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中国における商標の「識別力」

2013年07月26日

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■概要
(本記事は、2021/5/25に更新しています。)
 URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19908/

「識別力」は商標登録の要件の一つであり、通常、識別力を有しない標章は、商標として登録できない。ただし、使用により識別力を有するに至った商標はこの限りではない。商標の識別力の有無を判断する際は、商標の標章自体(観念、称呼及び外観の構成)、商標の指定商品、指定商品の関連公衆の認知習慣、指定商品の所属業界の実際の使用状況などを総合的に考慮しなければならない(審査基準第2部分)。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1)「識別力」の定義

商標の「識別力」とは、自己と他人の商品/役務を区別して、関連公衆に商品/役務の出所を識別させる特徴をいう(審査基準第2部分)。

 

(2)商標として登録できない標章

以下の標章は、商標として登録することができない(商標法第11条)。

(i)  その商品の単なる普通名称、図形、記号にすぎないもの。

(ii) 単なる商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接表示するにすぎないもの。

(iii) 識別力を欠くもの。

ただし、上記(i)~(iii)に該当する標章であっても、使用により識別力を有し、かつ容易に識別可能なものとなった場合には、商標として登録することができる。

 

(3)商標法第11条の関連解釈及び事例(審査基準第2部分)

(i)  商標法第11条第1項第1号にいう「普通名称、図形、記号」とは、国家基準、業界基準に規定されるまたは社会で一般的に認められる名称、図形、記号を指す。そのうち「名称」には、全称、略称、略語、俗称が含まれる。

例:

(a)指定商品で通用される普通名称にすぎないもの

指定商品で通用される普通名称にすぎないもの

指定商品で通用される普通名称にすぎないもの

指定商品:研磨道具(手道具)

(注:「MULLER」には「研磨機」の意味がある)

 

 

(b)指定商品で通用される図形にすぎないもの

指定商品で通用される図形にすぎないもの

指定商品で通用される図形にすぎないもの

 指定商品:果物

 

(c)指定商品で通用される型番にすぎないもの

指定商品で通用される型番にすぎないもの

指定商品で通用される型番にすぎないもの

指定商品:被服

 

(ii) 商標法第11条第1項第2号にいう「単なる商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接表示するにすぎないもの」とは、単に指定商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接に説明、描写する標章により構成されるものをいう。

例:

(a)単なる指定商品の品質を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品の品質を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品の品質を直接に表示するにすぎないもの

指定商品:食用油

(注:「纯净」は、「純粋、清浄」という意味である。「Chunjing」は「纯净」の中国語の表音文字である。)

 

(b)単なる指定商品の主要原材料を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品の主要原材料を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品の主要原材料を直接に表示するにすぎないもの

指定商品:服装

(注:「彩棉」は、ワタの一種である。)

 

(c)単なる指定商品の機能、用途を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品の機能、用途を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品の機能、用途を直接に表示するにすぎないもの

指定商品:漏電保護装置

(注:「SAFETY」の意味は「安全」)

(d)単なる指定商品の重量、数量を直接に表示するにすぎないもの

 

単なる指定商品の重量、数量を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品の重量、数量を直接に表示するにすぎないもの

指定商品:米

(e)単なる指定商品のその他の特徴を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品のその他の特徴を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品のその他の特徴を直接に表示するにすぎないもの

指定商品:医療・手術用手袋

(注:「醫生」は「医者」という意味で、指定商品の消費対象を表示する。)

単なる指定商品のその他の特徴を直接に表示するにすぎないもの

単なる指定商品のその他の特徴を直接に表示するにすぎないもの

指定商品:磁気テープ、光ディスク(音声、映像)、眼鏡

(注:「5¥」は指定商品の価格を表示する。)

(iii)   商標法第11条第1項第3号にいう「識別力を欠くもの」は一般条項として、商標法第11条第1項第1号、第2号に規定するもの以外のものを指す。通常、一般的な社会通念では、指定商品/役務の出所を区別できない標章をいう。

例:

(a)簡単すぎる線、普通の幾何図形

 

