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インドにおける特許制度のまとめ-実体編

2020年05月19日

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■概要
インドにおける特許制度の運用について、その実体面に関する法令、出願実務を関連記事とともにまとめて紹介する。
■詳細及び留意点

1. 特許制度の特徴

 

(1)特許出願を行う権利

特許出願を行う権利は真正かつ最初の発明者にある(特許法6条(1)(a))。真正かつ最初の発明者とは発明を自身で行った自然人である。特許出願を行う権利は譲渡可能な権利である。特許出願を行う権利の譲受人が特許出願を行う場合、この権利が適切に譲渡されたことを示す証拠をインド特許意匠商標総局(the Office of the Controller General of Patents, Designs & Trade Marks (CGPDTM)、以下「インド特許庁」)に提出する必要がある(特許法7条(2))。

 

(2)不特許事由

特許を受けることができる発明の主題は、製品または方法に係るものであって、特許法3条および4条に掲げられたものに該当しないことが求められる。特許法3条は「特許を受けられない発明(Inventions not patentable)」(不特許事由)を15項目列挙している。特許法4条は原子力に関する発明に特許を付与しないことを規定している。

 

(3)外国出願許可

特許法は、外国へ特許出願を行おうとする「インドに居住する者」に対して、外国出願許可(FFL:Foreign Filing License)の取得を義務付けている。インドに居住する者は、原則として外国出願許可を取得しなければインド国外で特許出願を行い、またはさせてはならない(特許法39条(1))。また、当該発明が国防目的または原子力に関連すると判断した場合、インド特許庁は、中央政府の事前承認なしに外国出願許可を付与できない(同第39条(2))。発明者および出願人の一人でもインドに居住する者であれば本法は適用される。ただし、保護を求める出願がインド国外居住者によりインド以外の国において最初に出願された発明に関しては本法は適用しない(同第39条(3))。

外国出願許可の規定に違反した場合、対応するインド特許出願は放棄されたものとみなされ、付与された特許権は無効理由を有する(特許法64条(1)(n))。また、外国出願許可の規定に違反した者は、禁固もしくは罰金に処され、またはこれらが併科される(特許法118条)。

 

(4)関連外国出願に関する情報提供義務

特許法は、インド特許出願と同内容の発明を外国に出願している場合、その関連外国出願の情報をインド特許庁に提供することを、特許出願人に義務付けている(特許法8条)。

 

(5)拒絶理由解消期間

最初の審査報告(拒絶理由通知)(FER:First Examination Report)が通知されたら、出願人は所定の期間内(拒絶理由解消期間)にすべての拒絶理由を解消するような応答書(意見書、補正書)を提出し、特許出願を特許権付与可能な状態にしなければならない。応答書の提出がなければ、特許出願は放棄されたものとみなされる。拒絶理由解消期間は、FERの発送日から6か月である(特許法21条、規則24B条(5))。

 

(6)聴聞

インドにおいて聴聞(Hearing)は、特許審査手続を構成する重要な手続の1つである。出願人から聴聞の申請があれば、インド特許庁は出願人に不利な決定を行う前に出願人に聴聞を受ける機会を与えなければならない。インド特許庁は職権で聴聞を設定することもできる。

 

(7)補正の制限

インドにおいて明細書などの補正に対して厳しい制限がある。特許の権利範囲を定めるクレームの範囲を拡大する補正または発明の技術的特徴を変更するような補正は認められていない。

 

(8)異議申立制度

瑕疵ある特許権付与を防止するための仕組みとして、付与前異議申立制度(特許法25条(1))と、付与後異議申立制度(特許法25条(2))が規定されている。付与前異議申立制度においては、出願公開後、特許権付与前であれば、何人も、特許出願を拒絶すべきことを陳情することができる。付与後異議申立制度においては、特許権付与の公告後1年の期間が満了するまでの間、利害関係人は、特許権付与に対する異議を申し立てることができる。

 

(9)特許発明の国内実施報告義務

特許法は、特許発明の商業的実施状況を定期的に報告することを特許権者および実施権者に義務付けている(特許法146条)。特許権者および実施権者に対してインドにおける特許発明の適正な実施を促すための制度である。インド特許庁は、特許権者および実施権者から提供された特許発明の実施状況に関する情報を公開することができる(特許法146条(3))。実施状況の報告を怠ると罰金の対象となり、実施状況の虚偽報告を行った者には罰金刑もしくは禁固刑、またはこれらが併科される(特許法122条)。

 

(10)強制実施権制度

特許発明に関する公衆の合理的な需要が充足されていないなど、特許権付与の目的に反する状況にある場合、利害関係人の請求により、インド特許庁はこの利害関係人に対して強制実施権を付与することができる(特許法84条など)。また、強制実施権を付与してから2年が経過しても公衆の需要が充足されていない状況が継続している場合、インド特許庁は特許権を取消すことができる。

 

関連記事:「インドにおける特許出願制度概要」(2019.6.13)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17416/

 

関連記事:「インドにおけるスタートアップおよび知的財産をめぐる概況と政策」(2019.3.21)

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関連記事:「インドにおける特許権の共有と共同出願」(2018.7.19)

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関連記事:「インドにおける医薬用途発明の保護制度」(2018.3.22)

