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韓国における職務発明制度について

2013年05月30日

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■概要
(本記事は、2019/5/16に更新しています。)
 URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/17127/

韓国での職務発明制度は、従前(2006年9月2日以前)は特許法と発明振興法でそれぞれ規定されていたが、現在は発明振興法にのみ規定されている。韓国に籍を置く会社は、韓国発明振興法で定めている規定により職務発明を管理する必要がある。従業員と使用者間での紛争を最小化するためにも同法の内容を把握し、規定に則った職務規程や社内制度を整えるのが望ましい。
■詳細及び留意点

職務発明について定めている韓国の発明振興法(韓国語「발명진흥법」)の主たる内容について紹介する(以下、特に断らない限り条文番号は発明振興法のそれを指す)。

 

(1) 職務発明の定義

職務発明とは、従業員等が職務に関して発明したものが、使用者等の業務範囲に属し、その発明をするようになった行為が従業員の現在または過去に職務に属する発明をいう(第2条)。

 

(2) 職務発明の対象

特許・実用新案・意匠が対象であり、商標は対象外である(第10条)。

 

(3) 使用者による契約・勤務規定等の整備

使用者は、職務発明の承継をするためにはその旨を定める契約か勤務規定を用意しなければならず、勤務規定等がない場合には、使用者は従業員の意思に反して当該発明の承継を主張することはできない(第13条)。

 

(4) 職務発明完成事実及び承継に関する通知

従業員等は、使用者に職務発明の完成事実を遅滞なく文書で通知しなければならず(第12条)、通知を受けた使用者等は、大統領令で定める期間内(通知を受けた日から4月以内)に承継するか否かにつき従業員等に文書で通知しなければならない(第12条、第13条)。

使用者等が前記期間内に通知をしなかったときは、使用者等はその発明についての権利を放棄したものとみなす。また、使用者等が承継を放棄した時には、追って従業員等の同意を受けなければ通常実施権を持つことはできない(第13条第3項)。

なお、この「書面による通知」は、職務発明であることの必要条件ではなく、実務上は、従業員が口頭で上司へ伝え、上司からも従業員へ職務発明として会社が承継する旨を口頭で伝えることもある。

 

(5) 職務発明に対する補償

従業員等は職務発明に関する権利を使用者に承継したり、専用実施権を設定した場合には、正当な補償を受ける権利を有する(第15条第1項)。「正当な補償」かどうかは、例えば、勤務規定を定めるとき、使用者と従業員の間で行われた協議の状況や、補償形態や補償額の決定時に従業員から意見聴取をしたか等の状況を考慮して判断される(同条第2項)。補償についての特別な規定がない場合は、その発明により使用者等が得るべき利益とその発明の完成に使用者等と従業員等が貢献した程度を考慮して決めなければならない(同条第3項)。

 

(6) 出願保留時の補償

使用者が職務発明を承継した後、出願せず、又は出願を放棄若しくは取り下げた場合にも、従業員が受けることができた経済的利益を考慮して正当な補償をしなければならない(第16条)。

 

(7) 職務発明の審議機構

使用者は、職務発明に関する審査機構を設置、運営することができる(第17条)。このような審査機構を設置して、紛争の予防に努めるのが望ましい。

 

(8) 職務発明関連の紛争解決

職務発明に関する紛争が発生したときには、使用者や従業員は、発明振興法第41条に定める産業財産権紛争調停委員会(韓国語「산업재산권분쟁조정위원회」)に調停を申請することができる(同法第18条)。なお、産業財産権紛争調停委員会については、本データベース内コンテンツ「韓国における産業財産権紛争調停制度の活用」参照。

 

【留意事項】

韓国の現地法人等に職務発明規程を置かないでいたり、日本の職務発明規定をそのまま用いると、そこで発生した知的財産権を会社が取得できなくなったり、または従業員から高額の報奨・報酬の請求を受ける等のリスクが高まる恐れもある。また、職務発明に対する補償は、技術流出の防止や優秀な人材の確保、技術革新の創出のための重要な要素である。したがって、韓国の法令を熟知して、適切な職務発明規定(特に、権利の承継や補償・報奨等の定め)を整えることが望ましい。

■ソース
・韓国発明振興法
・JETROソウル知的財産チームウェブサイトの「判例データベース」
http://www.jetro-ipr.or.kr/ (トップページ→右下の各種情報の中の「判例データベース」→「職務発明」「発明振興法」で検索)
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 菊本千秋
特許庁総務部企画調査課 山中隆幸
■本文書の作成時期

2013.1.17

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