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台湾における商標コンセント制度に関する留意点について

2023年01月31日

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■概要
(2024年7月5日訂正:
本記事のソース「商標法(日本語)」のURLを修正いたしました。)

台湾ではコンセント(併存登録同意)制度が導入されており、明らかに不適切な事情がない限り、同一、類似の先行商標の所有者による併存登録同意書を提出すれば、登録を図ることが可能である。本稿では、台湾におけるコンセント制度の概要、審査、併存登録同意書等の提出時期、書式、コンセント制度登録後の要件、アサインバックの運用などについて紹介する。
■詳細及び留意点

1.はじめに
 台湾ではコンセント(併存登録同意)制度が導入されており、明らかに不適切な事情がない限り、同一、類似の先行商標の所有者による併存登録同意書を提出すれば、登録することが可能である。不適切な事情とは、商標法施行細則第30条によれば、下記の事情が具体的な例としてあげられる。

1)先行商標と同一であって、指定商品・役務もまた同一である。
2)先行商標に係る権利の処分は裁判所に禁止されている。
3)その他主務官庁が明らかに不当であると認められるとき。

2.コンセント制度について
(1) コンセント制度の根拠となる法令、審査基準等 
 商標法第30条第1項第10号ただし書、商標法施行細則第30条

(2) コンセントの対象およびその留意点
 台湾では、コンセントの対象について、引用商標権者との間に支配関係があることなどは要求されておらず、特に制限はない。しかし、商標法施行細則第30条で定める「明らかに不適切な事情がある」に該当する場合(詳細は3.参照)、併存登録同意書を提出しても併存登録は認められない。

3.コンセント制度における審査について
(1) 提出された併存登録同意書を審査官が無条件で認容し、併存登録が認められる場合、その根拠となる法令、審査基準等
 特に法令・審査基準等で定められていない。

(2) 提出された併存登録同意書を審査官が審査する場合または参酌する場合、併存登録が認められる要件とその根拠となる法令、審査基準等
 商標法第30条第1項第10号ただし書、商標法施行細則第30条、商標法逐条釈義p.95から97

(3) 不適切な事情の説明
 以下のいずれかの事情に該当すると認められた場合、たとえ先登録・先行商標の所有者から併存登録同意書を取得したとしても、商標の併存登録は認められない。

(a) 先行商標と同一であって、指定商品・役務もまた同一である。(商標の最も重要な機能である「商品・役務の出所を識別する」ことが確保されないため。)
 なお、「旺旺」と「旺-旺」、「BABY CARE」と「baby care」などは記号の有無または大文字と小文字の相違に微妙な差異があるものの、消費者がその違いを認識できない可能性が高いので、実務上、同一の商標として扱われる。
 商品・役務が実質的に同じ場合も、「同一」であると認定される。例えば、「藥錠」と「藥丸」(両者とも「錠剤」を意味する)、「唇膏」と「口紅」(両者とも「口紅」を意味する)は、同一の商品であると認められる。
 上位概念と下位概念の商品の場合、例えば「化粧品」は「口紅」の上位概念であるので、併存登録が認められるには、「化粧品」を「口紅」以外の商品(「化粧水」「マスカラ」など)に限定する必要がある。

(b) 先行商標に係る権利の処分は裁判所によって禁止されている。(併存登録される他人の商標の存在により、登録商標の価値を損なう可能性があるため。)

(c) その他主務官庁が明らかに不当であると認められるとき。以下の状況を含むがこれに限らない。
 団体商標の使用規範書により指定商品の一定の品質または特性が要求されているにもかかわらず、団体商標の権利者が併存登録の商標商品に同じ条件を要求しなかった場合、関連消費者に、併存登録の商標商品も団体商標商品と同じ品質または特性を有すると誤解させるおそれがあり、一定の品質または特性を有することを示す団体商標の機能が達成されなくなるので、このような場合は、不適切な事情であると認定される。

4.併存登録同意書の提出時期
(1) 併存登録同意書の提出時期の有無、その期限と根拠となる法令、審査基準等
 併存登録同意書の提出時期は、特に法令・審査基準等で定められていない。

(2) 提出時期について留意点
 併存登録同意書の提出時期については、「商標類似」に該当するか否かはケースバイケースで異なるため、審査の結果、拒絶理由通知が発行された段階で、併存登録同意書を提出すれば、拒絶理由を克服することができる。ただし、早期登録を図り、必要としない拒絶理由通知の発行を避けたい場合は、出願時に併存登録同意書を提出することは一策である。
 商標法第31条3項には「指定商品・役務の縮減、商標図案の変更、分割、権利不要求は拒絶査定前に行わなければならない」と定められているが、併存登録同意書の提出はこの制限の対象ではないので、拒絶査定を受けた場合、一方で不服審判を進めながら、一方で併存登録同意書を取付けて提出すれば拒絶を克服できるが、上記不適切な事情の3)のように、審査官の判断次第で拒絶査定後の併存登録同意書が受理されない可能性もある。よって、併存登録同意書の交渉が可能であれば、拒絶理由通知の応答期間内に、併存登録同意書交渉を理由に審査の猶予を申請するのが、比較的確実な方法であると思われる。

