国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 出願実務 | 審決例・判例 特許・実用新案 (台湾)において引用文献の誤訳が直接的な争点でないとして裁判所が斟酌しなかった事例

アジア / 出願実務 | 審決例・判例


(台湾)において引用文献の誤訳が直接的な争点でないとして裁判所が斟酌しなかった事例

2012年07月30日

  • アジア
  • 出願実務
  • 審決例・判例
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
本件は、原告(無効審判請求人)が無効審判において主張した際に、引用文献3を誤訳し、元の意味を曲解していたと特許権者が述べたにもかかわらず、それは本件の直接的な争点ではないとして、裁判所がこれを斟酌する必要はないと判断したものである。本件の主な争点の一つは、特許庁が許可した特許権者の訂正は、従属項8の技術的特徴を独立項1に書き入れたものであり、従属項8と独立項1の技術的特徴は重複しているため許可すべきではないという原告の主張であったが、裁判所はこの原告の主張を認めなかった。
■詳細及び留意点

  本件で言及した誤訳とは、原告(無効審判請求人)が引用文献3で引用した用語が不適切であったと特許権者が陳述したものであり、本件特許明細書における誤訳ではない。そして、裁判所は、引用文献2、3、4、5及び引用文献1の補足証拠は従属項についての説明であり、引用文献6の「接口模塊(インターフェイスモジュール)」から独立項の要素である「匯流排介面模組(USBインターフェイスモジュール)」を容易に思い付くことを裏付けることはできないとして、誤訳に対する見方を示さなかった。

 

  また、本件で言う訂正は、従属項8の技術的特徴を独立項1に書き入れるもので、請求する技術的特徴を、明細書の中における当該技術的特徴そのものの詳しい説明に置き換えたものであり、特許請求範囲の縮減に属する。ゆえに専利法第64条第2項の規定を適用できるとしている。

 

なお、裁判所が直接的な争点でないとして取り上げなかった点であるが、「スライド」又は「slide」のような同音・同綴異義語については誤訳の原因となり得るため、翻訳において特に注意する必要がある。例えば、本件原告の主張中にあるように、「optical slide module」又は「光学スライドモジュール」のような語には、「光學滑動模組」(日本語訳「光学滑動モジュール」)又は「光學載片模組」(日本語訳「光学薄片モジュール」)の複数の用語が対応し得るため、前後の文脈からどちらの訳語が適切かを判断しなければならない。

 

参考(台北高等行政法院判決の被告抗弁及び判決理由より抜粋):

2.原告於其舉發理由中,將引證3 中之「optical slide-module」誤譯作「光學滑動模組」(究其本意應作「光學載片模組」),及其下一句譯作「利用滑動色彩」(「滑動」不可能有色彩,載片才會有)。

・・・

六、從而,依原告所提出之證據不足證明系爭案不具進步性。綜上所述,被告所為舉發不成立之處分,並無不法,訴願決定予以維持,亦無不合。至於,其他引證案如就引證2 、引證3 、引證4 、引證5 及引證1 補充證據而言,是針對各附屬項而為說明,並非針對「USB 介面模組」是否為「接口模塊」之實施例為引證,自非本案爭執重心所在,該部分之認定與本案具備進步性不生影響,亦此敘明。

(日本語訳「2.原告はその提訴理由において、引用文献3中の『optical slide-module』を『光学滑動モジュール』(その本来の意味は『光学薄片モジュール』と考えられる)と誤訳されており、その下の語句は『滑動の色彩を利用し』(『滑動』に色彩があることはあり得ないが、薄片ならばあり得る)とされていると述べている。

・・・

六、したがって、原告提出の証拠は本件特許が進歩性を有しないと証明するに足らない。以上のことをまとめれば、被告の提訴を不成立とした処分に法的な誤りはなく、それを維持することもまた妥当である。すなわち、引用文献2、3、4、5及び引用文献1の補足証拠のようなその他の引用文献は特に各従属項についての説明であり、そして『USB介面模組(USBインターフェイスモジュール)』について『接口模塊(インターフェイスモジュールの意)」の要素は引用文献とはならず、本件の主な争点にないことから、この部分の認定及び係争特許が進歩性を有していることに影響が生じることはない。」

 

【留意事項】

  誤訳の可能性がある引用文献3は、従属項の進歩性の争議に対するものであり、独立項の争議の重点ではなかったため、本件の独立項の進歩性が認められている以上、裁判所は引用文献3の誤訳を斟酌しなかった。訂正に対し裁判所は、従属項の技術的特徴を独立項に書き入れ、特許請求範囲を減縮させる実務を認めている。

 なお、「スライド」又は「slide」のような同音・同綴異義語については誤訳の原因となり得るため、翻訳において特に注意する必要がある。

■ソース
台北高等行政法院判決97年度(2008年)訴第1697号
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 古田敦浩
聖島国際特許法律事務所
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2012.07.20

■関連キーワード