商評字[2021]第291360号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/793fe94ac4e298059bd6e96daee91972.pdf
北京市高級人民法院 行政判決(2021)京行終8945号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/a7173f8135776d3200ba7e72e591c960.pdf
北京市高級人民法院 行政判決(2019)京行終4965号
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/41a683df87677be9ded1aa4c9d308d9f.pdf
■本文書の作成者
北京銀龍知識産権代理有限公司
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.08.30

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