アジア / 出願実務
インドネシアにおける非アルファベット文字を含む商標の取扱いについて
2022年12月27日
■概要
カタカナを含む商標は、日本ブランドであることを識別させる手段として有効であるため、新興国におけるカタカナを含む商標の取得ニーズは極めて高い。このニーズに資するため、インドネシアにおけるカタカナなどの非アルファベット文字を含む商標の類否判断手法を紹介する。なお、インドネシアでは審査基準が公開されていないことから、実務経験を通じて得られた情報や拒絶事例などの紹介となる。■詳細及び留意点
1.背景
インドネシアは、AからZまでの26文字からなるアルファベットを使用し、言語はインドネシア語(バハサ語)である。漢字、ひらがな、カタカナ、アラビア語、タイ語などのアルファベット以外の外国語文字からなる商標も、インドネシアで保護することができる。外国語文字とアルファベットとの審査に相違はない。審査を容易にするために、外国語文字を含む標章の出願は、アルファベットを使用して読めるように、標章の翻訳および翻字(音訳)が必要である。翻訳と翻字は、その言語を話さない人が当該文字をどのように認識すべきかについての情報を提供することが、商標の登録可能性を決める。
出願された商標がバハサ語ではなく外国語文字である場合、出願人は商標出願フォームの「商標の説明」欄に翻訳と翻字を記入しなければならない。その際に宣誓する必要はない。なお、出願人は、外国語文字の直訳ではなく「出願人の名前」または「意味なし」として翻訳することができる。方言によっては、標準的な称呼以外の場合があり、例えば、漢字は、標準的な中国語の称呼ではなく、特定の方言を使用した称呼を翻字することができる。
標章の翻訳および翻字に宣誓を提供する必要がないため、審査官は、出願人が提供する情報だけに頼ることなく、積極的に検索エンジンを使って外国語文字の観念や称呼を調査する。翻訳および翻字を提出しないことはただちに悪意のある出願とはされないが、上記調査によって、類似とされる可能性はある。また、アルファベットを使用するインドネシアの取引の過程で使用されることを考慮すれば、強力な商標保護を得るために実際の翻訳および翻字を提出することが重要である。
2.標章の類似性を判断する方法に関する標章の審査の基本的な考え方
インドネシアでは、商標登録は、2020年の雇用創出法第11号によって改正された2016年の商標及び地理的表示法第20号(以下、改正商標法)と大臣規則第12/2021号によって改正された商標登録に関する2016年の大臣規則第67号(以下、改正商法規則)によって規制されている。
改正商標法第20条には、絶対的拒絶理由に該当する場合、例えば、商標が対象となる商品/役務の説明、または単なる言及に過ぎない、識別性が欠如している、誤解を招く可能性がある、一般名称、公有財産の象徴となっているものなどの商標を登録することはできないことが規定されている。さらに、改正商標法第21条には、他者が既に所有する商標又は周知商標と同類の商品・役務において、出願標章の要部または全体が類似する商標、および出願人が(有名な評判に便乗するためまたは有名な商標の登録を阻止するための)悪意を持って出願した商標は拒絶されることが規定されている。
すなわち、類似性判断は、標章の形状、配置、書き方又はそれらの組み合わせのいずれかにおいて、類似した印象を与える支配的な要素の存在と、最も重要である称呼の類似性を考慮して判断される。さらに、商品・役務の類似性判断では、改正商標規則第17条に記載の以下を考慮して、商品と商品、商品と役務または役務と役務の類似性が考慮される。
1) 商品および/または役務の性質、
2) 商品の使用目的および使用方法、
3) 商品および/または役務の相補性、
4) 商品および/または役務の競合、
5) 流通経路、
6) 関連する消費者、または、
7) 商品および/または役務の製造の由来。
類似性を判断する過程を以下の図に示した。
図1. 類似性判断の過程
類似性を判断するための最初のステップは、標章を構成する要素を分解することである。その後、分解された要素の中で最も優位な要素を特定し、その要素が本質的に登録可能かどうかを分析する。登録可能な場合、その要素に類似する先行商標がないかどうかを調べる。支配的な要素が複数ある場合、各要素の類似性を調査する。先行商標が発見された場合、出願標章と先行商標を比較し、総合的に判断する。類似している場合は、商品と商品、商品と役務、役務と役務の競合の可能性をチェックする。すなわち、全体的に類似度が高く、悪意があると判断される場合には、分類を超えた審査が行われる。支配的要素の類似、全体的な印象の類似、商品・役務の先行商標がある場合、出願商標は拒絶される。
