アジア / 出願実務
インドネシアにおける商標のコンセント制度について
2022年12月20日
■概要
インドネシアでは、商標登録は、2020年の雇用創出法第11号および商標登録に関する2016年の大臣規則第67号を改正する大臣規則第12/2021号によって改正された2016年の商標および地理的表示法第20号によって規制されている。改正された商標および地理的表示法では、出願人が関係を証明し、先の商標の所有者からの同意書を提出することができる場合、先行した商標と併存して登録することができる、コンセント制度が規定されている。■詳細及び留意点
1.基本的な考え方
1-1.法律
インドネシアでは、商標登録は、2020年の雇用創出法第11号および商標登録に関する2016年の大臣規則第67号を改正する大臣規則第12/2021号によって改正された2016年の商標および地理的表示法第20号(以下、「改正商標法」という。)によって規制されている。
改正商標法第20条では、公序良俗違反および識別性欠如の不登録事由を規定し、同法第21条には、以下の拒絶すべき商標が規定されている(*)。
第20条 次の商標は登録できない: a. 国家のイデオロギー、法規、道徳規範、宗教、倫理、公序良俗に反するもの; b. 登録対象の商品/サービスと同じ名称、これを説明するもの、又はその単なる言及に過ぎないもの; c. 登録対象の商品/サービスの出所、品質、形式、サイズ、種類、又はその使用目的について、公衆を誤認させる可能性のある要素を含んでいるもの、又は同類の商品/サービスに対し保護対象となっている植物品種の名称; d. 生産された商品/サービスの品質、便宜又は効能と一致しない情報を含んでいるもの; e. 識別性を有する特徴がないもの; f. 一般名称、公有財産の象徴となっているもの; g. 機能的な形状を含むもの: |
第21条 1) 商標の要部又は全体が、次のいずれかと類似する場合、出願は拒絶される; a. 同類の商品/サービスに関して既に登録又は出願されている、他者の所有する商標; b. 同類の商品/サービスに関して、他者の所有する周知商標; c. 特定の条件を満たす、同じ種類ではない商品/サービスに関して他者の所有する周知商標;又は d. 登録済みの地理的表示 2) 次に該当する商標は拒絶される; a. 有名人の名前、略称、写真又は他者が所有する法人の名称に相当する、又はこれと類似するもの。但し、正当な権利者の書面による同意がある場合を除く。 b. 国家又は国内もしくは国際機関の名称又は略称、旗、紋章、シンボル又は象徴を模倣する、又はこれと類似するもの。但し、管轄当局の書面による同意がある場合を除く; c. 国家又は政府機関によって使用される公的な標識、印章又は証印を模倣する、又はこれと類似するもの。但し管轄当局の書面による同意がある場合を除く。 3) 出願人が悪意をもって提出した商標出願は拒絶される。 4) 1)項 a項~c項までにいう、商標出願の拒絶に関する更なる詳細な規定は、大臣令により定められる。 |
(*) 翻訳は次のリンクのものを採用したが、第20条については、2020年雇用創出法第11号による改正内容を加筆修正して記載している。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/indonesia-shouhyou_2016.pdf
商標出願は、改正商標法第20条に規定されている不登録事由がなく、同法第21条に規定に該当しない場合に登録可能であり、それ以外の場合は、拒絶されなければならない。
1-2. 同意書による拒絶理由の克服
改正商標法では、商標出願が登録できないとして拒絶された場合、同法第21条第1項および第2項に係る拒絶理由については、同意書により拒絶理由を克服することが可能となった。
改正商標法第21条第2項a項では、「他者が所有する法人の名称に相当するもの又はこれと類似するもの」については「正当な権利者の書面による同意がある」場合には、拒絶を免れる旨が規定されている。
例えば、
これらの登録商標は同じ区分で所有者が異なっているが、それぞれ、商号「LIPPO」および「HYUNDAI」が共通し、最先の商標権者からの同意書の提出により登録されたと考えられる。
・改正商標法第21条第2項a号の有名人の名前、略称が同意書によって認められた事例
2.同意書の承認要件
同意書は、改正商標法第21条第2項a~c項に基づき、一定の要件下でのみ受理される。
同意書の要件には、同意を与える人/権限を有する当事者によって署名された書面を含む。この書面は公証されなければならない。同意する者が外国人の場合、同意書は公証され、インドネシア大使館または領事館で認証されなければならない。
3.同意書の提出期間
同意書の提出は、拒絶理由通知を回避するために、商標出願時に行う必要がある。出願時に提出されない場合、拒絶理由通知が出され、出願人は30営業日以内に応答し、同意書を提出しなければならない(改正商標法第24条)。
