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シンガポールにおける特許新規性喪失の例外

2017年06月22日

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■概要
(本記事は、2019/9/5に更新しています。)
 URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17678/

シンガポールにおいて発明が新規とみなされるのは、絶対的新規性要件を満たしている場合だけである。ただし、シンガポールの法律が規定する猶予期間内であれば、出願の提出日より前の限られた種類の一般開示は、発明の新規性評価の際に無視される。全体的に見て、限られた種類の一般開示のみを新規性評価の際に無視することを認めるシンガポールのアプローチは、日本のアプローチと似ている。主な相違点は、シンガポールが12か月の猶予期間を定めているのに対し、日本の猶予期間は6か月と短いことである。
■詳細及び留意点

1. 背景

シンガポールにおいて発明が新規とみなされるのは、シンガポール特許法(第221章)(以下、「特許法」)の第14条(2)項に下記のように定義されている「技術水準」の一部を構成しない場合である。

「書面もしくは口頭説明により、使用により、または他のあらゆる方法により(シンガポールまたは他のいずれかの場所で)、当該発明の優先日より前のあらゆる時点において、一般に利用可能となった……全ての事項を含む」

一方、特許法第14条(4)項は、シンガポールにおいて発明の新規性評価の際に無視される特定の種類の開示に関して、12か月の猶予期間を規定している。この12か月の猶予期間は、優先日(該当する場合)ではなく、シンガポール特許出願の提出日から遡及することに注意すべきである。

2. 新規性評価から除外される開示

2-1. 不法な開示または秘密漏洩による開示

特許法第14条(4)項(a)および(b)は本質的に、あらゆる者によるあらゆる不法または不正な開示は新規性評価から除外されると規定している。日本の特許法に基づく要件と同様に、この例外規定に依拠するには、開示が不法または不正なものであった(即ち、不法な方法もしくは秘密漏洩により情報が入手された、または秘密漏洩により情報が開示された)という証拠を示す必要がある。シンガポールの法律は(日本の特許法の要件とは異なり)出願の提出後すぐにかかる証拠を提出することを義務づけていないが、シンガポール知的財産庁(Intellectual Property Office of Singapore : IPOS)は先行開示が実際に不法または不正なものであったと納得できるように(宣誓供述書その他の証拠に基づく)証明を要求する場合がある。したがって、発明者または出願人は、発明に関する情報または文書に「秘密」の表示が確実に付されるように手段を講じることが望ましい。さらに重要な点として、かかる情報または文書(「秘密情報」)が限定された目的のためだけに提供されるものであって、他の目的への当該秘密情報の使用は不正使用となることを、当該秘密情報の受領者に確実に認識させるための手段を講じるべきである。

2-2. 国際博覧会での開示

特許法第14条(4)項(c)において、国際博覧会で発明者または出願人により行われたあらゆる開示は新規性評価の際に無視されると規定されている。「国際博覧会」の範囲は、特許法第2条(1)項において、下記のように狭義に定義されている。

 

「国際博覧会条約の条件に該当する、または当該条約の後続条約もしくは代替条約の条件に該当する、公式または公認の国際博覧会」

この例外規定を利用するには、シンガポール出願の提出時にIPOSに対し、当該発明が国際博覧会において先行開示されたことを届け出る必要がある。その後、かかる先行開示の裏づけ証拠書類をIPOSに提出しなければならない。実際問題として、この例外規定に依拠するのは難しい。なぜなら「国際博覧会」の狭義の定義に該当する博覧会は極めて少ないためである。博覧会国際事務局のウェブサイト(http://www.bie-paris.org/site/en)において、「国際博覧会」として指定された博覧会のリストが掲載されている。

2-3. 学会で発明について説明する発明者による開示、またはその結果として行われた開示

特許法第14条(4)項(d)において、学会で発明者により行われたあらゆる開示、または発明者の同意を得て行われたあらゆる開示は、新規性評価の際に無視されると規定されている。特許法の解釈上、「学会」とは次のものを含む:

「シンガポールまたは他のあらゆる場所で設立されたあらゆる会員制組織または団体であって、その主な目的がいずれかの学問または科学技術の振興であるもの」

「学会」という用語は特許法において幅広く定義されているものの、IPOSの特許出願審査ガイドライン(2016年5月版)(第3章、第N節、i項の3.77)に従い、IPOSは「学会」とみなされるものを判断する際は慎重な態度を取るだろう。この例外規定に依拠するには、かかる開示が行われた会員制組織または団体が確かに「学会」であると、IPOSを納得させる必要がある。IPOSは、先行開示が確かに「学会」で行われたと納得できるように(宣誓供述書その他の証拠に基づく)証明を要求する場合がある。この例外規定を利用する際、IPOSから要求された場合に証明を提出すれば良い。シンガポール出願の提出時にIPOSに対し当該発明が学会において先行開示されたことを届け出る必要はない。

  1. 結論

シンガポールにおいて発明の新規性評価の際に無視される開示の特定の種類は、日本の特許法に規定されているものと比べて、かなり限定されている。それゆえ、シンガポールは12か月という長い猶予期間(日本の場合は6か月)を規定しているものの、シンガポールにおける例外要件を満たすことが困難な場合もある。しかし、今後はこれらの要件が緩和される見通しである。シンガポール政府は2017年2月現在、12か月の猶予期間内に行われた(直接的か間接的かを問わず)発明者自身によるあらゆる一般開示を新規性評価の際に無視できるようにするため、特許法の改正案を検討中である。

■ソース
・ シンガポール特許法(第221章)
http://statutes.agc.gov.sg/aol/search/display/view.w3p;page=0;query=CompId%3A95d803a7-9dcb-4733-ad98-d3609f202142%20ValidTime%3A20170123000000%20TransactionTime%3A20170123000000;rec=0;resUrl=http%3A%2F%2Fstatutes.agc.gov.sg%2Faol%2Fbrowse%2FtitleResults.w3p%3Bletter%3DP%3Btype%3DactsCur ・ シンガポール知的財産庁の特許出願審査ガイドライン(2016年5月版)
https://www.ipos.gov.sg/Portals/0/about%20IP/Patents/For%20Release%20Examination%20Guidelines%20for%20Patent%20Applications%20at%20IPOS%20(ver%20May%202016)-2.pdf)
・ シンガポール特許制度を改定するために議会に提出された法改正
https://www.mlaw.gov.sg/content/minlaw/en/news/press-releases/legislative-changes-introduced-to-update-singapores-patent-regim.html
■本文書の作成者
Rodyk IP (シンガポール特許事務所)
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期

2017.02.28

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