・主要要素の類似性による拒絶例
類似性を判断する場合、審査官は、標章をいくつかの要素に分解し、どの要素が支配的(特徴的)であるかを特定する。上記「MATAHARI POWER」の事例では標章を構成する要素は、「太陽の図形」、「MATAHARI」、「POWER」である。この標章は、第11類の商品、すなわち太陽集光装置、暖房、照明に使用される。第11類には、「PENTA POWER」、「POWER PUNCH」、「RAID POWER」など、「POWER」を組み合わせた登録が存在することから、「POWER」はそれほど支配的ではない。審査官は第11類で「matahari」という先行図形商標を見出したことから拒絶した。
このように、全体から要部を切り離して判断する例が多い。なお、要部の認定については明記されていないが、分解された要素の中で最も支配的な要素、すなわち、特徴的な部分である。
3.外国語、外国語文字、カタカナで構成された標章の審査
外国語文字を含む商標についても同様の方法が適用される。審査官はまず、翻訳と翻字が正しいか、または誤解を招くものではないかを確認する。翻訳と翻字が正しい場合、審査官は、その翻訳と翻字が絶対的拒絶理由等に該当するか否かの改正商標法第20条の不登録事由について判断する。第20条に合格した場合、審査官は、出願商標が相対的拒絶理由等を規定する第21条の不登録事由に該当するか否かを判断するために、先行商標の有無の調査を続行する。出願人が提供した翻訳と翻字とが正しくない場合、審査官は、機械翻訳と画像検索を使用して主にインターネットを調査し、取得した正しい観念と標章の称呼に基づいて、固有の登録可能性と利用可能性を評価する。
・出願人が提供した翻訳・音訳に基づく外国語文字商標の拒絶例
上記の例は、称呼が類似することから拒絶された。これらの標章は、「RUNNING MAN」を除いて、概念と外観が異なるが、称呼類似が類似判断において支配的であることを示す。
・翻訳・翻字が同じであることを理由に拒絶された日本語の標章の拒絶例
以上の例から、日本語を含む外国語文字からなる商標の実体審査は、アルファベットからなる商標の実体審査と同様の方法で行われると考えられる。出願人は、外国語文字商標の翻訳と翻字を提供する必要があるが、これらは情報としてのみ使用される。審査官は、自ら調査を行い、翻訳と翻字が正しいかどうかを確認し、調査結果に基づいて先行商標が見つかった場合は引用を示して、拒絶理由を通知する。
出願人は宣誓を提供する必要はないが、外国語文字商標はアルファベットを使用する消費者によって取引の過程で使用されるため、強力な商標保護を得るためには、実際の標準的な翻訳を提供することが重要である。
■ソース
<商標法>(統合版は提供されていないため、旧法および改正のための雇用創出法を掲示する)
・商標及び地理的表示に関するインドネシア共和国法律2016年第20号
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/idn/ip/pdf/indonesia-shouhyou_2016.pdf ・雇用創出に関するインドネシア共和国法律2020年11号(知的財産関連部分)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/idn/ip/pdf/2020_11.pdf
<商標規則>
(統合版は提供されていないため、旧規則および改正のための大臣規則を掲示する)
・商標登録に関する大臣規則2016年第67号
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/idn/ip/pdf/2016_67.pdf ・商標登録に関するインドネシア共和国法務人権大臣規則2016年67号の改正に関するインドネシア共和国法務人権大臣規則2021年12号
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/idn/ip/pdf/2021_12.pdf
■本文書の作成者
ACEMARK Intellectual Property■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.09.02