アジア / 出願実務
韓国における不正な目的をもって出願された模倣商標への対策
2019年05月16日
■概要
韓国内又は外国の需要者間に特定人の商品を表示するものであると認識されている商標を模倣出願して不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を加えようとする等の不当な目的を持って使用する商標は、登録を受けることができない(商標法第34条第1項第13号)。つまり、外国の需要者間に特定人の商品であると認識されている程度の商標であれば、韓国ではそれら商標の模倣出願は登録を受けることができない。このような模倣出願および登録が発見された場合、商標法に従い、情報提供、異議申立、無効審判請求などをすることができる。
■詳細及び留意点
(1) 関連条文
模倣出願の防止と関連する条項は、商標法第34条第1項第13号と商標法第34条第1項第14号である。
商標法第34条第1項第13号「国内又は外国の需要者間に特定人の商品を表示するものであると認識されている商標(地理的表示を除く)と同一又は類似の商標であって不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を加えようとする等の不正な目的を持って使用する商標」は登録を受けることができないと規定している。
また、商標法第34条第1項第14号では「国内又は外国の需要者間に特定地域の商品を表示するものであると認識されている地理的表示と同一又は類似の商標であって、不当な利益を得ようとするか、その地理的表示の正当な使用者に損害を加えようとする等の不正な目的を持って使用する商標」は、登録を受けることができないと規定している。
以下、この条文の解釈を記載する。
(i) 「需要者」
必ずしも複数国家の需要者であることを要せず、1か国で認識されていれば足る。
(ii) 「特定人の商品を表示するもの」
その商標の使用者が具体的に誰であるかまで知らなくても、ある特定の出所があることを認識されていればよい(商標審査基準第5部第13章)。
(iii) 「不正な目的」
本号で規定する「不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を加えようとする等の不正な目的」は次のとおりである。
(a) 外国の正当な商標権者が韓国内市場に進入することを阻止しようとするか、または代理店契約締結を強制する目的で、商標権者がまだ登録していない商標と同一または類似の商標を出願した場合
(b) 著名商標と同一または類似の商標であって、他人の商品や営業と混同を起こすおそれはないとしても、著名商標の出所表示機能を希釈化させる目的で出願した場合
(c) 創作性が認められる他人の商標を同一または極めて類似に模倣して出願した場合
(d) その他、他人の先使用商標の営業上の信用は顧客吸引力等に便乗して不当な利益を得る目的で出願した場合
(iv)「不正な目的」判断時の留意事項
(a) 審査官は職権でインターネット検索等によって出願商標が本号に該当するのか否かを調査し、その結果を根拠として拒絶理由を通知することができる。
(b) 本号は、商品が非類似であるか、経済的牽連関係がない場合にも適用が可能であり、先使用商標の創作性が非常に高い場合、先使用商標と出願商標間の同一・類似性が非常に高い場合、先使用商標が周知・著名な場合、出願人と特定人間の事前交渉があって出願人が特定人の商標を事前に認知していたと思われる場合等においては、出願商標と先使用商標の指定商品間の牽連関係を広く見て、不正な目的の有無を判断することができる。
(c) 指定商品の一部について不正な目的があると判断して拒絶理由を通知した場合、出願人が先使用商標と経済的牽連関係がある商品を削除補正しても、不正な目的は治癒されないものとみなす。
(v) 判断時点
上本号を適用するにおいて、他人の商標が国内外の需要者らに特定人の商品を表示するものであると認識されている商標に該当するか否かは、商標登録出願をした時を基準として判断する。
なお、地理的名称に関しても正当な地理的表示使用権者ではない第三者が商標登録を受けて正当な地理的表示使用権者の地理的表示使用を排斥したり、高額の商標権移転料を要求する等の弊害を防止したりするために、これと関連した模倣出願は登録を受けることができないように実務上運用している。
(2) 模倣出願および登録に対する対策
(i) 出願段階
商標出願後15日程度でKIPRIS(http://eng.kipris.or.kr/enghome/main.jsp)に公開される。査定が下りるまでの間はいつでも、誰でも「情報提供」を行うことができる(商標法第49条参照)ので、積極的に情報提供を行い登録されるべきでない出願が登録されるのを防ぐ。また、出願公告日から2か月以内であれば誰でも「異議申立」をすることができる(商標法第60~66条、71条参照)。もし時間が不足であれば、まずは期間内に異議申立をし、異議申立の理由は異議申立期間経過後30日以内に補正をすれば良い。
