アジア / 出願実務
中国における保護される商標の類型
2021年05月27日
■概要
中国商標は、構成要素によって、文字商標、図形商標、立体商標、色彩の組合せ商標、音声商標および前述の要素の組合せによる結合商標に分けられている。また、使用対象等により、商品商標、役務商標、証明商標、団体商標に分けられている。さらに、知名度によって、馳名商標、著名商標などに分けられている。中国で保護される商標の類型と日本の類型とは、制度および実務上の運用において多くの点で相違している。■詳細及び留意点
1.中国で保護される商標の類型
1-1.商標の構成要素による分類
文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色彩の組合せおよび音声、並びにこれらの要素の組合せを含め、自然人、法人またはその他の組織の商品を他人の商品と区別することができるいかなる標章も、商標として登録出願することができる(商標法第8条)。
※中国商標法の商品商標に関する規定は、役務商標にも適用する。
※2013年商標法の第3回の改正により、音声商標が新しい商標類型として商標制度に導入された。
文字、図形、アルファベット、数字およびこれらの要素の組み合わせ商標については、説明を省略し、中国での非伝統的な商標(立体商標、色彩の組み合わせ商標および音声商標)について、以下のとおり紹介する。
(1)立体商標
三次元標識または他の要素を含む三次元標識で構成される商標である。商品自体の形状、商品の包装物または他の三次元標識は、立体商標とすることができる、例えば、下記の商標例がある。
例:
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指定商品:香水 |
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指定役務:レストラン |
説明:商標は、三次元標識のアニメのキャラクターおよびアルファベット「A」から構成される。
(2)色彩の組合せ商標
二種類以上の色彩で構成される商標である。主に下記の二種類がある。
(a)色の塊で色彩の組合せの方式を表明し、かつ文字により説明する。
例:
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指定役務:車両のガソリンスタンド |
商標説明:当該色彩の組合せ商標は、緑色、無煙炭の色およびオレンジ色の三種類の色から構成される。その中、緑色(Panton 368C)が60%を、無煙炭の色(Pantone 425C)が30%を、オレンジ色(Panton 021C)が10%を占め、図のように配列し、車両のガスリンスタンドの外観に使用される。
(b)点線による図形の輪郭で色の使用位置を表明し、商標説明を付加する。
例:

指定商品:ダンプカー、トラクター
商標説明:当該色彩の組合せ商標は、緑色および黄色の二種類の色から構成される。その中、緑色がPantone 364Cで、黄色がPantone 109Cである。緑色が車体に、黄色が車輪に使用される。点線の部分が、色彩が当該商品に使用される位置を表明し、車輪の轮廓および外観が商標の構成要素ではない。
(3)音声商標
商品または役務の出所を区別できる音で構成される商標である。音声商標には、下記の三種類がある。
(a)音楽性質の音声で構成されるもの(楽曲など)
例:
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第18112460号、第38類
指定役務:テレビジョン放送;有線テレビジョン放送など
説明:当該音声商標は、9小節で、主に変口長調の音楽コードで構成される。音楽コードは4分音符、8分音符および16分音符で構成される。
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第16844707号、第11類
指定商品:冷蔵庫など
説明:ハ長調で、4/4拍子で、2小節で構成される。1小節目は、順次に4分音符G、8分音符C、二つの8分音符B、8分音符Gおよび4分音符Gである。2小節目は、順次に2分音符Gおよび2分終止符である。最後に終止線である。
(b)非音楽性質の音声で構成されるもの(自然音、人または動物の声)
例:
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第14502518号、第41類
指定役務:教育;おもちゃの貸与など
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第14502511号、第9類
指定商品:インターネットを利用して受信および保存することができる音楽ファイルなど
(c)音楽性質および非音楽性質を併有する音声で構成されるもの。
例:
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第14503615号、第38類
指定役務:新聞社;テレビジョン放送など
説明:本件音声商標は、中国国際放送局の放送番組の開始曲であり、全長で40秒であり、計18小節であり、2/4拍子のリズムであり、ト長調とハ長調が交替に転換する。前の4小節は、同音声商標の前奏部分であり、ト長調である。中間の11小節は、同音声商標の主題部分であり、ハ長調である。その中、12小節目、13小節目にアナウンサーが「中国国際広播電台」と叫び、音楽が2小節を引き続き、主題部分が終わる。最後の3小節は、チェレスタで主題音楽を再び演奏し、ト長調に転換し、同音声商標が終わる。
1-2.商標の用途と使用者による分類
(1)商品商標
自然人、法人またはその他の組織は、生産経営活動において、その商品または役務について商標専用権を取得する必要があるときは、商標局に商標登録を出願しなければならない。使用を目的としない悪意のある商標登録出願は拒絶しなければならない(商標法第4条第1項)。なお、以下の例はいずれも中国商標網の公開情報から得られたものである。
例:
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第75977号、第3類 指定商品:化粧品 | 第11078035号、第18類 指定商品:ハンドバッグなど |
(2)役務商標
