アジア / 出願実務 | アーカイブ
中国で保護される商標の類型
2012年12月14日
■概要
(本記事は、2017/7/27、2021/5/27に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13926/(2017/7/27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19984/(2021/5/27)
中国商標は、構成要素によって、文字商標、図形商標、立体商標、色彩の組合せ商標及び前述の要素の組合せによる結合商標に分けられている。また、使用対象等により、商品商標、役務商標、証明商標、団体商標に分けられている。さらに、知名度によって、馳名商標、著名商標などに分けられている。中国で保護される商標の類型と日本の類型とは、制度及び実務上の運用において多くの点で相違している。
■詳細及び留意点
(1)中国で保護される商標の類型
(i)商標の構成要素による分類
自然人、法人又はその他の組織の商品またはサービスを他人の商品またはサービスと区別することができるいかなる視覚的標章(文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状及び色彩の組合せ、並びにこれらの要素の組合せを含む)も、商標として登録することができる(商標法第8条)。
参考(いわゆる非伝統的商標の保護の可能性について):
現行の中国商標法によると、音声商標、匂い商標、動態商標などのいわゆる非伝統的な商標は登録できない。しかし、中国第三次商標法改正稿意見募集稿(2011年9月1日―国務院法制弁公室より公表)第8条では、自然人、法人又はその他の組織の商品を他人の商品と区別することができるいかなる標識(文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色彩及び音声、並びにこれらの要素の組合せを含む)についても、商標として登録することができる、と提案されている。今後、音声商標等は登録対象となる可能性がある。
(ii)商標の用途と使用者による分類
(a)商品商標
自然人、法人又はその他の組織が、その生産、製造、加工、選定又は販売にかかる商品について商標権の取得を要するとき、商標局に商品商標の登録を出願しなければならない(商標法第4条第1項)。なお、以下の例はいずれも中国商標網の公開情報から得られたものである。
例:
(b)役務商標
自然人、法人又はその他の組織が、その提供する役務について商標権の取得を要するとき、商標局に役務商標の登録を出願しなければならない(商標法第4条2項)。
例:
(c)証明商標
特定の商品又は役務に対して監督能力を有する組織の管理下に置かれるものであり、かつ当該組織以外の事業単位又は個人がその商品又は役務に使用するもので、当該商品又は役務の原産地、原材料、製造方法、品質又はその他の特定の品質を証明するために用いる標章をいう(商標法第3条第3項)。
例:
(d)団体商標
団体、協会又はその他の組織の名義で登録され、当該組織の構成員が商業活動の使用に供し、これを使用する者が当該組織の構成員たる資格を有することを表明する標章をいう(商標法第3条)。
例:
参考(地理的表示について):
中国商標法には、いわゆる地理的表示といわれる概念がある。地理的表示とは、商品がその地域に由来することを示し、同商品の特定の品質、信用又はその他の特徴が、主に同地域の自然的要素及び人文的要素によって形成されたものの表示をいう(商標法第16条)。日本のような地域団体商標制度は法律に導入されていないが、地理的表示を証明商標又は団体商標として出願して登録することはできる(商標法実施条例第6条)。
(iii)商標の知名度による分類
(a)馳名商標
ア)定義
中国で関係のある公衆に周知され、かつ高い名声と信用を有する商標をいう(馳名商標認定及び保護に関する規定第2条)
イ)種類
馳名商標には以下の2種類がある。(商標法第13条)
- 中国で未登録の馳名商標(他人が同一又は類似の商品について出願した商標が、当該馳名商標を複製、模倣または翻訳したものであり、容易に混同を生じさせる場合は、その登録を認めず、且つその使用を禁止する);
- 中国で登録済みの馳名商標(他人が非同一又は非類似の商品について出願した商標が、当該馳名商標を複製、模倣または翻訳したものであり、公衆を誤認させ、当該馳名商標の所有者の利益に損害を生じさせる恐れがある場合は、その登録を認めず、且つ、その使用を禁止する)。
ウ)認定機関
馳名商標は、国家工商行政管理総局商標局、商標審判部(中国語「商标评审委员会(商標審判委員会)」、人民法院(裁判所)において認定される。
エ)馳名商標を認定できる場合
商標異議申立、商標審判、商標行政摘発、行政訴訟、民事訴訟
なお、商標行政摘発請求は、地方の工商行政管理局に提出するが、馳名商標認定は商標局に委ねられる。馳名商標認定申請がある場合、地方の工商行政管理局は申請資料と証拠を商標局に転送する。
オ)認定原則
個別の案件ごとに、必要に応じて認定し、且つ受動的に保護する。
すなわち、①個別の案件ごとに、認定申請できる。②中国の商標法に基づいて認定する必要がある場合は、認定できる(認定しなくても申請人の権益が保護を得られる場合には申請人の商標が馳名であるか否かについての判断や認定は行わない)。③認定機関は、申請人の請求に基づいて認定して保護を与えるが、自ら主動的に認定して保護を与えることはできない。
