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インドにおける非アルファベット文字を含む商標の取扱いについて

2023年01月17日

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■概要
カタカナ、ひらがなを含む商標は、日本ブランドであることを識別させる手段として有効であるため、新興国におけるカタカナを含む商標の取得ニーズは極めて高い。このニーズに資するため、カタカナなどの非アルファベット文字を含む商標の類否判断基準、参考としてインドにおける特殊文字商標の登録、ヒンディー語または英語以外の外国語商標および非アルファベット文字の商標に関する判決例を紹介する。
■詳細及び留意点

1.記載個所
 非アルファベット文字の類否判断方法に係る商標法、商標規則および商標審査基準を以下に挙げる。

 1999年商標法(以下、商標法)

第2条 定義及び解釈
(1) 本法において,文脈上他の意味を有する場合を除き,
(中略)
(m) 「標章」とは,図形,ブランド,見出し,ラベル,チケット,名称,署名,語,文字,数字,商品の形状,包装若しくは色彩の組合せ又はそれらの組合せを含む。
(後略)

第9条 登録拒絶の絶対的理由
(1) 次の商標は,登録することができない。
(a) 識別性を欠く商標,すなわち,ある者の商品若しくはサービスを他人の商品若しくはサービスから識別できないもの
(b) 取引上,商品の種類,品質,数量,意図する目的,価格,原産地,当該商品生産の時期若しくはサービス提供の時期又は当該商品若しくはサービスの他の特性を指定するのに役立つ標章又は表示から専ら構成されている商標
(中略)
(2) 標章は,次のときは,商標として登録されない。
(a) 公衆を誤認させるか又は混同を生じさせる内容のものであるとき
(後略)

商標規則2017(以下、商標規則)

規則28 翻字及び翻訳
商標がヒンディー語又は英語以外の文字による1又は2以上の語又は数字を含む場合は,出願人は,願書において,英語又はヒンディー語による各当該語及び数字の正確な翻字及び翻訳を提示し,かつ,当該1又は複数の語又は数字が属する言語名を記載しなければならない。

商標審査基準 第2章

12 登録申請却下の絶対的理由についての審査(Examination of application as to absolute grounds for refusal of application for registration)
12.2.5 各種商標における識別性(Distinctiveness in various types of trademarks)

外国語/あまり知られていない言語の記述的な語句(Descriptive words in foreign languages/little known languages)
 外国語が、インドの公衆の大部分に知られている可能性が低い言語である場合、標章が説明的であるという異議の根拠は存在しない。しかし、単語がインド出願人の現地語で説明的である場合、商品はその地域で販売/サービスが提供されるため、商標法第9条に基づく異議を申し立てる必要がある。

2.インドにおける特殊文字商標の登録について
 インドにおいてカタカナおよびひらがなに関する特別な規定はない。これらは後述するように文字商標として取り扱われる可能性が高く、これら1文字の標章は、「@」、「&」、「#」、「!」の特殊文字1文字と同様に取り扱われ、拒絶される可能性があるので、参考に特殊文字商標の登録に関して述べる。
 特殊文字についても特に規定はない。しかしながら、特殊文字は識別力がないと考えられ、特殊文字のみの標章も識別力がないとされる。調査した結果、特殊文字1文字からなる標章は商標法第9条1(a)に基づく拒絶を受けていた。

表1. 拒絶された1文字からなる標章例

 特殊文字からなる標章を長期的かつ継続的に使用したこととの主張を行って登録を得た例もある。例えば、インドのエンターテイメント会社の「&」という標章は、最終的に登録に至った。このように、出願人が特殊文字の保護を独占的に主張したい場合、公衆がその商標とその下で提供される商品・役務を独占的に連想するようになったことを証明する必要がある。
 インド商標庁は、単一の文字からなる商標について、そのいかなる使用態様も保護されることから、基本的に、単一の文字からなる商標の登録を拒否する。これは、将来、他の出願人が、当該文字のいかなる使用態様も、それがどんなに特徴的であっても保護することができなくなるためである。
 さらに、インド商標庁のデータベースを使用した経験から、複数の特殊文字のみからなる図形商標(device mark)の登録可能性が、複数の文字商標(word mark)の登録可能性より高い傾向があると思われる。また、実務上の経験から、文字商標(word mark)に特殊文字1文字であっても付加した商標やデザイン化された文字商標の方が登録可能性は向上する傾向がある。
 そうしてみると、インドではカタカナであっても1文字の標章は、使用による識別性を獲得する以外の登録は容易ではなく、少なくとも複数のカタカナからなる商標であって、さらに特殊文字を加える、またはデザイン化することで登録は容易になると考えられる。

