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中国における商標の「識別力」

2021年05月25日

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■概要
「識別力」は商標登録の要件の一つであり、通常、識別力を有しない標章は、商標として登録できない。ただし、使用により識別力を有するに至った商標はこの限りではない。商標の識別力の有無を判断する際は、商標の標章自体(観念、称呼および外観の構成)、商標の指定商品、指定商品の関連公衆の認知習慣、指定商品の所属業界の実際の使用状況などを総合的に考慮しなければならない(審査基準第2部分)。
■詳細及び留意点

1.「識別力」の定義
 商標の「識別力」とは、自己と他人の商品または役務を区別して、関連公衆に商品または役務の出所を識別させる特徴をいう(審査基準第2部分)。

2.商標として登録できない標章
 以下の標章は、商標として登録することができない(商標法第11条)。
(1)その商品の単なる普通名称、図形、記号にすぎないもの。
(2)単なる商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量およびその他の特徴を直接表示するにすぎないもの。
(3)その他顕著な識別力を欠くもの。
 ただし、上記(1)~(3)に該当する標章であっても、使用により識別力を有し、かつ容易に識別可能なものとなった場合には、商標として登録することができる。

3.商標法第11条の関連解釈および事例(審査基準第2部分)
(1)商標法第11条第1項第1号にいう「普通名称、図形、記号」とは、国家基準、業界基準に規定されるまたは社会で一般的に認められる名称、図形、記号を指す。そのうち「名称」には、全称、略称、略語、俗称が含まれる。

例:
(a)指定商品で通用される普通名称にすぎないもの

指定商品:研磨道具(手道具)
(注:「MULLER」には「研磨機」の意味がある)

(b)指定商品で通用される図形にすぎないもの

指定商品:りんご

(c)指定商品で通用される型番にすぎないもの

指定商品:被服

(2)商標法第11条第1項第2号にいう「単なる商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量およびその他の特徴を直接表示するにすぎないもの」とは、単に指定商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量およびその他の特徴を直接説明、描写する標章により構成されるものをいう。

例:
(a)単なる指定商品の品質を直接表示するもの

指定商品:食用油
(注:「纯净」は、「純粋、清浄」という意味である。「Chunjing」は「纯净」の中国語の表音文字である。)

ただし、下記のように単に指定商品の品質を直接表示していないものは除く。

指定商品:肉、食用油
(「纯净山谷」は、「純粋な谷」を意味する。)

(b)単なる指定商品の主要原材料を直接表示するもの

指定商品:服装
(注:「彩棉」は、ワタの一種である。)

ただし、下記のように単に指定商品の原料を直接表示していないものは除く。

指定商品:果実の缶詰、ジャム
(注:「桔子红了」は、「みかんが赤くなりました」を意味する。)

(c)単なる指定商品の機能、用途を直接表示するもの

指定商品:漏電保護装置
(注:「SAFETY」の意味は「安全」)

(d)単なる指定商品の重量、数量を直接表示するもの

指定商品:米

(e)単なる指定商品のその他の特徴を直接表示するもの

(e1)単なる指定商品または役務の特定消費対象を直接表示するもの

指定商品:医療・手術用手袋
(注:「醫生」は「医者」という意味である。)

(e2)単なる指定商品または役務の価格を直接表示するもの

指定商品:磁気テープ、光ディスク(音声、映像)、眼鏡
(注:「5¥」は指定商品の価格を表示する。)

(e3)単なる指定商品または役務の内容を直接表示するもの

指定役務:自動車・二輪自動車の保守および修理
(注:「名车快修」は「名車を修理する」という意味である。)

(e4)単なる指定商品のスタイル、特色を直接表示するもの

指定商品:家具
(注:「中式」は指定商品が中国風のものを表示する。)

(e5)単なる指定商品の利用方式、使い方を直接表示するもの

指定商品:インスタントめん
(注:「冲泡」は指定商品の使い方を表示する。)

(e6)単なる指定商品の製法を直接表示するもの

指定商品:布地
(注:「蜡染」は「ろう染め」という意味である。)