自然人、法人またはその他の組織は、生産経営活動において、その商品または役務について商標専用権を取得する必要があるときは、商標局に商標登録を出願しなければならない。使用を目的としない悪意のある商標登録出願は拒絶しなければならない(商標法第4条第1項)。
例:
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第3378857号、第38類 指定役務:有線テレビジョン放送など | 第16657535号、第43類 指定役務:レストランなど |
(3)証明商標
特定の商品または役務に対して監督能力を有する組織の管理下にあるものであり、かつ当該組織以外の事業単位または個人がその商品または役務について使用するもので、同商品または役務の原産地、原材料、製造方法、品質またはその他の特定の品質を証明するために用いる標章をいう(商標法第3条第3項)。
例:
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第892019号、第31類
指定商品:梨
出願人:庫尔勒香梨協会
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第1388983号、第33類
指定商品:醸造酒(もち米・米・栗などで醸造した黄色を呈する酒の総称)
出願人:紹興市黄酒業界協会
(d)団体商標
団体商標とは、団体、協会またはその他の組織の名義で登録され、当該組織の構成員が商業活動の使用に供し、これを使用する者が当該組織の構成員資格を表示する標章をいう(商標法第3条第2項)。
例:
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第3861671号、第29類 出願人:CONSORZIO DEL PROSCIUTTO DI PARMA |
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第3510402号、第8類 指定商品:スプーン・フォークおよび洋食ナイフ 出願人:THE CHAMBER OF INDUSTRY AND COMMERCE WUPPERTAL-SOLINGEN-REMSCHEID |
参考(地理的表示について):
中国商標法には、いわゆる地理的表示といわれる概念がある。地理的表示とは、ある商品がその地域に由来することを示し、同商品の特定の品質、信用またはその他の特徴が、主に同地域の自然的要素および人文的要素によって形成されたものの表示をいう(商標法第16条)。日本のような地域団体商標制度は法律に導入されていないが、地理的表示を証明商標または団体商標として出願して登録することはできる(商標法実施条例第4条)。
1-3.商標の知名度による分類
(1)馳名商標
(a)定義
中国で関係のある公衆に熟知されている商標をいう(馳名商標の認定及び保護に関する規定第2条)。
(b)種類
馳名商標には以下の2種類がある(商標法第13条)。
・中国で未登録の馳名商標(他人が同一または類似の商品について出願した商標が、当該馳名商標を複製、模倣または翻訳したものであり、容易に混同を生じさせる場合は、その登録を認めず、かつその使用を禁止する)。
・中国で登録済みの馳名商標(他人が非同一または非類似の商品について出願した商標が、当該馳名商標を複製、模倣または翻訳したものであり、公衆を誤認させ、当該馳名商標の登録者の利益に損害を生じさせる恐れがある場合は、その登録を認めず、かつ、その使用を禁止する)。
(c)認定機関
馳名商標は、国家知識産権局商標局、人民法院(裁判所)において認定される(商標法第14条)*1。
*1:法律規定の記載はまだ変更されていないが、2019年に商標審判委員会はなくなっており、全ての行政段階(登録出願、更新、譲渡、変更、異議申立、不使用取消、無効審判、拒絶不服審判など)の業務が商標局にて行われることになっている(国家知識産権局第295号http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2019-10/21/content_5442908.htm)。
(d)馳名商標を認定できる場合
商標異議申立、商標登録不許可不服審判、商標無効審判、商標行政摘発、民事訴訟、行政訴訟(商標法第14条、馳名商標認定及び保護に関する規定第5条および第6条)。
なお、商標行政摘発請求は、地方の市場監督管理局に提出するが、馳名商標認定は商標局に委ねられる。馳名商標認定申請がある場合、地方の市場監督管理局は申請資料と証拠を商標局に転送する(馳名商標認定及び保護に関する規定第7条、第11条および第12条)*2。
*2:法律規定の記載は変更されていないが、2018年に工商行政管理局は市場監督管理局に変更された。
(e)認定原則
個別の案件ごとに、かつ受動的に保護する(馳名商標の認定及び保護に関する規定第4条)。すなわち、個別の案件ごとに認定申請できる。認定機関は、申請人の請求に基づいて認定して保護を与えるが、自ら主動的に認定して保護を与えることはできない。
(f)馳名商標の確認
2021年3月現在、認定された商標は公表されておらず、データベース等で確認することはできない。
(2)著名商標
(a)定義
地元の産業発展を図るために、各省内で著名性が認定されたものをいう。それぞれの省が各々の基準で判断する。
(b)認定および使用の中止
著名商標の認定は、一種の商標保護手段であるものの、長い間、著名商標が一種の名誉として宣伝活動において利用されていた。また、地方政府は実績を追求するため、著名商標認定に関し、人為的に定量化指標を設定していた。
商標の著名性は良好な市場信用に関わっており、企業が長期経営の中で蓄積してきたもので、消費者が認可したものであるが、政府は行政手段を通じて著名商標を「育成」し、その実情は非市場手段で企業に不正競争行為を実施させ、著名商標を保護する目的に背いていた。
2017年11月1日、中国全国人民代表大会の法制工作委員会において、各地の著名商標の認定作業の中止が求められた。また、2018年1月26日、国務院法制事務処および国家工商行政管理総局が「著名商標制度に関する地方政府の規則と規範性文書の特別整理業務の展開に関する通知」(国法〔2018〕5号)(https://www.waizi.org.cn/doc/33444.html)が発行された。現在、著名商標の認定作業は全て中止となり、これまでに認定された著名商標の使用も全国で禁じられている。