3.ヒンディー語または英語以外の外国語商標について
 商標規則、規則28に示したように、カタカナやひらがなのような外国語商標はその意味と称呼を記載することから文字商標として取り扱われ、さらに、審査基準では、記述的として拒絶してはならない旨が定められていることから、外国語であることを理由にただちに識別力欠如で拒絶されることはない。例えば、日本語の「映画館」という標章を金銭取引のためのモバイルアプリに使用した場合、第1に需要者はその観念を認識せず、第2に商標は無関係の商品に使用されるため、拒絶理由は生じないと考えられる。一方、日本映画のみを上映するインドのmovie theaterに「映画館」という標章を使用する場合、需要者はその観念を認識し、記述的として拒絶される可能性がある。
 もちろん、非英語の語句が一般的な取引に使用される場合、拒絶理由となる可能性がある。

4.非アルファベット文字の商標に関する判決例
 非アルファベット文字の商標として数字を含む商標に関する判決例(Mona Aggarwal & Anr. vs. Glossy Colour & Paints Pvt. Ltd. & … on 2 February, 2016)を紹介する。登録商標「1001」(出願番号423202)と出願商標「6004」(出願番号2579387)について、裁判官は、使用されている色調、構成、レイアウト、特徴の配置を比較すると、「6004」は「1001」と類似し、読み書きのできない人や半識字の人が商品を購入する際に混乱する恐れがあると判断した。しかし、不服申立された、裁判官の合議体(Division Bench)において、「ある当事者がその製品の商標として数字を採用したからといって、他の当事者が同様の商品の商標の一部として異なる数字を採用することができないとはいえない。このような状況では、全体としてとらえた場合、つまり、数字の組み合わせ、配色、装飾、レイアウトが欺瞞的に類似しているかどうかを確認する必要がある」と判断した。
 したがって、このような非アルファベットの標章を商標として使用する場合、裁判所は文字だけでなく、標章の全体的な表現に注目すると考えられる。全体的に比較して、登録商標と係争対象の商標の特徴が非常に似ていて、需要者が混同する場合、侵害は認められる可能性が高い。このような分析が行われるのは、標準的な文字の独占を防ぐためと考えられる。

5.留意点
 以上の議論を踏まえると、以下の留意点が挙げられる。

1.数字や特殊文字などの非アルファベット文字は、識別性欠如を理由として、しばしば商標法第9条(1)(a)の規定に基づく拒絶を受ける場合が多いことから、カタカナ等についても、出願人に釈明を求めるため拒絶理由通知を出す可能性がある。審査基準を引用して、カタカナを理由に識別力欠如の判断をすべきではないこと、インドの需要者はカタカナの観念を認識せず、標章は日本語の意味においても指定商品・役務を直接的に記述したものではない旨の主張ができることが重要である。
2.非アルファベット文字の商標登録を希望する出願人は、その登録可能性を高めるために、例えば、カタカナでも2以上の文字を使う、標章をデザイン化する、他の特徴的な要素を加えるなどして、商標の全体的な印象が他の先行商標と相違すると、登録可能性が高くなる。
3.リスクはあるものの、インドで商業的使用が開始された後に登録申請することは、その商標の登録可能性を高くする。

■ソース
・インド商標法
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-shouhyou.pdf ・インド商標規則
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-shouhyou_kisoku.pdf ・商標審査基準(https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_32_1_tmr-draft-manual.pdf
・Mona Aggarwal & Anr. vs. Glossy Colour & Paints Pvt. Ltd. & ... on 2 February, 2016
https://indiankanoon.org/doc/16259162/
■本文書の作成者
ラクシュミクマラン・スリダラン法律事務所、株式会社サンガムIP
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.09.20

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