(e7)単なる指定商品の製造場所、時間、年度などの特徴を直接表示するもの

指定商品:紙巻たばこ
(注:意味は「米国本土、特産」。)

(e8)単なる指定商品の形態を直接表示するもの

指定商品:けい酸塩、工業用にかわ
(注:訳語は「固体の」。)

(e9)指定商品の有效期限、賞味期限または役務時間を直接表示するもの

指定役務:銀行業務

(e10)役務の経営場所、商品の販売場所または地域の範囲を直接表示するもの

指定役務:飲食物の提供

(e11)商品の技術的特徴を直接表示するもの

指定商品:通話用器具
(注:ブルートゥースの意味である。)

(iii)商標法第11条第1項第3号にいう「識別力を欠くもの」は一般条項として、商標法第11条第1項第1号、第2号に規定するもの以外のものを指す。通常、一般的な社会通念では、指定商品/役務の出所を区別できない標章をいう。

例:

(a)簡単すぎる線、普通の幾何図形

(b)複雑すぎる文字、図形、数字、アルファベットまたはこれらの要素の組合せ

指定商品:菓子

(c)普通の形で表現する一つまたは二つのアルファベット

指定商品:腕時計、掛け時計、置き時計

ただし、下記のように普通の書体ではないもの、またはその他の要素と組み合わせて全体として識別力を備えているものは除く。

指定商品:ジュエリー

(d)数字を型番または貨物番号として使用する慣例のある商品において普通の形で表現するアラビア数字

指定商品:消毒剤

ただし、下記のように普通の形ではないもの、またはその他の要素と組み合わせて全体として識別力を備えているものは除く。

指定商品:工業用グリース

(e)指定商品の普通の包装、容器または装飾図案

指定商品:酒

ただし、下記のようにその他の要素と組み合わせて全体として識別力を備えているものは除く。

指定商品:ミネラルウォーター

(f)単一の彩色

単一の彩色

(g)商品または役務の特徴を表明する独創のものではない連語または文

指定商品:箱、かばん
(注:「一旦拥有,别无所求」は、「一旦保有したら、何も欲しくない」という意味があり中国の広告用語としてよく使用される。)

ただし、下記のようにその他の要素と組み合わせて全体として識別力を備えているものは除く。

指定役務:保険の引き受け

(h)当該業界または関連業界で通用する取引場所の名称、貿易用語または標識

指定役務:販売(他人のための)

指定商品:メイク道具

ただし、下記のようにその他の要素と組み合わせて全体として識別力を備えているものは除く。

指定役務:販売促進のための企画および実行の代理

(i)企業の組織形態、当該業界の名称または略称

指定商品:印刷出版物

ただし、下記のようにその他の要素と組み合わせて全体として識別力を備えているものは除く。

指定商品:音声設備

(j)単なる電話番号、住所、番地からなるもの

出願人:アモイ航空有限公司

(k)よく使われる祝福・賛美の言葉からなるもの

(注:「あけまして、おめでとう)という意味である。)

4.識別力のない標識を含む商標の審査
a.商標が識別力のない標識とその他の要素により構成される場合、その中の識別力がない標識がその指定商品または役務の特徴と一致し、かつ商業的慣例と消費習慣により関連公衆に誤認させることがないとき、関連する使用禁止条項が適用されず、識別力のある部分だけについて類似検索を行なえばよい。

指定商品:被服、靴
(注:「商务男装」は「ビジネス用紳士服」という意味である。)

b.商標が識別力のない標識とその他の要素により構成されるが、関連公衆がその他の要素や商標全体を通じて商品または役務の出所を識別しがたい場合、やはり識別力がないと見なされる。

