国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 出願実務 | 審決例・判例 特許・実用新案 (中国)新規性及び単一性の拒絶理由を解消するための物質クレームから用途クレームへの変更が適法な補正として認められた事例

アジア / 出願実務 | 審決例・判例


(中国)新規性及び単一性の拒絶理由を解消するための物質クレームから用途クレームへの変更が適法な補正として認められた事例

2013年02月26日

  • アジア
  • 出願実務
  • 審決例・判例
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
新規性及び単一性の拒絶理由を解消するために物質クレームから用途クレームへ変更する補正について、拒絶理由通知書を受け取った後に特許出願書類に対して補正を行う場合には通知書の要求に従ってのみ補正しなければならないとする専利法実施細則第51条第3項の規定を満たさないとして、中国特許庁審査部はこれを認めなかったが、特許庁審判部はこれを適法なものとして認め、審査部の決定を覆した。
■詳細及び留意点

 本件特許出願は、消化性潰瘍の発生に関与するピロリ菌の除菌作用を有するヘリコバクター・ピロリ接着阻害剤に関するものである。

 本件特許出願の出願人は、出願当初の「幽门螺旋杆菌粘附抑制剂,其包含作为活性成分的糖和蛋白的褐变反应的产物(日本語訳:「活性成分とする糖分とタンパクの褐変反応によって生成された物質を含むことを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌付着抑制剤」)」等の物質クレームについて、新規性及び単一性の要件を満たさないという審査部からの指摘を受けたため、これらを「糖和蛋白的褐变反应的产物在制备幽门螺旋杆菌粘附抑制剂中的用途(日本語訳:「物質ヘリコバクター・ピロリ菌付着抑制剤の製造における糖分とタンパクの褐変反応によって生成された物質の用途」)」等の用途クレームに改める補正を行い、拒絶理由は解消した旨主張した。

 これに対し、中国特許庁審査部は再度拒絶理由通知書(中国語「审查意见通知书」)を送付し、このような補正は、拒絶理由通知書を受け取った後に特許出願書類に対して補正を行う場合には通知書の要求に従ってのみ補正しなければならないと規定する専利法実施細則第51条第3項の規定を満たさないと指摘した。さらに、特許庁審査部は、このような補正が細則の要件を満たすという出願人の主張を採用せず、拒絶査定を出した。

 出願人は拒絶査定を不服として、クレームに対する補正を加えずに特許庁審判部(中国語「专利复审委员会」)に不服申立を申請した。

 

 この拒絶査定不服審判(中国語「专利复审」)において、特許庁審判部は、本発明の特徴はヘリコバクター・ピロリ菌付着の活性を抑制するという物質の役割を発見したことにあり、請求項を製薬の用途形式の請求項に変えることは補正後の請求項を既存技術と区別しようとするものであり、このような補正は通知書の要求に従っておこなったものに該当すると認め、審査部に本件特許出願を差し戻す決定をおこなった。

 

参考(国特許庁審判部拒絶査定不服審決2009年5月26日付第17351号の決定理由より):

 本案中,第一次审查意见通知书所针对的权利要求书包括14项权利要求,其中独立权利要求1、13、14分别要求保护幽门螺旋杆菌粘附抑制剂、预防或治疗与幽门螺旋杆菌相关的疾病的药物组合物、预防或改善与幽门螺旋杆菌相关的疾病的食品,可见独立权利要求1、13、14要求保护的主题都是产品,并且都用与幽门螺旋杆菌相关的用途特征进行了限定,但是由于在对产品权利要求进行新颖性评价时,不考虑产品的用途特征,因此,第一次审查意见通知书指出独立权利要求1、13、14不具备专利法第22条第2款规定的新颖性。

 在对第一次审查意见通知书进行答复时,请求人指出,糖和蛋白质的褐变反应产物确实不是新物质,本发明的发明点在于发现了其抑制幽门螺旋杆菌粘附的活性,为此,请求人根据中国专利审查实践,将权利要求修改为制药用途形式的权利要求,以区别于现有技术。

 由此可见,请求人在答复第一次审查意见通知书时对权利要求1、13、14所作的修改是在将新颖性判断中不起限定作用的特征修改为起限定作用的特征,体现出本发明的发明点,使修改后的权利要求能够区别于现有技术,权利要求1、13、14所作修改的目的在于克服审查意见通知书所指出的缺陷,该修改是按照通知书的要求进行的。

 (日本語訳:本件に関して、第一次審査意見通知書対象の特許請求の範囲には、14の請求項が含まれる。そのうち独立請求項1、請求項13、請求項14はそれぞれヘリコバクター・ピロリ菌付着抑制剤、ヘリコバクター・ピロリ菌付着抑制剤の関連疾病を予防又は治療する薬物の組合せ、ヘリコバクター・ピロリ菌付着抑制剤の関連疾病を予防又は改善する食品に対する保護を求めるものであるから、保護を求める主題は共に物であることが分かる。また、ヘリコバクター・ピロリ菌と関連ある用途特徴を用いて限定されている。しかし、物の発明に関する請求項の新規性を評価する際には、製品の用途特徴を考慮しないため、第一次審査意見通知書では、独立請求項1、請求項13、請求項14は専利法第22条第2項が規定する新規性を有しないと認定した。

 第一次審査意見通知書に回答する際、請求者は、糖分とタンパク質の褐変反応によって生成された物質は確かに新しい物質ではなく、本発明の特徴はヘリコバクター・ピロリ菌付着の活性を抑制するという当該物質の役割を発見したことにあるので、中国の特許審査実務に基づいて、請求項を製薬の用途形式の請求項に変えることにより、既存技術と区別したと主張した。

 以上のように、請求者が第一次審査意見通知書に回答する際に行った請求項1、請求項13、請求項14に対する補正は、当該特徴を新規性判断に限定的な役割をするように補正するもので、本発明の特徴を明確にすることにより、補正後の請求項を既存技術と区別しようとするものであった。請求項1、請求項13、請求項14に対する補正の目的は、審査意見通知書が指摘した欠陥をクリアすることにあるため、当該補正は通知書の要求に従って行ったものと思われる。)

 

 なお、本文書の作成に当たっては、特許庁平成23年度産業財産権制度問題調査研究「発明の特別な技術的特徴を変更する補正及び発明の単一性の要件に関する調査研究」の報告書の翻訳を用いた。

 

【留意事項】

 用途を含む物質クレームあるいは用途クレームに関する解釈・取扱いは、国よって異なることがあり得るので注意を要する。本件においては物質クレームから用途クレームへ変更する補正が認められているが、物の発明に関する請求項の新規性を評価する際には製品の用途特徴を考慮しないといった各国ごとの運用に留意しつつクレームを作成することが望ましい。

■ソース
・特許庁平成23年度産業財産権制度問題調査研究
 「発明の特別な技術的特徴を変更する補正及び発明の単一性の要件に関する調査研究」報告書
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/zaisanken.htm#5003 http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2011_03.pdf ・中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2009年5月26日付第17351号
・中国特許出願第03804435.8号(公開番号CN163878A、対応PCT出願番号PCT/JP2003/000724号)
・中国専利法
・中国専利法実施細則
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 古田敦浩
■協力
北京林達劉知識産権代理事務所
■本文書の作成時期

2012.12.12

■関連キーワード