アジア / 出願実務
シンガポールにおける商標のコンセント制度について
2023年01月05日
■概要
シンガポールにおける商標に関する法律は、商標法(Cap.332、2022年6月10日施行)ならびに商標規則(Cap.332 R1、2022年5月26日施行)および商標国際登録規則(Cap.332 R3、2022年5月26日施行)からなる。同意書の提出があれば、先行商標を理由とした相対的拒絶理由を克服して、出願商標と先行商標を併存させる可能性が高まる、コンセント制度が制定されている。■詳細及び留意点
1.基本的な考え方
シンガポールにおける商標に関する法律は、商標法(Cap.332、2022年6月10日施行)、および商標規則(Cap.332 R1、2022年5月26日施行)、商標国際登録規則(Cap.332 R3、2022年5月26日施行)からなる。
商標法第8条(登録拒絶の相対的理由)第9項において「登録官は,先の登録商標又は他の先の権利の所有者が同意を与えれば,自己の裁量で商標を登録することができる。」と規定されている。
この条項は、最終的に、登録官が同意書を受諾するかどうかの裁量権を保持し、同意書に基づいて関連する理由による異議を放棄することができることを明確にしている。
ただし、登録官には同意書を受理するかどうかの裁量権があり、各事例はその実体的側面に基づいて検討されなければならない。また、登録官は、出願された商標と先の商標が実質的に同一で、同一の商品/サービスを主張し、商標が同一の市場で使用されると考える場合、相対的拒絶理由を維持する裁量権を有している。
一般に、要件を充足した同意書は、市場の実情を示し、出願商標と先行商標とを併存して使用しても誤認および混同を生じないことを示すことから、相対的拒絶理由を克服する可能性が高まると考えられている。
2.同意書作成の原則
同意書を作成する際の原則と、留意点は以下のとおりである(商標審査基準、相対的拒絶理由7.1.2.1)。
(a) 同意書にはいかなる条件も含めてはならない。
登録官が商標の使用に関する条件が満たされていることを確認する立場にないことから、同意書にはいかなる条件も含めてはならない。
(b) 引用商標権者によって同意が与えられなければならない。
同意を提供する当事者の名前は、引用商標の商標権者の名前と一致しなければならず、署名者は当該商標権者またはその権利者に代わって署名する権限を与えられた人物でなければならない。ライセンサーなどの実際の使用者ではないことに留意しなければならない。
(c) 同意を与えた商標が明確に特定されていること。
同意書には、出願商標の詳細(出願番号、標章の表示、区分および指定商品・役務)を含めなければならない。
(d) 同意書には、先行商標権者が、同意を与えた出願商標の使用および登録のいずれにも同意していることが明確であること。
具体的には、同意書には、先行(引用)商標の詳細(例:登録番号、先行商標権者の名称、標章の表示、区分および指定商品・役務)を含めなければならない。
また、同意書に含まれる指定商品・役務が最初に指定されたものよりも減縮されている場合、同意が適用される指定商品・役務のみを反映するように願書を補正しなければならない。
3.先行商標権者と出願人との契約について
先行商標権者と出願人とが商標の併存契約を選択することは任意である。しかし、前記2.(a)にあるように、同意書に当該併存契約を含めてはならない。登録官はクレームされた明細書に基づいて、使用の全範囲を検討するためである。
4.アサインバックについて
商標の移転について、権利範囲に基づく審査は行われないので、出願人から先行商標権者に権利を移転し、拒絶理由が解消した後に先行商標権者から出願人に再び権利を移転するアサインバックは理論的に可能である。ただし、アサインバックは、2回の移転手続が必要で費用がかかることから、実際は同意書またはライセンス契約を選択すると思われる。
5.登録後の同意書の取消しについて
出願商標が同意書に基づいて登録された場合、同意書を撤回することはできない。先行商標権者が登録された出願商標を登録簿から削除することを希望する場合は、当該商標の無効または取消しの措置を講じなければならない。
シンガポールでは、商標が登録されると、その商標を再審査する仕組みがなく、同意書が撤回されたことを理由に再審査することができないため、無効化または取消措置が必要となる。
■ソース
・シンガポール商標法(第332章、2022年6月10日施行)https://sso.agc.gov.sg/Act/TMA1998 ・シンガポール商標法
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-shouhyou.pdf ※日本語だが、2019年11月21日施行のものである。
・シンガポール商標審査基準、相対的拒絶理由(RELATIVE GROUNDS FOR REFUSAL OF REGISTRATION)
https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/trade-marks/resources/tmwm-relative-grounds_sep2020.pdf
■本文書の作成者
Drew & Napier LLC■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.09.13