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(中国)図面のみに開示された特徴を請求項に追加したことが新規事項の追加に該当すると判断され、特許権の一部が無効とされた事例
2012年07月30日
■概要
出願人は、分割出願の中間処理で、親出願の明細書(図面)に基づいて、図面の開示から読み取れる特徴を請求項に追加したところ、当該請求項の追加は原明細書及び特許請求の範囲に記載されている範囲を超え、新規事項の追加に該当すると判断された。■詳細及び留意点
出願人は分割出願において、明細書の添付図6、図26の開示を根拠に、「第二の壁(手前の回路基板が取り付けられている壁(45、55、93))の幅は前記ケース(長方体の容器(41,51,90)の他の壁の幅より狭い」という特徴をクレームする請求項4を追加した。
無効審判請求人は、「請求項4の特徴は原明細書及び特許請求の範囲に記載されている範囲を超えた」こと等を理由に、無効審判を請求した。
審判部(中国語「专利复审委员会」)、審決取消訴訟の第一審を専属管轄する北京市第一中級人民法院及び第二審を専属管轄する北京市高級人民法院は、ともに、請求項4における「第二の壁の幅は前記ケースの他の壁の幅より狭い」という特徴は、原明細書及び特許請求の範囲に記載しておらず、また、原明細書及び特許請求の範囲から疑義なく確定できるものでもないため、新規事項の追加に該当するとの判断を下した。
参考(北京市高級人民法院行政判決(2009)高行終字第327号より抜粋):
本专利权利要求书4中“所述第二壁的宽度比所述壳体的其他壁窄”,即没有记载在原权利要求书及说明书中,也不能由原权利要求书及说明书毫无疑义地得出,不符合专利法第三十三条的规定。・・・。本案中,本专利说明书附图并非标准的机械制图,其所体现的仅仅是本专利技术方案的结构及位置关系,该附图并不能毫无疑义地确定“所述第二壁的宽度比所述壳体的其他壁窄”。
(日本語訳「本特許権の請求項4中の『第二の壁の幅は前記ケースの他の壁の幅より狭い』は、原特許請求の範囲及び明細書中に記載がなく、原特許請求の範囲及び明細書から疑義なく確定できるものでもないため、専利法第33条の規定を満たさない。本件において、本特許明細書の添付図面は標準的な機械設計図ではなく、それは本特許の技術的手段の構造及び位置関係を示す図面にすぎない。本添付図面から『第二の壁の幅は前記ケースの他の壁の幅より狭い』と疑義なく確定できない。」)
付記:
本件は最高人民法院が公表した2011年中国法院知識産権司法保護50典型案件の一つである。本事案において主たる争点は、今回取り上げた請求項4が新規事項の追加に該当するかではなく、独立請求項1の補正(「半導体メモリ装置」を「メモリ装置」に補正)が新規事項の追加に該当するかがであった。最高人民法院は(2010)知行字第53号行政裁定書を通じて、新規事項の判断基準を示している。
【留意事項】
このような請求項における記載の追加は、明細書に明示的な記載がなくても、図面の開示から読み取れる場合、他の国の実務運用であれば認められる可能性はある。しかし、中国の権利形成過程においては、新規事項の運用基準が厳しいため、図面のみに開示された特徴については保護を求めることは難しい。図面から当然に読み取れることであっても、権利保護を求めるならば明細書に文字で記述しておくべきである。
■ソース
中国特許第00131800.4号(公告番号CN1154568C)中国特許庁審判部無効審決第11291号
北京市第一中級人民法院行政判決(2008)一中行初字第1030号
北京市高級人民法院行政判決(2009)高行終字第327号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=312681
■本文書の作成者
三協国際特許事務所 中国専利代理人 梁煕艶一般財団法人比較法研究センター 菊本千秋
特許庁総務部企画調査課 古田敦浩
■本文書の作成時期
2012.06.26