アジア / 出願実務
インドにおける商標のコンセント制度について
2023年01月31日
■概要
インドでは、引用商標の所有者と後で出願する者との間で合意すれば、商標の併存登録が認められる、コンセント制度が導入されている。本稿では、インドにおける商標のコンセント制度の関係法令、同意書および併存契約について紹介する。■詳細及び留意点
1.記載個所
コンセント制度に係る商標法、商標審査基準を以下に挙げる(下線は本文書の作成者が付した、以下同様である)。
・1999年商標法(以下、商標法)第11条 登録拒絶の相対的理由
(1) 第12条を除き,商標は,次のときは登録されない。 (a) 先の商標とのその同一性及び当該商標が適用された商品又は役務の類似性により,又は (b) 先の商標とのその類似性及び当該商標が適用された商品又は役務の同一性若しくは類似性により,公衆に混同を生じさせる虞が存在し,それが先の商標と関連する虞を含むとき。 (中略) (4) 本条は,先の商標又は他の先の権利の所有者が登録に同意する場合における商標の登録を一切妨げるものではない。その場合,登録官は,第12条による特別の状況があるものとして当該標章を登録することができる。 説明--本条の適用上,先の商標とは,次のものをいう。 (a) 登録商標又はより早い出願日を有する第18条に基づく出願又は第36 条にいう国際登録又は第154条にいう条約出願であって,該当する場合は当該商標について主張された優先権を参酌して,当該商標の出願日より早い出願日を有するもの (b) 商標であって,当該商標の登録出願日又は該当する場合は当該出願について主張された優先日において,周知商標として保護される権利のあったもの (後略) |
・商標法第12条 誠実な競合使用等の場合の登録
誠実な競合使用の場合又は登録官が適切と認めるその他特別の状況がある場合は,登録官は,同一又は類似の商品若しくは役務について(当該商標が登録済か否かを問わず)2人以上の商標の所有者による登録に関し,登録官が適当と認める条件及び制限(ある場合)を付して,許可することができる。 |
・商標審査基準Chapter Ⅲ商標出願の審査後処理について3.2.6 相対的な拒絶理由の克服
第11条に基づく拒絶理由を出願人は次の方法で克服することができる。 ・補正により競合する商品/役務を削除する。 ・第11条(4) に基づき、引用商標の所有者から同意を得る。 ・第12条に基づく登録を得るため、誠実な同時使用を立証する証拠を提出する。 ・第57条に基づいて、引用商標の明細書から同じ説明の商品/役務を削除する登録簿の補正を行う。 ・出願を分割し、拒絶理由のない出願の一部をさらに審査することができるようにする。 |
2.インドにおける商標コンセント制度について
インドでは商標法第11条(1)には、先行商標と同一または類似する商標を拒絶することが規定されているが、同条(4)に「先の商標権者または他の先の権利の所有者が後続商標の登録に同意する」場合には、後続する出願商標(以下、「後続商標」)の登録を妨げてはならないと規定されており、さらに審査基準の拒絶理由の克服の要件のひとつに「第11条(4)に基づき、引用商標の所有者から同意を得る。」との記載がある。すなわち、引用商標の所有者から後続商標の出願人がコンセントを受領し、それを意見書とともに提出すれば後続商標の拒絶理由は克服されると考えられる。
3.同意書について
商標法第11条(4)の「登録官は,第12条による特別の状況があるものとして当該標章を登録することができる。」とは、引用商標の所有者が後続商標の登録に同意した場合、登録官は、同一または類似の商品および役務に対して出願された互いに同一または類似する商標の共存を認める商標法12条に基づく「特別事情」として当該出願商標を登録しなければならないことを意味する。
すなわち、登録官が引用した商標(引用商標)の所有者が、自己の業務に支障をきたさないと考えて、類似の後続商標の登録に同意した場合には、併存登録に同意した旨の同意書および後続商標の出願人との間で契約(Consent Agreement or Concurrent contract、以下、併存契約という)の少なくとも一方を、両者のいずれもが署名した上で、後続商標の出願人が提出しなければならない。
なお、提出された同意書および併存契約は包袋に登録され、公開される。
以下、インドの商標庁で行われている実務に基づき、同意書の作成時に注意すべき点を以下に示す:
(1) 同意書に署名する者が引用商標の真正な所有者または所有者を代表する者(もし、移転等により登録と異なる場合には、移転登録申請書の写などの真正な所有者である証拠も添付しなければならない)である旨の陳述書を提出する。
(2) 後続商標の詳細、すなわち出願番号(標章、区分、有効期間)および指定する商品と役務を記載する。
(3) 引用商標の所有者が、後続商標が指定するすべての商品・役務についてその登録を承諾した旨の声明を記載する(なお、出願時よりも限定された範囲の商品・役務についてのみ承諾する場合、後続商標の出願人は、承諾された商品・役務のみを含むように出願書類を補正しなければならない。)
(4) すべての書類は、英語またはヒンディー語で記載する。他の言語で記載する場合は、認証された英訳を添付する。
その他、実務的なアドバイスとして、例えば裁判管轄の制限、併存期間、重大な契約違反による併存の解消など、特定の条件が課される場合は、それを明確に記載する。
4.併存契約について
併存登録に同意することは、引用商標の所有者が法定権利の一部を放棄することを暗示し、具体的には、引用商標の所有者が後続商標に対して侵害および/またはパッシングオフ(Passing off、詐称通用)を防止する権利を放棄することになる。
同意の範囲が広すぎると、たとえ後続商標が引用商標に係る利益や売上を奪っていたとしても、引用商標の所有者は措置を講じることが禁じられているため、コンセントの条件は慎重に作成しなければならない。
このように、併存登録の同意を与える引用商標の所有者は、併存登録の条件について事前に合意し、併存契約を締結することが求められる。併存契約の条件としては、例えば、引用商標の所有者と後続商標の出願人が、互いの事業分野に踏み込まないように商品・役務をそれぞれ特定し、分割する方法:例えば、両商標の使用を地理的に制限する方法、すなわち、引用商標の所有者と後続商標の出願人が、それぞれの商標を使用する地理的市場をそれぞれ特定し、分割する方法などが挙げられる。
併存契約の作成は、多くの計画を必要とする。所定の条件の下で他人の商標登録に同意するということは、自分のブランドを拡大させる可能性が減少することを意味する。これは、しばしば機動性の制限、拡大路線の制限、ひいては将来的な収益の制限につながる。したがって、併存契約の締結については、自己のビジネスに対する影響を熟考した上で、当該判断を行うべきである。
なお、資本関係のある関連会社に同意書を与える場合など、契約に拠らなくても商標の使用制限が可能な場合には、併存契約が不要な場合がある。その場合には、資本関係の解消などのリスクも考慮して、併存契約の締結の有無を判断すべきである。
■ソース
・インド商標法https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-shouhyou.pdf ・インド商標審査基準
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_32_1_tmr-draft-manual.pdf
■本文書の作成者
ラクシュミクマラン・スリダラン法律事務所、株式会社サンガムIP■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.09.20