アジア / 出願実務
中国における商標登録出願の流れと審査期間および期間短縮への動き
2022年02月24日
■概要
(2024年6月10日訂正:本記事のソース1および2のURLを追記いたしました。)
(2022年5月19日訂正:
本記事のソース「商標申請費用納付期間の調整に関する通知(2021年9月14日発表)」のURLが、リンク切れとなっていたため、修正いたしました。)
中国では、商標登録出願に関する早期権利化のニーズはあるものの、早期審査(優先審査)の制度は設けられていない。しかしながら、2014年5月1日の中国商標法第三次改正に伴い、商標出願の審査期間が厳格に定められ、出願書類を受理してから9か月以内に審査を終了しなければならないと規定された。また、現在、審査スピードが大幅に向上され、平均審査期間は4か月に短縮されている。
■詳細及び留意点
(1)商標登録出願の早期審査とは
中国において早期審査制度は設けられていないが、商標登録出願の早期審査(優先審査と呼ばれることもある)とは、商標登録出願に関する早期権利化のニーズを踏まえ、所定の要件を満たす出願について、通常と比べて早期に審査を行う制度である。
商品のライフサイクルの短縮化や経済活動のグローバル化等により、商標権の設定登録前に出願人が出願に係る商標を使用することも少なくない。また、商機の把握や迅速な対応、ブランドの立ち上げ・宣伝の展開、商品の包装のデザイン・印刷等の一連の事業に関連する活動においても、商標の早期登録が望まれている。しかしながら、通常の商標登録出願手続では、設定登録までかなりの時間を要するのが実状であり、事業活動のニーズに対応できないケースも少なくない。
商標登録出願に関する早期権利化のニーズに対応するため、商標登録出願の早期審査制度が他国では確立されており、日本、韓国、オーストラリア、ロシア、インド、マレーシア、ベトナム等の国ではすでに導入されている。
(2)中国の商標出願早期審査制度の有無
中国には、商標登録出願の早期審査制度または類似の制度はない。
(3)中国における商標登録出願の審査状況
2014年5月1日の中国商標法第三次改正後、国家知識産権局商標局へ直接(国際登録出願ルートではなく)出願する商標出願は、以下のフローで手続が行われる(図1)。
図1:中国商標出願(直接出願)フローチャート
上記フローチャートに基づき、通常の商標出願の審査の流れおよび期間について概要を説明する。
商標局は新規の商標出願を受理した後、まず出願の書式や記載事項、署名・捺印等の確認などの方式審査を行う。上記事項等で一つでも不備があると、不受理通知書が発行される。この審査には通常1週間を要する。
その後、商品・役務名称と商標見本等に不備があるかどうかについて審査が行われる。不備がない場合、出願費用の納付通知書が発行される。出願人が納付通知書を受領してから、7日以内に納付しなければならない(2021年9月14日発表「商標申請費用納付期間の調整に関する通知」参照)。納付後、当該商標出願は正式に受理され、受理通知書が発行される。このステップには約1~2か月を要する。一方、方式審査で不備があった場合には、補正通知書が発行される。補正応答期間は30日間で、オンライン出願の場合は更に15日の送達期間が与えられ、45日間となる(「商標法実施条例」第十条 当事者は該当書類がその電子システムに入る日付を証明できる場合を除き、書類を発送した日より15日を満了したら、当事者に送達されたとみなされる。)。出願人の補正により不備が解消された場合、上記の出願費用の納付通知書、受理通知書の発行手続が進められる。受理通知書の発行後、実体審査段階に入る。
商標局は、商標登録出願書類を受領してから9か月以内に審査を完了するものとし、法的規定を満たすときは、初歩査定を行い公告する。初歩査定公告後3か月間の異議申立期間に入り、第三者からの異議申立がなければ、設定登録公告や商標登録証の発行等の手続が行われる。
なお、実体審査を経て、「商標法」の関連規定に違反すると判断されると、拒絶査定の通知が発行される。出願人はその拒絶査定に不服がある場合、商標局の通知を受取った日から15日以内に不服審判を請求しなければならない。審判請求してから、3か月の証拠補足期間もある。現在、拒絶不服審判は審判請求してから審決が出るまでは6~8か月を要する。
また、実体審査において、商標局が、商標登録出願が「商標法」の関連規定に違反しているが、例外規定に合致する可能性があると判断した場合には、すぐに拒絶通知を発行せず、審査意見書を発行し、出願人に法定期限までに商標登録出願について説明や補正を行ない、例外規定適用対象にあたることを証明する資料などを補充するよう求める。出願人はこの意見書の通知を受取った日から15日以内に応答しなければならない。『第十一部分三 審査及び審理基準』によれば、審査意見書は下記の条項にいう状況に該当する場合に適用される。
1.「商標法」第十条第一項第(二)、(三)、(四)号、第二項但し書きの規定に合致する可能性があり、出願人による説明を経て予備査定を受け得る場合。
2.新聞、雑誌、定期刊行物、ニュース刊行物など特殊な商品を指定して、国名、県級以上の行政区画名を含むものを登録出願し、出願人に関連証拠材料(例えば、「定期刊行物出版許可証」など)を提示させる必要がある場合。
3.「商標法」第十一条第二項の規定に合致する可能性があり、出願人による説明を経て予備査定を受け得る場合。
商標登録出願は色彩組合せ商標または音声商標であり、かつ願書によりそれが顕著な特徴を備えていることを確認できず、出願人による使用証拠の再度補充で、長期間の使用を経て顕著な特徴を備えるようになったことを説明した後に、予備査定を受け得る場合。
商標登録出願中に顕著でない部分が含まれ、これを理由に予備査定を認めるべきでないが、出願人による補正を経て予備査定を受け得る場合。
4.確かに適用する必要があるその他の場合。
審査意見の応答や拒絶不服審判によって拒絶理由が解消された場合、上記の初歩査定公告、設定登録公告や商標登録証の発行等の手続が進められる。
なお、法改正前は、商標出願の審査期間について制限がなかったため、審査の遅滞等が生じ、審査の結果が通知されるまでに2、3年を要したケースも珍しくなかった。商標法の改正に伴い、商標出願の審査期間が厳格に定められ、出願書類を受理してから9か月以内に審査を終了しなければならないとされている。この結果、現在では、出願日から実体審査の結果(初歩登録査定または拒絶査定)が出るまでの平均審査期間は4か月にまで短縮されることとなった。中国では商標登録出願の早期審査制度が設けられておらず、日本の商標出願早期審査制度のように審査期間を1~2か月程度まで短縮することはできないものの、審査速度の向上によって平均審査期間が4か月ぐらいに短縮されたことから、商標出願の後7~9か月以内に設定登録を受けることが可能となった。
■ソース
1.中国商標法(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20191101law_2_jp.pdf
2.商標審査審理指南(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20220101_1.pdf
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20220101_2.pdf
3.商標申請費用納付期間の調整に関する通知(2021年9月14日発表)
http://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/tzgg/202109/t20210914_5651.html
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2021.11.25