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中国における特許出願の早期権利化(早期公開/早期審査/優先審査/PPH)

2021年05月20日

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■概要
(2024年6月7日訂正:
本記事のソース「中日専利審査高速路(PPH)実験プロジェクト」のURLが、リンク切れとなっていたため、修正いたしました。)

中国における特許出願の早期権利化を図るための手段としては、早期公開の請求および早期審査請求、中日専利審査高速路(PPH)制度の活用、所定技術分野の特許出願についての優先審査制度がある。具体的には以下のとおりである。
■詳細及び留意点

特段の対策を行わず審査請求を行った場合、通常、出願から第1回拒絶理由通知書(中国語「审查意见通知书」)の発行まで16~18か月の期間を要するが、早期公開を請求し、かつ、出願が公開されてからすぐPPHを請求して許可された場合は、出願から第1回拒絶理由通知書の発行までの期間は7~9か月程度となる。

(1)早期公開の請求と早期審査請求
 専利法第34条の規定によれば、特許(中国語「发明专利」)出願は、出願人の請求に基づき早期に公開される。早期公開を請求した場合、その出願は、方式審査(中国語「初步审查」)に合格すると直ちに公開手続きに入るため、出願から実体審査に入るまでの実体審査(中国語「实质审查」)段階に入る期間を1~3か月繰り上げることができる。
 ただし、特許出願の場合、権利を取得するためには実体審査を経なければならないため、特許出願が早期に公開されたとしても、審査請求がなされなければ実体審査段階に進まない。この点については、特許出願と同時に審査請求を行うことで出願が公開されると同時に実体審査に入ることができ(中国では、出願公開しなければ、実体審査に入らない)、出願から登録までの期間を短縮し、早期権利化を図ることができる。

(2)PPH制度の活用
 2011年11月より中日専利審査高速路(PPH)実験プロジェクトが開始しており、このPPH制度を活用することにより、実体審査のスピードを加速することができる。
 通常、特許出願が実体審査段階に入って10か月程度で審査官に分配され、審査官が検索、審査を行うのであるが、PPH制度を利用した場合、PPH請求が許可されると、出願が優先的に審査官に分配され、早期に審査が行われる。これにより、実体審査に入ってから第1回拒絶理由通知書の発行までの審査期間を6~8か月早めることができる。また、対応国の審査結果が分かるため、審査官が審査を行う際に他の国の審査結果を参考することによって、審査の結論が早めに出されることが期待できる。

 PPHの利用条件や必要な書類は、以下のとおりである。

(i)PPH制度を利用するための条件
(a)日本特許庁への出願に基づくPPHの場合、対応日本出願における請求項が「特許可能と判断された、または特許された」こと、PCT出願の場合、WO/ISA(国際調査見解書)、WO/IPEA(国際予備審査見解書)、および、IPRP(国際予備報告)の第VIII欄に「新規性あり・進歩性あり・産業場利用可能性あり」以外の意見が記載されていないことが条件である。また、上記見解書または報告を作成する国際調査機関または国際予備審査機関は日本特許庁に限られる。

(b)中国出願における請求項と対応日本出願またはPCT出願における特許可能と判断された、または特許された請求項と十分対応していること。十分に対応していない場合は、自発補正を利用して、対応するように補正することができる。

(c)中国出願が公開され、かつ実体審査段階に入ったもので、審査がまだ着手されていないこと。例外として、公開後、審査請求と同時にPPHを申請することも可能である。

(ii)PPH制度を利用するために必要な書類
(a)対応日本出願のすべての拒絶理由通知書等(拒絶理由、拒絶査定、審決を含む)とその英訳または中国語訳

(b)PCT出願に関するWO/ISA(国際調査見解書)、WO/IPEA(国際予備審査見解書)、IPRP(国際予備報告)とその英訳または中国語訳

(c)特許可能と判断されたまたは特許された請求項とその英訳または中国語訳

(d)登録査定とその英訳または中国語訳

(e)上記(a)の拒絶理由書および(c)の登録査定において提示したすべての引用文献の番号
(非特許文献がある場合は、その文献の書誌事項だけでなく、文献そのものも提出する必要がある。ただし、特許査定に引用文献が挙げられない場合、番号や文献の提出は必要ない)