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関連記事:「インドにおける特許の実施報告制度」(2015.3.31)

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関連記事:「インドにおける先使用権制度」(2014.12.15)

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関連記事:「インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限」(2019.9.26)

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2. 発明の保護対象および特許を受けるための要件

 

特許権による保護対象の発明は、特許要件を満たす必要がある。特許法は、実体的特許要件として次の2つの要件を求めている。第1の要件:「発明」(Invention)であること、第2の要件:「特許性」(Patentability)を有すること。

 

第1の要件の「発明」要件を満たすためには、「発明」であること、「進歩性」および「産業上利用可能」を有することが要求される。「発明」とは、進歩性を含み、かつ産業上利用可能な、新規の製品または方法をいう(特許法2条(1)(j))。「進歩性」とは、現存の知識と比較して技術的前進を含み、もしくは 経済的意義を有するか、または両者を有し、当該発明を当該技術の当業者にとって非自明とする発明の特徴をいう(特許法2条(1)(ja))。「産業上利用可能」とは、発明が産業において製造または使用することができることをいう(特許法2条(1)(ac))。

 

第2の要件の「特許性」要件を満たすためには、非技術的発明、他の法律で保護すべき発明、公序良俗に反する発明などの「不特許事由」に該当しないことが要件である(特許法3条、4条)。不特許事由とは、特許出願に係る発明が、インドにおいて特許を受けられない発明(Inventions not patentable)とされる事由をいう。不特許事由は、表1に掲げる事由をいい、これらの事由に該当する発明は、特許法上の発明に該当としない旨を規定している。

 

表1
根拠条文 不特許事由の簡単な説明
3条(a) 取るに足らない発明
3条(b) 公序良俗に反する発明
3条(c) 科学的原理の単なる発見
3条(d) 既知の物質についての新たな形態にかかる発明
3条(e) 物質の成分の単なる混合にかかる発明
3条(f) 既知の装置の単なる配置もしくは再配置または複製にかかる発明
3条(h) 農業または園芸についての方法にかかる発明
3条(i) 内科的または診断的な方法にかかる発明
3条(j) 植物、動物、種子、変種および種の全部または一部にかかる発明
3条(k) コンピュータプログラムそれ自体およびビジネス方法にかかる発明
3条(l) 文学および芸術作品にかかる発明
3条(m) 精神的行為をなすための方法にかかる発明
3条(n) 情報の提示に関する発明
3条(o) 集積回路の回路配置に関する発明(半導体集積回路配置法により保護される)
3条(p) 事実上、古来の知識である発明
4条 原子力に関する発明

 

関連記事:「インドにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.1.10)

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関連記事:「インドの特許関連の法律、規則、審査マニュアル」(2019.2.14)

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関連記事:「インド特許庁の特許審査体制」(2018.7.19)

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関連記事:「インドにおける特許審査および口頭審理」(2018.4.17)

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関連記事:「インドにおける微生物寄託に係る実務」(2018.4.5)

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関連記事:「インドにおける特許新規性喪失の例外」(2017.6.1)

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関連記事:「インドにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務」(2017.5.25)

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関連記事:「インドにおける特許出願の補正の制限」(2016.5.31)

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関連記事:「インドにおいて特許を受けることができない発明」(2016.4.13)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11081/

 

 

3. 職務発明の取り扱い

 

インド特許法には、日本特許法35条に当たる職務発明規定はない。出願権の帰属、対価などは雇用主と従業員の民法上の契約による。

 

関連記事:「インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限」(2016.4.8)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10548/

 

 

4. 特許権の存続期間

 

(1)特許権の存続期間

特許権の存続期間は出願日から20年である(特許法53条(1))。インド特許法には存続期間の延長制度は設けられていない。特許権の存続期間の起算日は特許出願の種類によって異なる。通常の特許出願(特許法7条)および条約出願(特許法135条)に係る特許権の存続期間はインドにおける実際の出願日から20年、国内移行した国際出願に係る特許権の存続期間は国際出願日から20年(特許法53条(1)ただし書き)、分割出願に係る特許権の存続期間は親出願の出願日から20年である(特許法16条(3))。追加特許権の存続期間は、主発明特許の存続期間と同一である(特許法55条(1))である。

 

(2)特許権の存続期間の延長制度

インド特許法には存続期間の延長制度は設けられていない。

 

(3)審査の遅延による存続期間の延長補償

インド特許法には審査の遅延による存続期間の延長補償制度は設けられていない。

 

(4)特許権の更新

特許権を維持するためには所定の納付期間内に更新手数料を納付しなければならない(特許法53条(2))。更新手数料の納付は登録簿に記録される(規則93)。ただし、追加特許権(特許法54条)については更新手数料の納付は不要である(特許法55条(2))。更新手数料の納付期間を徒過した場合であっても、追加手数料を添えて期間延長の請求を行うことにより、納付期間を最長6か月まで延長することができ、更新手数料を追納することができる(特許法53条(2)、142条(4)、規則80(1A)、第1附則)。

 

関連記事:「インドにおける産業財産権権利化費用」(2019.8.8)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/17617/

■ソース
安田恵,バパット・ヴィニット『インド特許実務ハンドブック』発明推進協会(2018)
■本文書の作成者
株式会社サンガムIP
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2019.08.20

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