カ)馳名商標の例:以下の例は、国家工商行政管理総局商標局のウェブサイトの馳名商標の公表情報及び商標データベースから得られたものである。
(b)著名商標
ア)定義
地元の産業発展を図るために、各省内で著名性が認定されたものをいう。それぞれの省が各々の基準で判断する。
イ)認定機関
省クラスの工商行政管理局
ウ)認定原則
申請による認定
エ)手続の流れ
商標所有者が申請し、省クラスの商行政管理局が審査、認定し、その後、公表される。外国企業は、著名商標認定申請をすることができず、著名商標認定申請ができる商標所有者は、一般的には、中国国内の企業に限られる。
(2)中国商標と日本商標の違い及び留意点
(i)文字商標の審査の違い
中国では、漢字やローマ字商標は文字商標として審査する。日本語のカタカナや平仮名、他の特別な外国語(例:アラビア語)、中国の少数民族の特別な言語(例:ウイグル語)からなる商標は、中国では、通常、図形商標として審査する。審査官によって、その文字の意味が分かる場合、ある程度文字の意味を考慮して総合的に審査される。
日本では、消費者が一般に文字と理解できないものは図形商標として審査しており、この点においては日中共通である。ただし、日本語のカタカナと平仮名からなる商標は、日本では文字商標として審査するが、中国では前述のように図形商標として審査される。
(ii)ありふれた氏又は名称のみを表示する商標の審査の違い
中国では、中国のありふれた氏のみを表示する商標は、識別力を欠くとして登録できない。例:張記、李記、周記など(記は「しるし」という意味)
しかし、中国では、外国のありふれた氏又は名称のみを表示する商標は、識別力があるので、登録できる。例えば、鈴木、田中、野村、Smithなど。
それに対して、日本では、山田、スズキ、WATANABEなどのようなありふれた氏又は名称のみを表示する商標は、識別力なしとして登録できない。
(iii)地域団体商標制度の有無
前述のとおり、中国では、地理的表示を団体商標として出願することは可能である。しかし、日本のような地域団体商標制度は法律に導入されていない。
(iv)小売等に関する役務商標
中国では、日本のような小売等の役務商標制度はまだ導入されていないので、通常、小売等の役務を保護したい場合、具体的な商品の分類に加えて第35類の「販売促進のための企画及び実行の代理、他人の事業のために行う物品の調達及びサービスの手配、輸出入に関する事務の代理又は代行、広告宣伝」等の役務を指定して商標登録を受ける必要がある。
(v)防護標章制度の有無
日本には、登録商標の使用の結果、需要者の間に広く認識されている場合において、他人が当該登録商標をその指定商品または指定役務と類似しない商品又は役務に使用すると、当該商標権者の取扱う商品または役務であるかのように出所の混同を生じさせるおそれがあるときは、商標権の禁止的効力を上記非類似の商品又は役務にまで拡大することとした防護標章制度がある。中国では、このような防護標章制度はないため、通常の出願登録をすることになる。したがって、この場合、3年間使用をしなければ取消審判により取消されるおそれがある。
(vi)著名商標における相違
同じ「著名商標」という用語であるが、日本と中国ではその意味するところは大きく異なるため注意が必要である。
【留意事項】
・中国で商標として認められる標章の構成は、日本と同様に平面標章、立体標章に限られ、音声等のいわゆる非伝統的商標は認められていない。しかし、去年の韓国に続いて、中国でも採用が検討されている。
・日本国の原産地名等は地理的表示であるため、団体商標又は証明商標としてしか登録されないので、出願に際し留意する必要がある。
・立体商標については、セカンダリー・ミーニング(使用による顕著性)の証明が難しいようであり、立体形状をとりあえず平面商標として権利化しておき、平面商標と立体商標の類似関係の明確化に期待するのも一つの方法であろう。
・馳名商標の認定は、中国国内での知名度によるもので、日本での「著名性」認定の場合と同程度の証明が必要であるとされている。
・日本の「片仮名」、「ひらがな」は中国では「文字」ではなく「図形」として取り扱われており、その類否判断は原則的に外観類似か否かにより行われることに留意するべきであろう。
■ソース
・中国商標法・中国商標法実施条例
・馳名商標の認定と保護に関する規定
・中国商標審査基準
・中国商標局
http://sbcx.saic.gov.cn/trade/index.jsp ・中国国家工商行政管理総局商標局
http://www.ctmo.gov.cn/cmsb/200406/t20040619_54977.html http://www.ctmo.gov.cn/cmsb/200904/t20090425_54941.html http://www.ctmo.gov.cn/cmsb/201004/t20100413_81698.html http://www.ctmo.gov.cn/cmsb/201105/t20110527_106452.html ・日本商標法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S34/S34HO127.html ・日本特許庁
http://www.jpo.go.jp/index/shohyo.html
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
三協国際特許事務所 川瀬幹夫一般財団法人比較法研究センター 菊本千秋
■本文書の作成時期
2012.10.31