(ii)登録段階
(a)無効審判
模倣出願が登録された後に発見されれば、登録無効事由(商標法第34条第1項第13号、同第14号、同第21号)を検討して、無効審判請求をすることができる。請求人は利害関係人でなければならない(商標法第117、118、122条参照)。無効審判は情報提供または異議申立に比べ手続きが複雑で相当な費用を要し、また当事者系に該当するため、お互いに攻防をするようになり口頭弁論(1回)をする可能性が高い。相手方の主張を明確に把握し、対応をしなければならない。
なお、韓国内外における周知・著名性については、例えば、周知性が高ければ不正な目的であると認められやすく、逆に、不正な目的であれば周知性がそれほど高くなくても認められることもある。どちらにしても、証拠資料はできる限り多数提出するのが望ましい。
(b)不使用取消審判(商標法第119条第1項第3号)
登録商標について最近3年間の使用事実があるかを調査し、使用事実がない場合には、不使用取消審判請求をする。(本データバンク内コンテンツ「韓国における商標の不使用取消審判制度」参照)
(c)不正使用取消審判(商標法第119条第1項第1号および第2号)
商標権者が故意で指定商品に登録商標と類似の商標を使用するか指定商品と類似の商品に登録商標又はこれと類似の商標を使用することにより、需要者をして商品の品質の誤認または他人の業務に関連した商品との混同を生じさせた場合等には、不正使用取消審判請求をする。
(d) その他
先使用権が主張できるかどうか(商標法第99条)を検討したり、登録者から商標権を譲り受けたり、使用権を設定してもらうかどうかについて検討する。
(3) 模倣出願として商標登録を受けることができない商標(商標法条文)
・商標法第34条第1項第9号:
他人の商品を表示するものであると需要者らに広く認識されている商標(地理的表示は除く)と同一・類似した商標として、その他人の商品と同一・類似した商品に使用する商標
・商標法第34条第1項第10号:
特定地域の商品を表示するものであると需要者らに広く認識されている他人の地理的表示と同一・類似した商標として、その地理的表示を使用する商品と同一であると認識されている商品に使用する商標
・商標法第34条第1項第11号:
需要者らに顕著に認識されている他人の商品若しくは営業と混同を起こさせるかその識別力または名声を損傷させるおそれがある商標
・商標法第34条第1項第13号:
国内又は外国の需要者らに特定人の商品を表示するものであると認識されている商標(地理的表示は除く)と同一・類似した商標として、不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を負わそうとする等、不正な目的で使用する商標
・商標法第34条第1項第14号:
国内または外国の需要者らに特定地域の商品を表示するものであると認識されている地理的表示と同一・類似した商標として、不当な利益を得ようとするか、その地理的表示の正当な使用者に損害を負わそうとする等、不正な目的で使用する商標
・商標法第34条第1項第20号:
同業・雇用等の契約関係若しくは業務上の取引関係またはその他の関係を通じて他人が使用するか使用を準備中の商標であることを知りながらその商標と同一・類似した商標を同一・類似した商品に登録出願した商標
・商標法第34条第1項第21号:
条約当事国に登録された商標と同一・類似した商標であって、その登録された商標に関する権利を有した者との同業・雇用等の契約関係若しくは業務上取引関係又はその他の関係にあるかあった者がその商標に関する権利を有した者の同意を受けずにその商標の指定商品と同一・類似した商品を指定商品として登録出願した商標
【留意事項】
商標出願は、出願後15日程度で、韓国特許情報検索サービス(www.kipris.or.kr)で出願情報が公開されて検索することができるので、これを活用する等して常に情報収集に努めることが望ましい。
■ソース
・韓国商標法http://www.choipat.com/menu31.php?id=26&category=0&keyword ・韓国商標審査基準
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/kr/ip/law/trademark2018.pdf
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2018.07.25