指定商品:金属製貯蔵容器

ただし、下記のように当該その他の要素、商標全体が商品または役務の出所を識別する役割を果たせるものは除く。

指定商品:金属製収納箱

5.使用による識別力
(1)商標法第11条第2項によれば、上記2.(1)~(3)に該当する標章であっても、使用により識別力を有し、かつ容易に識別可能なものとなった場合には、商標として登録することができる。つまり、標章自体の識別力はそれほど強くないが、使用により、自己と他人の商品または役務とを区別できるようになり、識別力を有するに至った商標は、登録を受けることができる。なお、ここでいう「使用」は、実務上、「中国本土における使用」と解されている(香港、マカオにおける使用は含まれない)。

(2)このような場合、多くの使用証拠を提出して、当該商標並びに商品または役務、使用開始時期、持続の使用期間、使用地域、生産や販売の規模、広告宣伝、展示およびその他の営業活動の事実を証明しなければならない。通常、以下のような証拠が考えられる。

(a)当該商標を付けた商品、商品包装、容器、ラベル、カタログ、パンフレットなど
(b)当該商標を付けた役務のパンフレット、役務場所の看板、売り場の飾付、従業員の被服、メニュー、価格表など
(c)当該商標を付けた商品または役務の取引書類(契約書、仕切伝票、納入伝票、注文伝票、請求書、領収書または商業帳簿などを含む)
(d)新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットなどのメディアにおける広告など
(e)展覧会、展示会などにおける宣伝資料など

(3)このような商標を審査する際、審査官は当該商標に関する関連公衆の認知状況、出願人の実際の使用状況、およびその他の要素を考慮しなければならないが(審査基準第2部分)、実務においては、このような審査は厳しいため、十分な証拠を提出できなければ、通常、認められない。

      指定商品:歯磨き        指定商品:ヨーグルト      指定商品:靴クリーム

(注:上述の3例は、多くの使用証拠を提出することにより、認められた登録例である。)

6.留意事項
(1)上述のとおり、単なる普通名称などにすぎないもの、単なる商品の品質、主要原材料などの特徴を直接表示するにすぎないものは識別力が弱いと判断されるため、商標出願の際、拒絶される可能性が高いが、普通名称に他の識別力の強い要素を加えた上、出願する場合は、拒絶理由を回避できる可能性がある。また、商標は商品の特徴を直接に表示するものではなく、暗示的な表現であれば、出願してみる価値はある。

(2)使用により識別力を有するに至った商標について立証する際、当該商標の持続的、広範的、且つ多くの使用を証明しなければならない。しかも、関連業界では、当該商標を普通名称や記述的な表現などとして使用されていないことを証明する必要がある。

(3)識別力の強い商標でも、例えば、新聞、雑誌、インターネットの報道で、当該商標は普通名称の形で大量に使用されることにより、当該商標が普通名称として辞書や辞典に収録されるなど、使い方によっては識別力が弱くなり、普通名称となってしまうこともあるため、注意を要する。

(4)使用によって識別力を備えるようになった標識を登録出願するに当たっては、実際に使用している標識とおおよそ一致しなければならない。当該標識の顕著な特徴を変えてはならない。かつ実際に使用している商品または役務での使用を限定しなければならない。当該標識とその他の標識とを共同で使用する場合、当該標識をその他の標識の顕著な特徴から区別し、当該標識自身が使用によって識別力を備えるようになったかどうかを判断しなければならない。

(5)ある標識が使用によって識別力を備えるようになったかどうかの判定について、拒絶査定不服審判案件、不登録決定不服審判案件では、審理時の事実状態を基準とし、無効先行案件では原則的には係争商標登録出願時の事実状態を基準とし、審理時の事実状態を参考としなければならない。

■ソース
・中国商標法
https://www.cnipa.gov.cn/art/2019/7/30/art_95_28179.html
・中国商標法実施条例
https://www.cnipa.gov.cn/art/2015/9/14/art_96_28188.html
・中国商標審査及び審理基準 第2部分 商標の顕著な特徴の審査
・中国商標審査及び審理基準 9 使用によって顕著な特徴を備えるようになった標識の審理基準
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20170105_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20170105_1.pdf
・中国商標局ウェブサイト
http://sbj.cnipa.gov.cn/
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2021.01.25

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