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(中国)開放形式の記載(例:「~を含む」)と閉鎖形式の記載(例:「~からなる」)の取り違えが誤訳となり得ることを示す例
2012年07月30日
■概要
他の要素を含まない閉鎖形式の記載(中国語の例:「由・・・組成」等)と他の要素を含む開放形式の記載(中国語の例:「含有・・・」、「具有・・・」等)を取り違えた誤訳が行われると、クレームの範囲が不必要に狭くなることになる。また、このような誤訳(開放形式の表現を閉鎖形式の表現に誤訳したこと)が発生した後、出願当初明細書中の記載から疑義なく開放形式の記載が導き出せない場合、補正により対応することも難しい。このようなクレームの範囲に影響を与える記載の翻訳については、特に注意が必要である。■詳細及び留意点
北京市高級人民法院行政判決(2011)高行終字第865号のケースでは、出願当初の第4クレーム中の「阴离子交换色谱介质选自・・・」(日本語訳「アニオン交換クロマトグラフィー媒質は・・・から選ばれる」)という記載を、「阴离子交换色谱柱具有(包含)用阳离子基团衍生的适宜的色谱介质,所述用阳离子基团衍生的适宜的色谱介质选・・・」(日本語訳「クロマトグラフィーカラムは、アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質を含み、前記アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質は・・・から選ばれる」)と補正しようとしたが、補正後の記載は、多種のクロマトグラフィー媒質の多種の組合せを含むものであり、出願当初明細書の記載から直接的に疑義なく導くことができないとして、拒絶査定を受け、審判及び裁判においてもこのような補正は認められず、拒絶が維持された。
本件特許出願の対応米国特許の第4クレームの記載は、「the anion exchange chromatography medium comprises at least one component selected from the group consisting of ・・・」(日本語の意味:「・・・からなるグループから選択された少なくとも1つの成分を含むアニオン交換クロマトグラフィー媒質」)となっており、本件において出願人が補正しようとしたクレームの方が原文の意義に近く、中国語に翻訳する際に誤訳が生じたものと考えられる。
このようなクレームの範囲に影響を与える記載の翻訳については、特に注意が必要である。
参考(北京市高級人民法院行政判決(2011)高行終字第865号より抜粋):
本院认为,本案应适用2001年7月实施的《中华人民共和国专利法》(简称《专利法》)及其相应的《专利法实施细则》进行审理。专利法第五十六条第一款规定:“发明或者实用新型专利权的保护范围以其权利要求的内容为准,说明书及附图可以用于解释权利要求。”社会公众理解的专利权保护的技术内容通常是由权利要求确定的,故即使专利权人在申请过程中明确陈述的某些技术内容在民事诉讼中可能会对确定专利的保护范围产生某种影响,但如果相应的技术特征并未明确记载在权利要求书中,也不宜直接将其作为确定专利权保护的技术内容的依据。柏尔纯公司于2008年9月22日提交了修改后的权利要求4将“具有用阳离子功能基团衍生的适宜的色谱介质”修改为“包含用阳离子功能基团衍生的适宜的色谱介质”,本领域技术人员在本领域现有技术的基础上,容易将该种描述方式理解为一种开放式的定义方式,表明除用阳离子功能基团衍生的适宜的色谱介质外,该色谱柱还可以含有权利要求中所未指出的其他成分,而该内容在原说明书中没有记载,也不能由原申请文件记载的内容直接地、毫无疑义地确定。虽然复审请求人在复审意见陈述书中明确说明“修改后的权利要求4记载了适宜的色谱介质完全选自由权利要求所列出的介质”,但该内容并未明确记载在本申请的权利要求书中,不宜直接作为确定专利技术方案或技术特征的依据。因此,复审请求人在复审意见陈述书中的上述陈述并不影响本领域技术人员将权利要求4中的“包含用阳离子功能基团衍生的适宜的色谱介质”理解为开放式的定义方式。因此,OPK公司有关权利要求4中“包含用阳离子功能基团衍生的适宜的色谱介质”应为封闭式的定义方式的上诉理由缺乏依据,本院不予支持。由于OPK公司其他有关原审判决认定本申请权利要求4符合《专利法实施细则》第四十三条第一款规定的上诉理由均是基于权利要求4中“包含用阳离子功能基团衍生的适宜的色谱介质”应为封闭式的定义方式的前提,在本院认定权利要求4中“包含用阳离子功能基团衍生的适宜的色谱介质”为开放式的权利要求后,OPK公司的其他相应上诉理由均缺乏依据,本院亦不予支持。