(f)日本で特許可能と判断された請求項と中国出願の請求項とが対応していることを示す請求項対応表
 上述の関係書類の英訳または中国語訳を提出する場合、すべての書類の訳語の言語は英語または中国語のいずれか一方に統一しなければならない。

(3)優先審査制度
 中国特許庁(中国語「国家知识产权局」)の「発明専利出願優先審査管理弁法」(中国語「发明专利申请优先审查管理办法」)(2012年8月1日施行)により優先審査制度が導入された。また、2017年8月1日に同法が改正され「専利優先審査管理弁法」(中国語「专利优先审查管理办法」、以下「弁法」という。)が施行された。これにより、以下の所定技術分野の専利出願については、優先審査が認められ得る。

(i)優先審査が適用される対象(弁法第3条)
(a)省エネルギー・環境保護、次世代情報技術、生物、高付加価値装備の製造、新エネルギー、新材料、新型エネルギー自動車、スマート製造などの国の重要な技術分野に係わる専利出願
(b)各省級および設区市級人民政府が重点的に奨励している産業に関係する出願
(c)インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの分野に関わり、かつ技術または製品の更新速度が速い出願
(d)専利出願人または復審の請求人が、実施の準備を完了している、またはすでに実施している、もしくは他人がその発明創造を実施中であることを証明する証拠を有している出願
(e)同一の主題に関し、中国に出願した後、他の国または地域に出願を提出した初めに中国に提出した出願
(f)国家利益または公衆利益に重大な意義があり、優先審査が必要と認められた出願

(ii)優先審査請求の手続き(弁法第8条)
 出願人は優先審査請求の手続きを行う場合、1)優先審査請求書(本弁法第3条(e)に挙げた事由がある場合を除き、優先審査請求書には、国務院の関係部門または省級知識産権局が推薦意見を記入しなければならない。)、2)先行技術または既存設計に関する情報資料および関連する証明書を提出しなければならない。
 当事者が専利復審、無効宣告事件の優先審査請求を提出する場合は、優先審査請求書および関連の証明文書を提出しなければならない。実体審査または方式審査の手続きにおいてすでに優先審査を行った専利復審事件を除き、優先審査請求書には、国務院の関係部門または省級知識産権局が推薦意見を記入しなければならない。
 地方知識産権局、人民法院、仲裁・調停組織が無効宣告事件の優先審査請求を提出する場合は、優先審査請求書を提出するとともに理由を説明しなければならない。

(4)留意事項
 中国での特許出願の審査期間は、他の国に比べて格別に遅れているというわけではないが、早期権利化を図りたい場合の手段としては、上記の通り、早期公開の請求と早期審査請求、PPH制度の活用は有効な手段であると考えられる。
 ただし、優先権の主張を伴う出願については、優先日から18か月経過した時点で公開になる。このため、12か月の優先権主張期間ぎりぎりで出願すると、早期公開を請求しても、優先日から18か月経過した時点で公開になる場合と期間的に大差はなく、効果は顕著とは言えない。
 その他、形式的不備に起因する審査遅延を回避するため、手続き上の不備がないように注意すること、実体審査において拒絶理由通知(中国語「审查意见通知」)を受けた場合に、再度拒絶理由通知を受けないよう適切に応答すること等も、もちろん重要である。

■ソース
・中国専利法
https://www.cnipa.gov.cn/art/2020/11/23/art_97_155167.html
・専利出願優先審査管理弁法
http://www.gov.cn/gongbao/content/2017/content_5237713.htm
・中日専利審査高速路(PPH)実験プロジェクト
https://www.cnipa.gov.cn/col/col46/index.html
(中国語)
https://www.cnipa.gov.cn/2019-12/20191231083906184177.pdf
(英語)
https://www.cnipa.gov.cn/2019-12/20191231084024083243.pdf
・日本国特許庁(JPO)と中国国家知識産権局(CNIPA)との間の特許審査ハイウェイ試行プログラムに関する日本国特許庁への申請手続(仮訳)(日本語仮訳)
https://www.jpo.go.jp/e/system/patent/shinsa/soki/pph/document/guideline/china_jpo_ja.pdf
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2021.01.27

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