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中国への特許出願における誤訳訂正の機会
2012年08月28日
■概要
(本記事は、2024/11/14に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/40164/
外国から中国への特許出願は、パリ優先権を主張して出願するルート(以下、パリルート出願と称する)とPCT出願を中国国内段階に移行して出願するルート(以下、PCTルート出願と称する)がある。外国語明細書を中国語明細書に翻訳する際に生じた誤訳については、PCTルート出願の場合、PCT出願書類を根拠に誤訳訂正はできるが、パリルート出願の場合、中国特許庁へ提出した中国語明細書のみが根拠となるため、基礎出願の外国語明細書に正しい記載があっても、当該外国語明細書に基づく誤訳訂正は認められない。
■詳細及び留意点
(1)PCTルート出願
PCTルート出願については、出願人は提出した明細書、クレーム及び図面の中国語翻訳文に誤訳があると発見した場合、専利法実施細則(以下「細則」という)第113条に基づき、PCT出願書類を補正の根拠として誤訳訂正ができる。
(i)誤訳訂正可能な時期
主として、細則第113条に定める以下の2の場合に誤訳訂正ができる。
(a)PCT出願が中国国内段階に移行してから国内公表公報の発行が準備できるまでの間(実務上は、移行日からおよそ3か月以内を目安としている)
(b)発明特許出願が実体審査に入った旨の通知を受領した日から3か月以内
実務上は、上記に加えて、次の3の場合にも誤訳訂正は可能である。
(c)拒絶理由通知において審査官に誤訳があると指摘された場合の拒絶理由通知に応答するとき
(d)出願人が拒絶理由通知を検討する際に自ら誤訳があると発見した場合であって、その拒絶理由通知に応答するとき。ただし、これについては、細則第113条には明確な規定がないため、誤訳訂正が認められるかは審査官の裁量に委ねられる。
(e)PCTルート出願の分割出願に関し、出願人が実体審査において、親出願の誤訳によって分割出願にも誤訳があると自ら発見した場合、PCT出願書類を補正の根拠として、誤訳訂正手続を取ることができる。
(ii)誤訳訂正可能な範囲
PCT出願書類(クレーム、明細書、図面)の記載通り
(iii)手続
書面により(誤訳訂正専用のフォームがある)誤訳訂正の請求を行い、誤訳箇所を訂正したクレーム又は明細書を提出するとともに、官庁手数料の納付が必要となる。
(2)パリルート出願
パリルート出願では、中国語明細書が基礎となるので、第一国出願書類に基づく誤訳訂正はできないが、自発補正のチャンスを利用して、中国語明細書に記載の範囲内なら(つまり、新規事項の追加に該当しない範囲内なら)訂正することは可能である。自発補正の手続と同様、意見陳述に誤訳訂正の理由を明記して補正書を提出すればよく、官庁手数料は発生しない。中国において自発補正は次の場合に可能である。
(a)実体審査請求時(細則第51条第1項)
(b)実体審査移行通知から3か月以内(細則第51条第1項)
なお、拒絶理由通知応答のチャンスを利用して訂正することも可能であるが、その場合、出願人は拒絶理由通知に指摘された欠陥に対し補正を行わなければならない(細則第51条第3項)。審査官に指摘されていない内容の補正も認められるが、当該補正を認めるか否かは審査官の裁量となっている(中国専利審査指南第2部分第8章5.2.1.3)。
【留意事項】
PCTルート出願の場合、出願から登録までの間に誤訳訂正の機会はあるが、一旦出願が登録公告されると、公衆利益保護の観点から誤訳訂正はできなくなることに留意する必要がある(細則第117条)。
また、パリルート出願の場合も自発補正の機会を利用した訂正は可能であるが、「誤訳訂正」ではなく、あくまで原明細書記載範囲を超えない程度の補正が可能である点に留意する必要がある。
■ソース
・中国専利法実施細則・中国専利審査指南
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所三協国際特許事務所 中国専利代理人 梁熙艶
■協力
一般財団法人比較法研究センター 菊本千秋■本文書の作成時期
2012.08.09