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韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)

2022年12月22日

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■概要
韓国の特許・実用新案審査基準のうち新規性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。本稿では、前編・後編に分け韓国の特許・実用新案の審査基準の新規性の留意すべき点などを紹介する。後編では、請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意事項について説明する。新規性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/27355/)をご覧ください。
■詳細及び留意点

 新規性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定については「韓国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点((前編)」をご覧ください。

5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3 新規性の判断方法」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

5-2.上位概念または下位概念の引用発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 請求項に記載された事項が実施例より包括的な場合、発明の説明に記載された特定の実施例に制限解釈して新規性、進歩性等を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.1(2))。
 すなわち、上位概念である請求項に記載された事項と引用発明を対比して新規性を判断することになる(**)
 機能・特性等を利用して物を特定する場合と数値限定発明の新規性判断においても、請求項に記載された事項で発明を特定して引用発明と対比する。

(**) 請求項に記載された発明が包括的であり上位概念で表現され、引用発明が下位概念で表現されている場合に、請求項に記載された発明の新規性が否定される点は、韓国においても同様である(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.4 新規性の判断時の留意事項」(1)①)。

5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 対比時に本願の出願時の技術常識を参酌する方法に関して、特許・実用新案審査基準(韓国)に対応する記載はないが、数値限定発明の新規性の判断について、特許・実用新案審査基準(韓国)には、「出願時の技術常識を参酌したとき、数値限定事項が通常の技術者にとって任意的に選択可能な水準に過ぎない、又は引用発明中に暗示されているとみなされる場合には、新規性が否定されることがある」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.3.1(1))。また、請求項に記載された発明が下位概念で表現されており引用発明が上位概念で表現されている場合、「出願時の技術常識を参酌して判断した結果、上位概念で表現された引用発明から下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができる場合には、下位概念で表現された発明を引用発明に特定して、請求項に記載された発明の新規性を否定することができる。このとき、単に概念上、下位概念が上位概念に含まれる、又は上位概念の用語から下位概念の要素を列挙することができるという事実だけでは、下位概念で表現された発明を自明に導き出すことができるとはいえない」と記載されている(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(1)②)。
 以上のとおり、新規性判断時に出願時の技術常識を参酌していることを、特別な場合に適用している。

6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合

 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 発明の特定については、特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(1) 作用、機能、性質又は特性(以下、「機能・特性など」という)を利用して物を特定する場合」において、「請求項に記載された機能・特性などが発明の内容を限定する事項として含まれている以上、これを発明の構成から除外して解釈することはできない。請求項に機能・特性などを用いて物を特定しようとする記載がある場合、発明の説明において特定の意味を有するよう、明示的に定義している場合を除き、原則としてその記載はそのような機能・特性などを有するすべての物を意味していると解釈する」と記載されているが、新規性の判断については、特別な方法は記載されていない。
 機能・特性等を利用して物を特定する場合にも、新規性判断の原則に従って審査される。

6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(2) 用途を限定して物を特定する場合」

(2) 異なる事項または留意点
 特になし。

6-3.サブコンビネーションの発明
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)には、対応する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 特許・実用新案審査基準(韓国)では、発明の単一性判断時にサブコンビネーションの発明について説明しているが、新規性についてはその記載がなく、一般的な新規性の判断方法により審査している。

6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.1.2「(3) 製造方法により物を特定する場合」

(2) 異なる事項または留意点
 製法限定物発明において、製造方法が物の構造や性質等に影響を与える場合には、製造方法により特定される構造や性質等を持つ物で新規性を判断し、物発明の請求項のうちに製造方法による記載があっても製造方法が物の構造や性質等に影響を与えないならば、製造方法を除いて最終的に得られた物自体を新規性判断対象と解釈する。
 例えば、アルミニウム合金形状物を請求しながら請求項には上記合金形状物が特定の工程を経て形成されると記載する場合、技術常識を参酌する際に結合構造や形状または強度等に対して上記特定工程により特定される構造や性質等を持つ形状物は他の工程では得られないために製造方法により特定される形状物を出願前に公知された先行技術と比較して新規性等を判断する。

6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応する特許・実用新案審査基準(韓国)の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.1 数値限定発明の新規性の判断」

