国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 出願実務 特許・実用新案 中国における特許・実用新案の実用性要件

アジア / 出願実務


中国における特許・実用新案の実用性要件

2012年10月09日

  • アジア
  • 出願実務
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
中国専利法第22条第1項の規定により、権利付与される発明と実用新案は実用性を有しなければならない。
■詳細及び留意点

(1)中国の実用性について

 「実用性(中国語「实用性」)」とは、発明又は実用新案が製造又は使用することが可能であることが必須で、且つ積極的な効果が生ずるものをいう(専利法第22条第4項)。具体的には、出願するものが製品であれば、この製品は必ず産業上製造可能で、且つ技術課題を解決することができるものであることが必須である。もしクレームのカテゴリが方法であれば、この方法は必ず産業上で使用可能であり、且つ技術的な問題を解決することができるものでなければならない。

 「積極的な効果が生ずる」とは、当業者が発明又は実用新案の生じうる経済的・技術的・社会的な効果を予想できることをいう。これらの効果は積極的で有益的なものでなければならない(審査指南第2部分第5章2)。

 

(2)実用性の審査原則(審査指南第2部分第5章3.1)

  • 中国では、審査官が実用性を審査する際に、請求項だけではなく、出願日に提出された明細書(中国語「说明书」)、図面(中国語「附图」)と請求項(中国語「权利要求」)に記載された全ての技術内容を根拠にすべきである。
  • 実用性は、発明または実用新案がどのように創造されたのか、または既に実施されているかどうかとは無関係である。

 

(3)実用性を具備していない例(審査指南第2部分第5章3.2)

  • 再現性のないもの
  • 自然法則に反するもの
  • 唯一無二の自然条件を利用した製品
  • 人体又は動物に対する非治療目的の外科手術方法(*)
  • 極限状態に於ける人体又は動物の生理的パラメータの測定方法(**)
  • 積極的な効果がないもの

 

(4)化学分野において、以下のように、工業上実用性を有しないものには、特許権は付与されない。(審査指南第2部分第10章7.)

  • 調理方法(***)
  • 医薬の処方

 

(5)生物技術分野において発明が再現できず、以下のように、工業上実用性を有しない場合、特許権は付与されない。(審査指南第2部分第10章9.4.3)

  • 自然界から特定の微生物をスクリーニングする方法(例えば、ある地域のある土壌から特定の微生物をスクリーニングする場合、同一の条件下であっても環境などは絶えず変化することから、同種の微生物を同じ土壌から再度スクリーニングできるとは限らず、発明が再現できないことから、一般的に自然界から特定の微生物をスクリーニングする方法は工業上実用性を有さないとされる。ただし、出願人がこのような方法を反復実施可能なことを示す十分な証拠を出願人が提出した場合はその限りではない。)
  • 物理、化学的方法を通じた人工誘導変化による新規微生物の製造方法(物理、化学的方法によるDNA変異の場合、同じ条件、方法によっても同じ新規微生物を繰り返し取得することは困難であり、発明を再現できないことから一般的にこのような方法は実用性がないとされる。ただし、一定の条件下で同じ変異が起こり、求める性質の微生物がもたらされることを示す十分な証拠を提出した場合はその限りではない。

 

【留意事項】

 専利法第22条第4項の「実用性」要件は、日本における「産業上利用可能性」・「自然法則利用性」に相当すると考えられるところ、日本においてはあらゆる場合において積極的なプラスの効果が必要とされていないのに対し、中国専利法では、「実用性」要件に「積極的な効果」が必要と規定されている。しかし、明らかに無益で社会の需要から離脱する発明又は実用新案が実用性を有しない(審査指南第2部分第5章3.2.6)とされており、「積極的な効果」に対してのハードルは高くない(中国においても、「実用性」の判断では主に「産業上利用可能性」について考慮される)。そのため、通常、何らかの有利な効果があれば実用性なしとは判断されず、既存のものよりも効果が低い場合でも、実用性なしとはされず、進歩性なしとされるのが一般的である。

 実用性なしと指摘される可能性があるのは、発明の効果が主に環境汚染、資源浪費などのマイナスな効果であって、プラスの要素が一切ない場合である。その例としては、どのような用途に用いられるかが分からず、製造すれば資源の浪費にしかならない新規化学物質が挙げられ、用途説明の全くない新規物質発明は、実用性なしと指摘される可能性がある。なお、明細書に基づき発明が実施できない場合、発明が元々実用性を備えていないことが原因である場合(日本でいう発明未完成に該当する)と、明細書の記載不備で記載要件の実施可能性要件を満たしていないことが原因である場合とがあるが、実務上、実用性を備えていないとの拒絶理由が出されることは稀である。

 

 また、日本特許法第29条第1項柱書で規定される「産業上の利用可能性」の概念の中には、専利法第25条で規定される不特許事由の内容が含まれている。例えば、ビジネス方法は、場合によって日本では特許が付与され得るが、中国では、専利法第25条第1項第2号「知的活動の法則及び方法」に属するとして特許は原則として付与されない。中国専利法における不特許事由は、日本特許法に比べて厳しいため、中国への特許出願のうち、発明が専利法の保護対象に属さないとの拒絶理由は多く出されているので注意を要する。

 

(*) 「非治療目的の外科手術方法」とは、生きているヒトまたは動物を実施の対象とするものをいう(例:美容のための外科手術)。(なお、日本において産業上利用可能性により特許を受けることができないとされている外科手術方法などは専利法第25条第1項第3号により別途特許の対象から除外されている。)

(**) 中国では、一般的な人体の測定方法も、診断方法に該当するか、または生きているヒトまたは動物を実施の対象とする方法であるとして、産業上の利用可能性を有しないと判断され、特許を受けることができないことが多い。

(***) 重複実施することができ機械的に量産できる産業上利用可能な調理方法は、日本と同様に特許を受けることができる。

■ソース
・中国専利法
・審査指南
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
特許庁総務部企画調査課 古田敦浩
■協力
三協国際特許事務所 中国専利代理人 梁煕艶
■本文書の作成時期

2012.08.03

■関連キーワード