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シンガポールにおける特許審査迅速化の方法
2019年10月17日
■概要
(本記事は、2023/2/14に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33773/
シンガポール特許出願、またはシンガポールに国内移行したPCT出願において、特許を早期に取得するためにはいくつかの方法がある。これらの方法について2014年2月14日に施行された改正特許法により導入された3種類の審査オプションに基づき説明する。
■詳細及び留意点
審査オプション(a)シンガポール知的財産局での調査および審査
審査オプション(a)において、出願人は、「出願日もしくは優先日から13か月以内にシンガポール知的財産局(Intellectual Property Office of Singapore:IPOS)での調査を請求し、36か月以内にIPOSでの審査を請求する」方法か、「出願日もしくは優先日から36か月以内にIPOSでの調査と審査を同時に請求する」方法のいずれかを選択することができる。
審査オプション(a)において特許を早期に取得するための1つの方法は、特許審査ハイウェイ(PPH)により審査手続きを迅速化することである。
PPHは特許庁間で調査および審査結果を共有し、出願人が双方の国において、迅速かつ効率的な特許取得を可能にするプログラムである。
2014年11月1日よりIPOSは、グローバル特許審査ハイウェイ(Global Patent Prosecution Highway:GPPH)ネットワークに参加し、GPPH試行プログラムの参加特許庁となっている。GPPH試行プログラムに基づき、IPOSにおける特許出願に対する審査促進の請求を、その他のGPPH参加特許庁のいずれかにより発行された特許調査および審査結果または特許協力条約(PCT)に基づく国際調査や審査結果に依拠することにより行うことができる。
2019年7月25日時点において、IPOSは、中国国家知識産権局(China National Intellectual Property Administration:CNIPA)、メキシコ工業所有権局(Instituto mexicano de la propiedad industrial:IMPI)、および欧州特許庁(European Patent Office:EPO)とPPHを実施または試行しており、米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office:USPTO)、ドイツ特許商標庁(Das Deutsche Patent- und Markenamt:DPMA)および韓国特許庁(Korean Intellectual Property Office:KIPO)を含む22の知財庁とグローバルPPH(Global Patent Prosecution Highway:GPPH)を実施している。
一般的に、GPPHまたはPPH請求は、EPOとのPPH協定を例外として、他のGPPH参加特許庁または個々のPPH参加特許庁による特許調査および審査結果をIPOSに対して提出することが要求される。その結果において、認可可能あるいは特許可能と判断された少なくとも一つの請求項が存在する必要がある。出願されたシンガポール特許出願におけるすべての請求項は、他のGPPH参加特許庁または個々のPPH参加特許庁による特許調査および審査結果において認可可能あるいは特許可能と判断された一つ以上の請求項に十分に対応するかもしくは十分に対応するよう補正されなければならない。ここで請求項は、翻訳および請求項の形式による差異を考慮して、同一または類似の範囲を有する請求項である場合、もしくはその範囲が狭い場合には、当該請求項は請求項の対応要求事項を満たすものと見なされる。
なお認可可能あるいは特許可能な請求項と当該シンガポール特許出願の請求項の関連性を示す請求項の対応表が提出されなければならず、GPPHまたはPPH請求が提出されたシンガポール特許出願については審査が既に開始されていてはならない。
審査オプション(b)補充審査請求*1
審査オプション(b)において、出願人は、出願日もしくは優先日から54か月以内に、対応外国出願またはPCT出願の調査および実体審査の最終結果に依拠すること、または対応出願における特許付与証の認証謄本に依拠することにより、補充審査を請求する。請求とともに、出願人は、IPOSに対して所定書類を提出する必要があり、この書類には、対応外国出願またはPCT出願の調査および実体審査の最終結果、または対応外国出願における特許付与証の認証謄本が含まれる。
