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マレーシアにおける修正実体審査

2019年10月21日

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■概要
 マレーシア特許出願における修正実体審査(MSE)について紹介する。同一の発明について、米国や日本等で既に特許権を取得している場合には、通常の実体審査に代えて修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求を行った場合、進歩性等の要件については審査されない。
 さらに、マレーシア知的財産公社(MyIPO)と日本特許庁との間で2014年10月1日から試行が開始され現在も延長されている特許審査ハイウェイ(PPH)についても紹介し、PPHと修正実体審査との違いについても説明する。
■詳細及び留意点

1. 修正実体審査(Modified Substantive Examination:MSE)

 マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のForm(Form5A)の提出により行う。

 修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

 修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない(規則27A(3))。

 a.所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与され

  た特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許または

  その他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。

 b.所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の

  権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、

  マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に

  同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

 ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。

 つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

 日本国特許庁(JPO)の審査結果に基づきマレーシアにおいてMSEを請求する場合には、JPOが認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

 修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない(特許法第29条A(6))。認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である(規則27B(2))。修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や認証書類が入手できない場合に、所定のForm(Form5B)を提出することで行うことができる。

 猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる(規則27B(3))。

 

2. 通常の実体審査請求と修正実体審査との比較

 

通常の実体審査請求

修正実体審査

(1)特許庁費用

単位:RM(リンギット)

RM1100(約USD275)

RM640(約USD160)

(2)請求時に提出すべき書類

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、

 

a)オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報(規則27(3)(a))

 

b)オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号(規則27(3)(b))

 

c)オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27(3)(c))

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))

(3)補正要否

補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。

マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

 外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

 ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の身体についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3. 特許審査ハイウェイ(PPH)

 マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年10月1日に試行期間が3年間延長されている。新しい試行期間は2020年9月30日で終了予定となるが、必要に応じて延長される予定である。

 PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

 マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

 a.PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、

  優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。

  b.対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが

  一つ以上あること。

 c.PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正された

  クレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応

  していること。

 d.PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。

 e.PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

 PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

 

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

 引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

 

(d)クレーム対応表

 PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

 

 上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

 最近の傾向では、PPH申請により、請求から3~4か月で審査報告書が発行される。

 

4. 修正実体審査とPPHとの比較

 

修正実体審査

PPH

請求または申請の

基礎とする対応国

(その条件)

オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合)

日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)

提出書類の条件

外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。

対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。

審査の体制

出願日の順に審査される(審査請求順ではない)ため審査までの待ち時間がPPHよりも長い。

PPH申請を専門に扱う審査官のグループがあるため修正実体審査よりも早期に権利化が可能。

審査促進の効果

請求から9か月~1年で審査報告書

請求から3~4か月で審査報告書

■ソース
マレーシア特許法第29A条
マレーシア特許規則27、27A、27B
マレーシア特許制度における修正実体審査(MSE)手続きの簡素化について
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/my/asia-mmse_tetuzuki.html (掲載確認日:2019.1.23)
特許審査ハイウェイについて
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/pph/index.html (掲載確認日:2019.1.23)
■本文書の作成者
創英国際特許法律事務所
■協力
Henry Goh & Co Sdn Bhd(マレーシア法律事務所)
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2019.1.23

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