簡単すぎる線、普通の幾何図形

簡単すぎる線、普通の幾何図形

(b)複雑すぎる文字、図形、数字、アルファベット又はこれらの要素の組合せ

複雑すぎる文字、図形、数字、アルファベット又はこれらの要素の組合せ

複雑すぎる文字、図形、数字、アルファベット又はこれらの要素の組合せ

指定商品:菓子

(c)普通の形で表現する一つまたは二つのアルファベット

普通の形で表現する一つまたは二つのアルファベット

普通の形で表現する一つまたは二つのアルファベット

指定商品:腕時計、掛け時計、置き時計

(d)数字を型番又は貨物番号として使用する慣例のある商品において普通の形で表現するアラビア数字

数字を型番又は貨物番号として使用する慣例のある商品において普通の形で表現するアラビア数字

数字を型番又は貨物番号として使用する慣例のある商品において普通の形で表現するアラビア数字

指定商品:消毒剤

(e)指定商品の普通の包装、容器または装飾図案

指定商品の普通の包装、容器または装飾図案

指定商品の普通の包装、容器または装飾図案

指定商品:酒

(f)単一の彩色

単一の彩色

単一の彩色

(g)商品又は役務の特徴を表明する独創のものではない連語または文

商品又は役務の特徴を表明する独創のものではない連語または文

商品又は役務の特徴を表明する独創のものではない連語または文

指定商品:箱、かばん

(注:「一旦拥有,别无所求」は、「一旦保有したら、何も欲しくない」という意味があり中国の広告用語としてよく使用される。)

(h)当該業界または関連業界で通用する取引場所の名称

当該業界または関連業界で通用する取引場所の名称

当該業界または関連業界で通用する取引場所の名称

指定役務:販売(他人のための)

(i)当該業界又は関連業界で通用する営業用語又は標章

当該業界又は関連業界で通用する営業用語又は標章

当該業界又は関連業界で通用する営業用語又は標章

指定商品:メイク道具

(j)企業の組織形態、当該業界の名称又は略称

企業の組織形態、当該業界の名称又は略称

企業の組織形態、当該業界の名称又は略称

指定商品:印刷出版物

 

(3)使用による識別力

(i)商標法第11条第2項によれば、上記(2)(i)~(iii)に該当する標章であっても、使用により識別力を有し、かつ容易に識別可能なものとなった場合には、商標として登録することができる。つまり、標章自体の識別力はそれほど強くないが、使用により、自己と他人の商品/役務とを区別できるようになり、識別力を有するに至った商標は、登録を受けることができる。なお、ここでいう「使用」は、実務上、「中国本土における使用」と解されている(香港、マカオにおける使用は含まれない)。

 

(ii)このような場合、多くの使用証拠を提出して、当該商標並びに商品/役務、使用開始時期、持続の使用期間、使用地域、生産/販売の規模、広告宣伝、展示及びその他の営業活動の事実を証明しなければならない。通常、以下のような証拠が考えられる(審理基準6第2部分5.3.2参照)。

(a) 当該商標を付けた商品、商品包装、容器、ラベル、カタログ、パンフレットなど

(b) 当該商標を付けた役務のパンフレット、役務場所の看板、売り場の飾付、従業員の被服、メニュー、価格表など

(c) 当該商標を付けた商品/役務の取引書類(契約書、仕切伝票、納入伝票、注文伝票、請求書、領収書又は商業帳簿などを含む)

(d) 新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットなどのメディアにおける広告など

(e) 展覧会、展示会などにおける宣伝資料など

 

(iii)このような商標を審査する際、審査官は当該商標に関する関連公衆の認知状況、出願人の実際の使用状況、及びその他の要素を考慮しなければならないが(審査指南第2部分)、実務においては、このような審査は厳しいため、十分な証拠を提出できなければ、通常、認められない。

例:

多くの使用証拠を提出することにより、認められた登録例

多くの使用証拠を提出することにより、認められた登録例

指定役務:保険の引受け;預金の受け入れ

(注:上述の3例は、多くの使用証拠を提出することにより、認められた登録例である。)

 

【留意事項】

(1)上述のとおり、単なる普通名称などにすぎないもの、単なる商品の品質、主要原材料などの特徴を直接表示するにすぎないものは識別力が弱いと判断されるため、商標出願の際、拒絶される可能性が高いが、普通名称に他の識別力の強い要素を加えた上、出願する場合は、拒絶理由を回避できる可能性がある。また、商標は商品の特徴を直接に表示するものではなく、暗示的な表現であれば、出願してみる価値はある。

 

(2)使用により識別力を有するに至った商標について立証する際、当該商標の持続的、広範的、且つ多くの使用を証明しなければならない。しかも、関連業界では、当該商標を普通名称や記述的な表現などとして使用されていないことを証明する必要がある。

 

(3)識別力の強い商標でも、例えば、新聞、雑誌、インターネットの報道で、当該商標は普通名称の形で大量に使用されることにより、当該商標が普通名称として辞書や辞典に収録されるなど、使い方によっては識別力が弱くなり、普通名称となってしまうこともあるため、注意を要する。

 

■ソース
・中国商標法
・中国商標法実施条例
・中国商標審査基準 第2部分 商標の顕著な特徴の審査
・中国商標審理基準 6 第2部分 商標の使用及び関連行為による取消事案の審理
・中国商標局ウェブサイト
http://sbcx.saic.gov.cn/trade/index.jsp
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
三協国際特許事務所 弁理士 川瀬幹夫
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期

2013.02.05

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