審査オプション(b)とその他2つのオプションとの主たる差異は、審査官が審査にあたり、発明の主題に特許性があるかないかは考慮するが、新規性、進歩性および産業上の利用可能性について請求項を審査せず、これにより特許付与を促進するという点である。したがって、特許を認められるためには、出願人は、対応外国出願またはPCT出願の調査および実体審査の最終結果に、新規性、進歩性および産業上の利用可能性に関する異議がないことを確実にする必要がある。
対応外国出願における最終結果または特許付与証の認証謄本に加えて、現在のシンガポール出願における各請求項が、新規性、進歩性および産業上の利用可能性について審査された対応外国出願における少なくとも一つの請求項とどのように関連しているかを示す表をIPOSに提出しなければならない。また所定文書として提出された非英語文献の英語訳も提出する必要がある。
請求項に関しては、2つの請求項が同一である、または後の出願の請求項における限定が、先の出願の請求項における限定と同一またはその表現においてのみ先の出願の請求項における限定と異なるがその内容が異ならない場合に、請求項は当該他の請求項と関連することとなる。また2つ以上の請求項が1つの請求項に関連する場合もある。出願人は、請求項の関連要件とPPHに基づく請求項の対応要件とのわずかな差に留意する必要がある。
対応外国出願は、オーストラリア、カナダおよび欧州特許庁(EPO)(英語で出願されている場合)、日本、ニュージーランド、大韓民国、英国または米国における出願であって、出願されたシンガポール特許出願の発明と同一または実質的に同一の発明に関するもので、かつシンガポール特許出願における優先権主張の基礎となった出願、当該シンガポール出願を基礎として優先権主張した出願、またはシンガポール特許出願における優先権主張と同一の優先権主張をする出願である。対応出願はシンガポールの国内段階に移行したPCT出願と同一のPCT出願(優先権主張の対象ではない)から派生した、オーストラリア、カナダおよび欧州特許庁(EPO)(英語で出願されている場合)、日本、ニュージーランド、大韓民国、英国または米国の国内段階に移行した出願が含まれる。
*1補充審査は、2017年10月30日付けで改正された特許法により、2020年1月1日以降の出願では、利用できなくなる(シンガポール特許法第29条(11A)、およびシンガポール特許規則43(4))。
審査オプション(c)対応外国出願またはPCT出願の調査結果に基づく審査
審査オプション(c)において、出願人は、出願日もしくは優先権日から36か月以内に対応出願または対応PCT出願の調査結果に依拠して、IPOSに審査を請求する。
審査オプション(c)に基づき、対応PCT出願の国際調査報告書の写しまたは対応出願において発行された調査報告書の写しをIPOSに提出することにより審査を迅速化することができる。その後、審査官は審査を行うに際して、提出された国際調査報告書または対応出願において発行された調査報告書を参照する。この審査オプション(c)では、さらなる調査報告書が発行されることはなく、意見通知書または最終審査報告書のみが審査官により発行される。
国際調査報告書の写しまたは対応外国出願において発行された調査報告書の写しには、知的財産局により提出を指示された場合のみ、依拠した調査報告書において引用されたすべての文献の写し、依拠した調査報告書で引用された非英語文献それぞれの特許ファミリーに対する引用リスト、依拠した調査報告書が英語で書かれていない場合は当該調査報告書の証明付き翻訳文、および提出したその他すべての非英語文献の証明付き翻訳文(Verified Translation)が添付されなければならない。
審査オプション(a)で議論されたGPPHおよびPPHは、要求される文書をIPOSに提出することにより、審査オプション(c)においても請求することができる。
■ソース
・シンガポール知的財産局ウェブサイトhttp://www.ipos.gov.sg ・シンガポール知的財産局「Accelerated Programmes」
https://www.ipos.gov.sg/protecting-your-ideas/patent/application-process/accelerated-programmes ・シンガポール法務省ウェブサイト
http://www.mlaw.gov.sg ・シンガポール特許法改正に伴う外国ルート(修正実体審査)の廃止について
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/sg/foreign_route.html
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2019.06.24