第24条 1) 審査官が、出願を登録可能であると決定すると、大臣は: a. 当該商標を登録する; b. 当該商標が登録されたことを出願人又は代理人に通知する; c. 商標証書を発行する;及び d. 当該商標の登録を、電子及び非電子媒体の商標官報上で公表する。 2) 審査官が、出願を登録不可能である又は拒絶すると判断した場合、大臣は出願人又は代理人に、拒絶理由通知書を送る。 3) 出願人又は代理人は,2)項にいう通知書を受け取った日付から30日以内に,その応答の理由を記載した応答書を提出することが出来る。 4) 出願人又は代理人が、3)項にいう応答書を提出しなかった場合、大臣は当該出願の拒絶を決定する。 5) 3)項にいう応答書を出願人又は代理人が提出し、審査官がその応答書を検討可能であると判断した場合、大臣は1)項に記載した規定を実施する。 6) 出願人又は代理人が3)項にいう応答書を提出し、審査官がそれを検討不可能であると判断した場合、大臣はその出願の拒絶を決定する。 7) 4)項及び6)項にいうような拒絶は、その理由を記載した文書により、出願人又は代理人に通知される。 8) 第16条にいう異議申立てのある場合、大臣は登録又は拒絶の通知書の写しを、当該異議申立の提起者宛てに送達する; |
4.同意書の書式
同意書の正式な書式はないが、少なくとも以下の情報は同意書に記載する必要がある。
-氏名、住所、機関内での役職など、本人/被許可者/被許可機関の詳細。
-出願人が出願人の商標として登録される個人/被権限者の写真、ロゴ、略称名、符号/スタンプを使用または公表する許可を含む同意書。
-本人の署名と同意内容の説明。
-電子出願の場合は、原本を提出する必要がある。
5.同意書による登録後の要件
同意書による登録後の要件は、インドネシアでは特に定められていない。また、更新時に同意書の提出は不要である。
6.アサインバック制度
アサインバック制度は、インドネシア商標法では規定されていない。改正商標法第41条第2項では、他の類似商標を所有する譲渡人が出願した登録商標の譲渡は、それらすべての類似商標が同一の譲受人に譲渡された場合にのみ可能であると規定している。この第41条を参照すると、アサインバックが認められないことは明らかである。ただし、譲渡申請書の記録は電子的に提出され、譲渡記録は実質的な審査を受けない。したがって、一部の類似する登録のみを譲受人に譲渡し、他の類似する登録は譲渡人が保持することが可能である。譲渡契約とは別に、譲渡条件を規定する契約書を作成することができる。
インドネシア商標法では、いくつかの理由により、出願中または登録された商標の譲渡のみを規定している(改正商標法第41条第1項)。譲渡は、第21条第1項、第3項、第4項に規定された理由による予備的拒絶を克服するための選択肢である。
第41条 1) 登録商標の権利は次の理由により、譲渡・移転することが出来る; a. 相続; b. 遺言; c. 寄贈; d. 供与; e. 契約;又は f. 法規により正当化されるその他の理由 2) 同類の商品・サービスのための実質的又は全体的に類似する複数の商標権の所有者による登録商標権の移転は、当該登録商標の全てを同じ相手に移転させる場合に限り可能である。 3) 1)項、2)項にいう登録商標権の移転は、大臣宛に移転登録申請を行う。 4) 3)項にいう移転登録申請には、説明文書が添えられること。 5) 3)項にいうような登録済みの商標権の移転は商標官報上で公告される。 6) 移転登録されていない登録商標権の移転は、第三者に法的影響を与えない。 7) 1)項にいう商標権移転登録は有料である。 8) 1)項にいう商標権の移転は、商標登録出願プロセスにおいて行うことが出来る。 9) 1)項~8)項にいう商標権移転登録の要件と手順に関する更なる詳細な規定は、大臣令によって定められる。 |
■ソース
・2020年雇用創出法第11号により改正された2016年商標および地理的表示に関する法律第20号https://dgip.go.id/unduhan/kompilasi-pp?kategori=merek (2016年商標法および地理的表示に関する法律)
https://dgip.go.id/unduhan/kompilasi-pp?kategori=paten (2020年雇用創出法)
・商標および地理的表示のための知的財産モジュール、2019年版
https://www.dgip.go.id/unduhan/modul-ki?kategori=merek ・商標法(2016年改正)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/indonesia-shouhyou_2016.pdf (日本語訳、2020年雇用創出法第11号による改正前のもの)
■本文書の作成者
ACEMARK Intellectual Property■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.09.10