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中国意匠出願における必要書類「簡単な説明」について
2013年06月11日
■概要
(本記事は、2024/3/5に更新しています。)URL:Uhttps://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/38421/
中国では、2009年10月1日の専利法改正後、「簡単な説明」が意匠出願の必要書類の一つとなった(専利法第27条)。「簡単な説明」は、その内容と形式を専利法実施細則に定められている規定に合致させなければならないほか、保護範囲に対する影響も考慮して記載しなければならない(専利法第59条2項)。
■詳細及び留意点
【詳細】
(1)意匠出願の「簡単な説明(中国語「简要说明」)」の内容
(i)「簡単な説明」には、以下の内容を含める必要がある(実施細則第28条)。
(a)意匠物品の名称、
(b)意匠物品の用途
(c)意匠の設計要点(中国語「外观设计的设计要点」)
(d)設計要点を最も良く表せる図面又は写真
また、実際の状況に応じて、上記4点以外の内容も要する場合がある。例えば、ある図面を省略する場合や色の保護を求める場合、「簡単な説明」の中でその点について説明しなければならない。また、一件の出願で同一物品(中国語「同一产品」)の複数の類似意匠(中国語「相似外观设计」)を出願する場合は、「簡単な説明」の中でいずれかを基本意匠(中国語「基本外观设计」)として指定しなければならない。
この他、「簡単な説明」には、商業的な宣伝用語を含めることはできず、物品の性能や内部構造を説明してはならない。物品の性能等、「簡単な説明」に記載すべきでない内容を記載した場合、それらの記載を削除するよう通知書が発行される。
(ii)上記4点は以下の要求に合致させる必要がある(専利審査指南第1部分第3章4.3)。
(a)「簡単な説明」における意匠物品の名称は、願書の物品名称と一致しなければならない。
(b)「簡単な説明」における意匠物品の用途は、物品の類別を確定しやすいように用途を記載しなければならず、複数の用途を有する物品の場合は、対象物品の複数の用途を記載しなければならない。
(c)意匠の設計要点とは、先行意匠(中国語「现有设计」)と区別されるような物品の形状、図案及びその組み合わせ、或いは色彩と形状、図案の組み合わせ、或いは部位を指す。設計要点は簡潔に記載しなければならない。
(d)設計要点を最も良く表せる図面又は写真を指定しなければならず、指定された図面又は写真は専利公報の発行に用いられる。
(2)「簡単な説明」と意匠権の保護範囲の関係
(i)意匠権の保護範囲は、図面又は写真に表示される物品の意匠を基準とし、「簡単な説明」は、図面又は写真に表示される物品の意匠を解釈するのに用いることができる(専利法第59条第2項)。
(ii)また、「最高人民法院による特許権侵害の紛争案件の審理における適用法律の若干問題に関する解釈」(2010年1月1日施行。以下「司法解釈」という。)においては、意匠権の保護範囲に関して以下のように定められている。
・第8条:意匠物品と同一又は類似する種類の物品において、登録された意匠と同一又は類似する意匠を用いた場合、人民法院は侵害が訴えられた設計は意匠権の保護範囲に属すると認定すべきである。
・第9条:人民法院は意匠物品の用途に基づき、物品の同一又は類似を認定すべきである。物品の用途を確定する際は、意匠の簡単な説明、国際意匠分類表、物品の機能、および物品の販売、実際の使用状況等の要素を参考にできる。
・第10条:人民法院は意匠物品の一般消費者の知識レベルと認知能力により、意匠が同一又は類似かを判断すべきである。
・第11条:人民法院は意匠が同一又は類似かを判断するとき、登録された意匠、侵害が訴えられた設計の設計特徴に基づき、意匠の全体的視覚効果を総合的に判断しなければならない。主に技術的機能により決められる設計特徴及び全体的視覚効果に対して影響を及ぼさない物品の材料、内部構造等の特徴については考慮しない。