(日本語訳「本裁判所は、本件について、2001年7月から実施された『中華人民共和国専利法』(以下、『専利法』という)及び『専利法実施細則』を適用して審理を進めるべきと認定する。専利法第56条第1項において、『発明又は実用新案特許権の権利範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面を請求項の内容の解釈に用いることができる』と規定しているように、社会公衆は、特許権の権利範囲は通常請求項によって確定されると理解している。したがって、特許権者が出願過程において明確に主張した技術内容は、民事訴訟において特許の権利範囲を特定するのに何らかの影響を及ぼすとしても、対応する構成要件が特許請求の範囲において明確に記載されていなければ、特許権により保護される技術内容を特定するための直接的な証拠とするべきではない。OPK社は2008年9月22日、第4クレームにおける「アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質を有する」という記載を、「アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質を含む」とする補正を提出した。当業者は、同分野における公知技術に基づき、このような表現が開放形式の記載であると理解するのが一般的である。すなわち、この表現は、アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質だけではなく、同グラフィーカラムは請求項に記載されていないその他の成分も含む可能性があることを示している。しかし、同内容については当初の明細書には記載がなく、当初の出願書類に記載される内容から、直接的に、疑義なく導くこともできない。また、不服審判請求人は、不服審判の意見書において、「補正後の第4クレームは、適切なクロマトグラフィー媒質はすべてクレームに書かれている媒質から選ばれると記載した」と明確に説明したが、当該内容は同出願の特許請求の範囲においてはっきりと記載されていなかったので、特許発明或いは構成要件を特定する根拠とすることができない。したがって、不服審判請求人の不服審判の意見書における上述の説明は、当業者が第4クレームにおける「アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質を含む」という記載を開放形式として理解することに何らの影響も与えない。それゆえ、第4クレームにおける「アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質を含む」という記載が閉鎖形式であることに関するOPK社の上訴理由は、根拠が不足しているため、本裁判所は支持しない。また、本出願の第4クレームが『専利法実施細則』第43条第1項に該当するという原審判決の判断に関するOPK社のその他の上訴理由はいずれも、第4クレームにおける『アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質を含む』という記載を、閉鎖形式とすべきであるという前提に基づくものである。本裁判所が第4クレームの『アニオン官能基群に由来する適切なクロマトグラフィー媒質を含む』を開放形式の請求項と認定した以上、OPK社のその他の上訴理由はいずれも根拠が不足しているため、本裁判所は支持しない。」)
参考3(別の特許に関する中国特許庁無効審決第13270号より抜粋):
合议组认为:1)本专利权利要求包括了开放式和封闭式两组技术方案,对于以“含有……”来限定的开放式的技术方案而言,其所要求保护的技术方案本身就包括了除组分A和组分B之外的其它组分・・・;对于以“由……组成”来限定的封闭式的技术方案而言,・・・;
(日本語訳「合議体は以下のように判断した。1)本特許のクレームには、開放形式と閉鎖形式の二通りの発明が含まれ、『含有~(~を含む)』によって規定される開放形式の発明については、保護を求めるその発明自体が、成分Aと成分B以外の成分を含んでいる。また、『由~组成(~からなる」』によって規定される閉鎖形式の発明については、・・・」)
【留意事項】
他の要素を含まない閉鎖形式の記載と他の要素を含む開放形式の記載を取り違えた誤訳が行われると、クレームの範囲が不必要に狭くなることになる。また、このような誤訳が発生した後、出願当初明細書中の記載から開形式の開示がなされていることが疑義なく導き出せない場合、中間応答時の補正によって対応することも難しいこともあり得る。このようなクレームの範囲に影響を与える記載の翻訳については、特に注意が必要である。
■ソース
中国特許出願第200510003908.9号(公開番号CN1743340A、対応米国特許第5808011号)中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2008年12月9日付第21328号
北京市高級人民法院行政判決(2011)高行終字第865号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=822974
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 古田敦浩■協力
北京林達劉知識産権代理事務所■本文書の作成時期
2012.06.22