5.併存登録同意書、宣誓書の書式
(1) 併存登録同意書、宣誓書の記載例
 台湾経済部智慧財産局作成の併存登録同意書の書式
https://www.tipo.gov.tw/public/Attachment/412181045715.pdf
 参考までに、併存登録同意書および宣誓書(Undertaking)の英語版書式を添付する。
併存登録同意書(LETTER OF CONSENT)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/04TW14-1_Letter-of-Consent-formE.pdf
宣誓書(Undertaking)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2023/01/04TW14-2_UndertakingE.pdf

(2) 併存登録同意書および宣誓書の作成の留意点
 併存登録同意書には、商標権者を代表する権限を有する者の署名が必要である。併存登録同意書における署名が知的財産局に登録されているもの(先般の出願等の手続に提出した委任状の署名、捺印)と異なる場合は、併存登録宣誓書(Undertaking)の提出も求められる。
 また、上記書類について、レターヘッド用紙での作成は不要だが、原本の提出が必要である。公証または認証を受ける必要はない。

6.コンセント制度登録後の要件について
(1) コンセント制度により併存登録された商標と引用商標について、それぞれを譲渡する場合、譲渡の制限の有無と制限がある場合、その根拠となる法令、審査基準等
 コンセント制度により併存登録される商標も引用商標も登録後自由に譲渡することができ、その譲渡先、譲渡の対象商標などにつき制限はない。

(2) 併存登録された商標更新時のコンセント更新の必要有無と更新が必要な場合、その根拠となる法令、審査基準等
 併存登録された商標の更新時にコンセントを更新する必要はない。

(3) 併存登録後、引用商標権者によるコンセント取下げの可否が可能である場合、登録された商標への影響や取下げの時期の期限の有無、その根拠となる法令、審査基準等
 商標登録出願手続に係る審査基準 第11章 p.68
https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/dl-260151-e4864aa8a60640a6b2e4ab1d5c24d335.html

 商標登録出願手続に係る審査基準には、台湾経済部智慧財産局に提出する同意書に、条件または期限を付けることはできないと記載されている。

 併存登録同意書の提出が、商標法第30条第1項第10号の不登録事由を克服する適切な方法である理由は、商標権者や先願の出願人が類似商標の併存登録を許容する同意書の台湾経済部智慧財産局への提出が、両商標が関連消費者に誤認混同を生じさせないことを証明する有効な方法と判断されるからである。なお、商標権者や先願の出願人の同意だけでは、当該商標が登録可能と判断されない。

7.アサインバックについて
(1)アサインバック運用の可否
 台湾でも、アサインバックの運用が可能である。

(2)台湾における商標の移転についての審査規定の有無と規定が有る場合、条件やその根拠となる法令、審査基準等
 商標法第43条では、「商標権を移転した結果、二以上の商標権者が、類似の商品・役務に同一の商標を使用し、または同一若しくは類似の商品・役務に類似の商標を使用することにより、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある場合、それぞれの商標権者は、使用時に適切な区別表示を付さなければならない」と定められているが、移転登録手続の際に、知的財産局が区別表示の有無または誤認混同を生じさせるおそれがあるかを審査することはない。
 誤認混同を生じさせるおそれがあるにもかかわらず適切な区別表示がない場合、後日、知的財産局が職権または請求により登録を取り消すことができるが、登録取消の処分がされる前に区別表示を付し、誤認混同を生じるおそれがなくなったときは、取消事由が解消されたと認められる(商標法第63条第1項第3号)。

■ソース
・商標法(原文)
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=J0070001
・商標法施行細則(原文)
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=J0070002
・商標法逐条釈義(原文)
https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/dl-279802-0b3f2a94b3c64b708a823014027b654e.html
・商標法(日本語)
https://chizai.tw/wp-content/uploads/2023/06/%E5%95%86%E6%A8%99%E6%B3%95%EF%BC%882016%E5%B9%B412%E6%9C%8815%E6%97%A5%E6%96%BD%E8%A1%8C%EF%BC%89-.pdf
・商標法施行細則(日本語)
https://chizai.tw/wp-content/uploads/2022/05/商標法施行細則(2018年6月7日施行)-j-.pdf
・商標登録出願手続に係る審査基準 第11章 p.68
https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/dl-260151-e4864aa8a60640a6b2e4ab1d5c24d335.html
■本文書の作成者
LEE AND LI, Attorneys-at-law
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.09.21

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