2.中国商標と日本商標の違いおよび留意点
(1)文字商標の審査の違い
中国では、漢字やローマ字商標は文字商標として審査する。日本語のカタカナや平仮名、他の特別な外国語(例:アラビア語)、中国の少数民族の特別な言語(例:ウイグル語)からなる商標は、中国では、通常、図形商標として審査する。審査官によって、その文字の意味が分かる場合、ある程度文字の意味を考慮して総合的に審査される。
日本では、消費者が一般に文字と理解できないものは図形商標として審査しており、この点においては日中共通である。ただし、日本語のカタカナと平仮名からなる商標は、日本では文字商標として審査するが、中国では前述のように図形商標として審査される。
(2)ありふれた氏または名称のみを表示する商標の審査の違い
中国では、中国のありふれた氏のみを表示する商標は、識別力を欠くとして登録できない。例:張記、李記、周記など(記は「しるし」という意味)
しかし、中国では、外国のありふれた氏または名称のみを表示する商標は、識別力があるので、登録できる。例えば、鈴木、田中、野村、Smithなど。
それに対して、日本では、山田、スズキ、WATANABEなどのようなありふれた氏または名称のみを表示する商標は、識別力なしとして登録できない。
(3)地域団体商標制度の有無
前述のとおり、中国では、地理的表示を団体商標として出願することは可能である。しかし、日本のような地域団体商標制度は法律に導入されていない。
(4)小売等に関する役務商標
中国では、2013年1月1日に医薬品関連の小売または卸売りの役務が商標制度に導入された。具体的にいうと、第10版の『商標登録用商品および役務に関わる国際区分表』の第35類の類似群3509において「薬剤及び医療補助品の小売または卸売りの業務」が新設された。これ以外の商品に関わる小売または卸売りの役務は、まだ受け入れられないので、通常、小売または卸売りの役務を保護したい場合、具体的な商品の分類に加えて第35類の「販売促進のための企画および実行の代理、他人の事業のために行う物品の調達およびサービスの手配、輸出入に関する事務の代理または代行、広告宣伝」等の役務を指定して商標登録を受ける必要がある。
(5)防護標章制度の有無
日本には、登録商標の使用の結果、需要者の間に広く認識されている場合において、他人が当該登録商標をその指定商品または指定役務と類似しない商品または役務に使用すると、当該商標権者の取扱う商品または役務であるかのように出所の混同を生じさせるおそれがあるときは、商標権の禁止的効力を上記非類似の商品または役務にまで拡大することとした防護標章制度がある。中国では、このような防護標章制度はないため、通常の出願登録をすることになる。したがって、この場合、3年間使用をしなければ取消審判により取消されるおそれがある。
(6)著名商標における相違
同じ「著名商標」という用語であるが、日本と中国ではその意味するところは大きく異なるため注意が必要である。
(7)留意事項
・生産、経営者は、「馳名商標」の表示を商品、商品の包装もしくは容器に使用したり、広告宣伝、展示およびその他の商業活動に使用したりしてはならない。当該規定に違反した場合、地方の市場監督管理局は是正を命じ、10万元の罰金を科す。
・第3回商標法の改正により、音声商標が新しい商標類型として認められるようになった。日本では動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標が認められるようになったが、中国では、上記の商標類型がまだ認められない。
・日本国の原産地名等は地理的表示であるため、団体商標または証明商標としてしか登録されないので、出願に際し留意する必要がある。
・立体商標については、セカンダリー・ミーニング(使用による顕著性)の証明が難しいようであり、立体形状をとりあえず平面商標として権利化しておき、平面商標と立体商標の類似関係の明確化に期待するのも一つの方法であろう。
・馳名商標の認定は、中国国内での知名度によるもので、日本での「著名性」認定の場合と同程度の証明が必要であるとされている。
・日本の「片仮名」、「ひらがな」は中国では「文字」ではなく「図形」として取り扱われており、その類否判断は原則的に外観類似か否かにより行われることに留意するべきであろう。
■ソース
・中国商標法https://www.cnipa.gov.cn/art/2019/7/30/art_95_28179.html
・中国商標法 新旧対照表(日本語)日本貿易振興機構(ジェトロ)北京事務所
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20191101_jp.pdf
・中国商標法実施条例
https://www.cnipa.gov.cn/art/2015/9/14/art_96_28188.html
・中国商標法実施条例(日本語)日本貿易振興機構(ジェトロ)北京事務所
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20140501_rev.pdf
・馳名商標の認定及び保護に関する規定
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/section20140703.pdf
・馳名商標の認定及び保護に関する規定(日本語)日本貿易振興機構(ジェトロ)北京事務所https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20140703_rev.pdf
・中国商標審査基準
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20170105_2.pdf
・日本商標法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127
・日本特許庁
https://www.jpo.go.jp/index.html
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2021.02.18