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中国知財法と日本知財法の相違点

2022年11月22日

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■概要
中国進出にあたっては有効な知財戦略を立てる必要があるが、そのためにはまず、中国と日本の知財法の相違点を理解することが重要である。本稿では、専利(日本における特許、実用新案、意匠に相当)制度と日本の特許・実用新案・意匠制度について、存続期間、保護対象、審査・審判における相違点の概略を紹介する。
■詳細及び留意点

1.中国と日本の特許・実用新案・意匠関連法制度
中国専利法(特許・実用新案・意匠)に関する関連規定
(1) 中国の専利法に関する規定には、法律(専利法)、司法解釈(最高人民法院による規定・通知など)、行政法規(専利法実施細則)、部門規定(専利審査指南)などがある。
(2) 日本では特許法、実用新案法、意匠法が独立して(異なる法律として)存在しているが、中国では、発明(発明専利)、実用新案(実用新案専利)、意匠(意匠専利)に関する規定が、専利法の中に収められている。
(3) 審査における具体的な規定として、中国国家知識産権局の部門規定である「専利審査指南」が規定されている。名称は、専利「審査」指南であるが、審理に関する規定も収録されており、審判官も「専利審査指南」を参照する。
(4) 司法解釈は、最高人民法院(日本の最高裁に相当)が法律の具体的な適用に関する解釈を示したものであるが、全国人民代表大会委員会など他の機関が示したものもある。

日本の特許・実用新案・意匠に関する規定
(1) 特許法、実用新案法および意匠法において、それぞれ発明、考案および意匠に関する規定が設けられている。
(2) 審査における具体的な運用については、審査基準や審査ハンドブックに示されている。ただし、これらは特許庁の判断の公平性、合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であって、行政手続法第5条でいう「審査基準」には該当しない(特許法第195条の3、平成17年(行ケ)第10042号「偏光フィルムの製造法」事件 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/286/009286_hanrei.pdf)。

2.中国と日本の特許・実用新案、意匠に関する制度の違い
(1) 権利の存続期間

特許 実用新案 意匠
中国*1 出願日から20年 出願日から10年 出願日から15年
日本*2 出願日から20年 出願日から10年 登録日から25年*3

*1:専利法第42条
*2:特許法第67条第1項、実用新案法第15条、意匠法第21条
*3:平成19年3月31日以前の意匠登録出願については、設定登録の日から最長15年をもって意匠権の存続期間を終了する。

(2) 権利の保護対象および進歩性

中国 日本
特許 ・発明とは、製品、方法又はその改善に対して行われる新たな技術方案を指す(専利法第2条第2項)。

・科学上の発見、知的活動の規則及び方法、疾病の診断及び治療方法、動物と植物の品種、原子核変換方法及び原子核の変換方法で得られた物質については、専利権は付与されない(専利法第25条第1項第1号から第5号)。

【進歩性】
・発明は現有技術に比べて、より良好な技術的効果を有する。例えば、品質の改善、生産量の向上、エネルギーの節約、環境汚染の防止と処置など(専利審査指南 第二部分第四章3.2.2(1))。
・「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。物、方法の発明、物を生産する方法の発明についてそれぞれ実施行為が規定されている(特許法第2条)。
・公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明については、第二十九条の規定にかかわらず、特許を受けることができない(特許法第32条)。


【進歩性】
・特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が先行技術に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明(進歩性を有していない発明)について、特許を受けることができない(特許法第29条第2項)。
実用新案 ・実用新案とは、製品の形状、構造又はその組合せに対して行われる、実用に適した新たな技術方案を指す(専利法第2条第3項)。




【進歩性】
・発明で技術的構想が違う技術方案が提供されており、その技術的効果はほぼ現有技術の水準に達している(専利審査指南 第二部分第四章3.2.2(2))。
・「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう(実用新案法第2条)。
・公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある考案については、第三条第一項の規定にかかわらず、実用新案登録を受けることができない(実用新案法第4条)。

【進歩性】
・実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基いてきわめて容易に考案をすることができたときは、その考案については、同項の規定にかかわらず、実用新案登録を受けることができない(実用新案法第3条第2項)。
意匠 ・意匠とは、製品の全体又は一部の形状、模様又はその組合わせ並びに色彩と形状、模様の組合せに対して行われる、優れた美観に富み、かつ工業上の応用に適した新たなデザインを指す(専利法第2条第4項)。

・平面印刷物の模様、色彩又は両者の組み合わせによって作成され、主に表示を機能とするデザイン には専利権は付与されない(専利法第25条第1項第6号)
・「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項第六号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう(意匠法第2条)。

(3) 特許出願の審査

中国 日本
方式審査 あり(専利法第34条) あり(特許法第17条3項2)
実体審査 あり(専利法第35条) あり(特許法第48条の2)
審査の流れ 方式審査(初歩的審査)、実体審査 方式審査、実体審査
審査請求 ・実体審査を受けるためには実体審査を請求する必要がある。実体審査の請求は出願日から3年以内に行うことができ、実体審査の請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(専利法第35条、第28条、専利法実施細則第11条、第102条)。
・実体審査の請求を行うことができるのは、出願人のみである(専利法第35条)。
・審査を受けるためには出願審査の請求を行う必要がある。出願審査の請求は出願の日から3年以内に行うことができ、この期限内に出願審査の請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(特許法第48条の2、第48条の3第4項)。
・審査請求は出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
・PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。

(4) 特許に関する審判

中国 日本
審判の種類 ・不服審判(専利法第41条)
・無効審判(専利法第45条から第47条)
・拒絶査定不服審判(特許法第121条)、
・無効審判(特許法第123条)、
・延長登録無効審判(特許法第125条の2第1項)、
・訂正審判(特許法第126条)
拒絶査定不服審判の請求期限 ・専利出願人は国務院専利行政部門の拒絶査定に不服がある場合、通知受領日から3か月以内に、国務院専利行政部門に不服審判を請求することができる(専利法第41条)。
・拒絶査定又は延長登録についての拒絶査定に不満がある場合には、拒絶をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から3か月以内に審判を請求することができる(特許法第121条第1項)。
異議申立制度 ・現行法では異議申立制度はないが、何人も意見書を提出することができる(専利法実施細則48条)。
・特許公報発行の日から6か月以内に限り、利害関係人に限定されず「何人も」特許異議申立てをすることができる(特許法第113条)。
■ソース
日本国特許法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121
日本国実用新案法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000123
日本国意匠法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000125
日本国特許庁「出願の手続き」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/syutugan_tetuzuki/00_04atoz.pdf
日本国特許・実用新案審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/index.html
日本国審判便覧(第19版)
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/sinpan-binran.html#67
中国専利法(2021年6月1日施行)(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
中国専利法(2020)(中国語)
https://www.cnipa.gov.cn/art/2020/11/23/art_97_155167.html
中国専利法実施細則(2010)(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20100201.pdf
中国専利法実施細則(2010)(中国語)
https://www.cnipa.gov.cn/art/2015/9/2/art_98_28203.html
※現時点で入手可能な実施細則の最新版は2010年版であるが、2021年6月1日施行の専利法に対応した専利法実施細則の改正提案の内容を、次のリンクから確認することができる。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/opinion/20201127_jp.pdf
中国専利審査指南(2010)(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201.pdf
※改訂に伴う差分について、次のリンクの「部門規定」から確認が必要であり、2022年8月現在では2021年1月、2020年2月、2019年11月、2017年3月、2014年3月および2013年10月の改訂内容が掲載されている。
https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/section.html
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.08.24

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