(2) 異なる事項または留意点
 数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで引用発明と比べたときに、同一でなければ新規性のある発明である。また、数値限定事項を除いた残りの技術的特徴のみで請求項と引用発明が同一の場合は、以下のように判断する。
(a) 引用発明に数値限定がなく請求項に記載された発明が新たに数値限定を含む場合には原則的に新規性が認められるが、出願時の技術常識を参酌するときに数値限定事項が通常の技術者が任意に選択可能な水準にすぎなかったり、引用発明中に暗示されたと見なされる場合に新規性が否定されることがある。

(b) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の記載している数値範囲に含まれる場合、数値限定の臨界的意義により新規性が認められる。

(c) 請求項に記載された発明の数値範囲が引用発明の数値範囲を含んでいる場合には、直ちに新規性を否定できる。

(d) 請求項に記載された発明と引用発明の数値範囲が互いに異なる場合には、通常、新規性が認められる。

7.その他
7-1.特殊パラメータ発明

 特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、特許・実用新案審査基準(韓国)には以下のとおり、特殊パラメータ発明に関する記載がある。
(1) 特殊パラメータ発明について記載された審査基準の場所
 特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章「4.3.2 パラメータ発明の新規性の判断」

(2) 説明
(a) パラメータ発明の新規性は発明の説明または図面および出願時の技術常識を参酌して発明が明確に把握できる場合に限り判断する(大法院2007ホ81(*))。

(*) 大法院の判決は、以下のリンク先で検索できる。(「ホ」は「허」に変更)
http://glaw.scourt.go.kr/
関連記事:「韓国の判例の調べ方」(2017.07.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/

(b) パラメータ発明はパラメータ自体を請求項の一部として新規性を判断するが、請求項に記載されたパラメータが新規だとして、その発明の新規性が認められるものではない。パラメータによる限定が公知された物に内在された本来の性質または特性等を試験的に確認したことにすぎなかったり、パラメータを使用して表現方式のみ異なったものであれば請求項に記載された発明の新規性は否定される。

(c) パラメータ発明は一般的に先行技術と新規性判断のための構成の対比が困難であるために両者が同一の発明という「合理的な疑い」がある場合には先行技術と厳密に対比せず新規性がないという拒絶理由を通知した後、出願人の意見書および実験成績書等の提出を待つことができる。出願人の反論により拒絶理由を維持できない場合には拒絶理由が解消されるが、合理的な疑いが解消されない場合には新規性がないという理由で拒絶決定(拒絶査定)する。
合理的な疑いがある場合は、
1)請求項に記載された発明に含まれたパラメータを他の定義または試験・測定方法に換算してみると、引用発明と同一となる場合、
2)引用発明のパラメータを発明の説明に記載された測定・評価方法に従って評価したら、請求項に記載された発明が限定するものと同一の事項が得られると予想される場合、
3)発明の説明に記載された出願発明の実施形態と引用発明の実施形態が同一の場合である。

7-2.留意点
 特許・実用新案審査基準(韓国)のうち新規性に関する事項について、その他留意すべき点として以下の事項がある。
(a) 新規性の判断時には請求項に記載された発明を一つの引用発明と対比しなければならず、複数の引用発明を結合して対比してはならないが、引用発明が再び別個の刊行物等を引用している場合には、別個の刊行物は引用発明に含まれるものとして扱い新規性判断に引用することができる。
 また、引用発明に使用された特別な用語を解釈する目的で辞典または参考文献を引用する場合にも、辞典または参考文献は引用発明に含まれるものと扱い、新規性判断に引用できる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(2)) 。

(b) 1つの引用文献に2以上の実施例が開示されている場合、2以上の実施例を引用発明でそれぞれ特定し相互結合して請求項に記載された発明の新規性を判断してはならない(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(4))。

(c) 審査の対象となる出願の明細書中に背景技術として記載された技術の場合、出願人がその明細書または意見書等においてその技術が出願前に公知されたことを認めている場合には、その技術の公知性を事実上推定し、請求項に記載された発明の新規性を判断することができる(特許・実用新案審査基準(韓国)第3部第2章4.4(5))。

■ソース
・韓国の特許・実用新案審査基準(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/kr/ip/law/sinsasisin20211230.pdf#page=257 ・韓国の特許・実用新案審査基準(原文)
https://www.kipo.go.kr/ko/kpoContentView.do?menuCd=SCD0200146 ・日本の特許・実用新案審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203 ・韓国の総合法律情報
http://glaw.scourt.go.kr/
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.08.18

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