次のような状況は通常、意匠の全体的視覚効果に対してより大きな影響を及ぼす。
(一) 他の部位に比べて物品の正常使用時に容易に直接的に観察できる部位。
(二) 先行意匠と区別される登録された意匠の設計特徴。
侵害が訴えられた設計と登録意匠とが、全体的視覚効果の上で差異がない場合、人民法院は両者は同一であると判断すべきである。全体的視覚効果の上で実質的な差異がない場合、両者は類似すると判断すべきである。
(iii)「簡単な説明」が意匠権の保護範囲に与える影響
以上の規定から、意匠権の保護範囲は、図面又は写真に表示される物品の意匠を基準とするとされており、実務上、「簡単な説明」は意匠権の保護範囲に一定の影響があると考えられている。
(a) まず、意匠物品の名称について、司法解釈第8条から見れば、意匠権の保護範囲を特定する機能を持つことがわかる。
(b) 意匠物品の用途について、審査指南では用途を記載する目的は物品の種類を確定するためだとしているが、司法解釈第9条から見れば、これも意匠権の保護範囲を限定する機能を持つことがわかる。
(c) 意匠の設計要点について、審査指南では設計要点を記載する目的は出願する意匠と先行意匠とを明確に区別するためだとしているが、設計要点が意匠の保護範囲に影響を及ぼすか否かについては以下の2つの見解に分かれている。
・侵害が訴えられた物品と意匠の設計要点が同一又は類似する場合、物品の他の部分が同一又は類似であるか否かに係らず、同一又は類似する意匠であると判断し、侵害が訴えられた物品の設計は意匠権の保護範囲に入る、という見解。
・意匠の同一又は類似を判断する際は総合的に判断すべきであり、設計要点が同一又は類似し、且つ、設計要点が物品の外観の主要部分である、或いは物品の外観の主要部分ではないが物品の全体外観と同一又は類似する場合のみ、同一又は類似の意匠であると判断し、侵害が訴えられている物品の意匠は意匠権の保護範囲に入る。もし設計要点が物品全体外観において占める割合が非常に小さく、物品全体外観の識別に影響を及ぼすに足りない場合、類似する意匠と判断すべきではない、という見解。
【留意事項】
・中国では、意匠の「簡単な説明」の内容について具体的な規定があり、物品の性能や内部構造を説明することができず、この点は日本と異なる。
・「簡単な説明」の記載は、意匠の解釈に供される程度のもので、直接的な法律的効果は規定されていないが、禁反言の原則が適用されることも考えられるので、権利行使時の保護範囲の広狭にも配慮して検討されるべきである。
・「簡単な説明」における設計要点が意匠の保護範囲に影響を及ぼすかどうか、また、その影響の程度が不確定であるため、実務においては、一般的に設計要点に対して具体的な記載を避ける方向で対応している。設計要点を、例えば「設計要点は、意匠物品の形状にある」、「設計要点は、意匠物品の図案にある」、「図Xの示す意匠形状のとおりである」というような書き方をすることができる。
・意匠物品の類否は、その用途に基づいて認定すべきである(司法解釈)とされており、意匠物品の用途の記載が将来の意匠権の範囲に大きい影響を及ぼす可能性が否定できないので、先行意匠との類否の可能性と保護範囲の広狭の2つの観点から充分に検討されるべきである。設計要点の記載についても同様で、登録意匠の要部(設計特徴)判断に大きい影響を及ぼすことも考えられるので(及ぼさないという考え方もあるが)、具体的な記載を行う場合には充分な検討が必要である。
■ソース
・中国専利法・中国専利法実施細則
・中国専利審査指南 第1部分第3章 意匠専利出願の方式審査
・最高人民法院による特許権侵害の紛争案件の審理における適用法律の若干問題に関する解釈
■本文書の作成者
中原信達知識産権代理有限責任公司 パートナー弁理士 陸錦華■協力
中原信達知識産権代理有限責任公司 日本事務所三協国際特許事務所 弁理士 川瀬幹夫
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期
2013.01.24