国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 出願実務 | アーカイブ 特許・実用新案 中国における特許/実用新案の同日出願について

アジア / 出願実務 | アーカイブ


中国における特許/実用新案の同日出願について

2013年02月08日

  • アジア
  • 出願実務
  • アーカイブ
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
(本記事は、2021/5/25に更新しています。)
 URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19954/

中国では、同一の発明創作には1つの専利権のみが付与されるが、同一の出願人が同一の発明創作について特許と実用新案を同日に出願する場合(以下、「特実同日出願」という。)、出願人は、先に取得した実用新案特許権が終了する前に当該実用新案権を放棄すれば、特許出願について権利付与を受けることができ、特許出願の内容を修正すれば、特許と実用新案との両方を維持することもできる。
■詳細及び留意点

専利法第9条第1項の規定によれば、中国では、同一の発明創作には1つの専利権のみが付与されるが、同一の出願人が同一の発明創作について特許(中国語「发明专利」)と実用新案(中国語「实用新型专利」)を同日に出願する場合、出願人が当該実用新案権を放棄すれば特許出願について権利を取得することができる(いわゆる中国の特実併願(中国語「一案两报」)制度)。また、特許出願の内容を修正すれば特許と実用新案との両方を維持することもでき、この特実同日出願によって実用新案の早期権利化と特許権による長期的保護の双方のメリットを享受することができる。最近は、実用新案の進歩性要件が特許の進歩性に比べて比較的緩いと言われているため、特許の権利化が難しそうなものについては、特実同日出願をすれば、特許の権利化が図れなくても実用新案権を取得できることがある。なお、中国では日本と異なり出願の変更は認められていない。

 

(1)特実同日出願における願書の記載

ž・同一の出願人が同日に「同一の発明創作」について特許と実用新案を出願する場合、特許出願の願書と実用新案出願の願書に、対応する実用新案又は特許を出願していることをそれぞれ説明する必要がある。特許出願の願書の下記項目(21)、実用新案出願の願書の下記項目(18)にチェックボックスにチェックを入れれば、その旨の説明がされたとみなされる。

(21)□ 声明本申请人对同样的发明创造在申请本发明专利的同日申请了实用新型专利

(和訳:出願人は同一の発明創造に対し、本特許を出願すると同日に実用新案を出願することを声明する)

(18)□ 声明本申请人对同样的发明创造在申请本实用新型专利的同日申请了发明专利

(和訳:出願人は同一の発明創造に対し、本実用新案を出願すると同日に特許を出願することを声明する)

・実用新案は実体審査(中国語「实质审查」)はなく方式審査(中国語「初步审查」)のみで登録となるため、一般的には特許出願より先に権利付与される。権利付与された実用新案権が公告される際には、出願人が対応する特許出願を同日に行っていることも併せて公告される。

 

(2)実用新案権の放棄

・先に取得した実用新案権が消滅しておらず、かつ特許出願が実体審査を受けて拒絶理由が見つからなかった場合、審査官(中国語「审查员」)は、出願人に指定期間内にその実用新案権を放棄、または特許出願の内容を修正するよう通知する。

・出願人は、指定期限内に実用新案権を放棄することにより、特許出願の権利化を図ることもできるし、特許出願の内容を修正することにより、特許と実用新案との両方を維持することもできる。

・出願人が放棄に同意せず、修正もしない場合は、当該特許出願が拒絶される(実施細則第41条、審査指南第2部分第3章6.2.1.1)。

・実体審査において、審査官のミスにより、上記のような通知が出されず、特許出願がそのまま登録された場合、同一の発明創作について、特許権と実用新案権が併存することになる。この場合、将来、ダブルパテントを理由として、第三者に無効審判請求を提起された場合、特許権者は実用新案権を放棄することにより、その特許権を維持することができる(審査指南第4部分第7章2.1)。なお、放棄された実用新案権は特許権が付与されたことを公告した日から終了する(実施細則第41条)。

 

(3)「同一の発明創作」の解釈

特許出願の場合、実体審査を経てクレーム補正が行われた上で権利化することが多いため、形式審査のみで登録になる実用新案権と異なる場合が多く、補正された特許権と実用新案権とが「同一の発明創作」に該当するかが問題になるところ、「同一の発明創作」に該当するかどうかは、「同じ技術的範囲」の請求項があるか否かによって決められる(審査指南第4部分第7章1、第2部分第3章6)。

しかし、この「同じ技術的範囲」の請求項にあるか否かの判断基準は、専利法、専利法実施細則及び専利審査基準のいずれにも明確に規定されておらず、実務上は、文言上同一又は実質的同一の技術的範囲である(技術的範囲が部分的に重なっていたり、一方の技術的範囲が他方の技術的範囲を完全にカバーしていたりするという状況は含まれない)との解釈が一般的である。

 

【留意事項】

(1)特実同日出願は、現実に中国特許庁(中国語「国家知识产权局」)に同じ日に出願する必要がある。特許出願と実用新案出願について同一の優先権を主張したい場合には、それぞれの出願において優先権を主張する必要がある点に留意すべきである。

なお、PCT出願の国際段階において特許と実用新案の両方を指定し、お互い他方の出願がある旨を声明することができないことから、実務においては、特実同日出願は、PCT出願の中国国内段階への移行時には適用されないと解されている。

 

(2)詳細(1)で述べた、特許出願の願書と実用新案出願の願書において、対応する実用新案又は特許を出願している旨の説明を出願時に行わなかった場合、専利法第9条第1項の「同一の発明創造に一つの専利権しか付与できない」という規定に基づいて、一つの権利しか残らないように処理されてしまうので注意を要する。

 

(3)上述の通り、特許出願と実用新案出願とが「同一の発明創作」に属するか否かは、文言上同一又は実質的同一の技術的範囲の請求項があるかで判断されるため、実体審査において限定が加えられた特許出願は、実用新案権と同一の発明創造に属さないと判断される場合が多いと思われる。

この場合、出願人は、先に登録になった実用新案権を放棄するか或いは特許出願と実用新案権とを両方維持するかを選択することができるが、先に登録になった実用新案権を存続させる価値があるかを十分に見極めた上で選択すべきである。実用新案の進歩性要件は特許に比べて低いため、場合によっては、比較的広い保護範囲の実用新案権を維持する価値があると考えられる。

■ソース
・中国専利法
・中国専利法実施細則
・中国専利審査指南
  第2部分第3章 新規性
  第4部分第7章 無効宣告手続における同一の発明創造についての処理
・特許出願願書(中国語「发明专利请求书」)、実用新案出願願書(中国語「实用新型专利请求书」)
http://www.sipo.gov.cn/bgxz/
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
三協国際特許事務所 中国専利代理人 梁熙艶
一般財団法人比較法研究センター
■本文書の作成時期

2012.10.30

■関連キーワード