欧州 / 出願実務 | 審判・訴訟実務
ロシアにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム解釈のプラクティス
2017年05月25日
■概要
ロシアでは特許庁規則において、化学物質およびバイオテクノロジーに関する発明については、その生産方法によって特徴づけて記載することが認められている。なお、上記以外の技術分野においては、このような規定は定められていない。しかし、上記技術分野以外の実用新案権について、引例との製造条件の差異が考慮されたという判例が存在する。今後、ロシア特許庁が「プロダクト・バイ・プロセス」形式のクレームを扱うためのガイドラインを定める必要があると考えられる。■詳細及び留意点
ロシア連邦民法第4法典では、特定のクレーム形式に関する特異的な要件と考えられる内容が記載されていない。1375条では、明細書は、当該発明の本質を十分詳細に開示し、かつ、クレームは発明の本質的特徴を明確に表現するものであると定めている。
発明に関するロシア特許庁規則には、プロダクト・バイ・プロセスのクレーム形式に特異的な要件と同様の要件を包含する規定が記載されている。規則パラグラフ38では、不定構造の化学成分は、特に、物理化学上その他の特徴により、特徴付けられると定めている。さらに、生産方法により、この成分を他と区別できるものである場合、その生産方法の特徴により、特徴づけられると定められている。規則パラグラフ41では、微生物菌株、細胞株または微生物共同体に関連した発明を、その培養条件により特徴づけることを認めている。上記のようにこれら要件は、化学およびバイオテクノロジー上の解決手段という狭い範囲に限られている。同規則では、プロダクト・バイ・プロセス形式のクレームに関する要件について、これ以上の記載はない。
したがって、ロシア特許庁による審査では、上記パラグラフ38および41の規則を考慮したうえで、「プロダクト・バイ・プロセス」タイプのクレームに関する一般的なアプローチが適用されることが予想される。ロシア特許庁では、特別な手続に関する審査官向けの内部ガイドラインである審査マニュアルを定期的に更新している。しかし、これまでのマニュアルにおいて、このタイプのクレームについては一切触れられていない。
また、「プロダクト・バイ・プロセス」を含むクレームの扱いについて注目すべきは、事件番号第SIP-196/2014号における知的財産裁判所のN. Rassomagina判事の見解である。本件では、「空気除菌装置のケース」に関する実用新案権が無効であると認めたロシア特許庁審判部(特許紛争評議会)の審決が、知財裁判所へ控訴された。当該実用新案権のクレームでは、反射内部スクリーンが真空蒸着により製造されるという特徴を含んでおり、一方、先行技術文献ではアルミニウムの非真空蒸着を開示していた。蒸着の方法における差異は、本実用新案権の特徴のひとつではあるものの、権利化された実用新案の作用に影響を与えないとして、ロシア特許庁は、この文献は当該実用新案権の新規性を明らかに喪失させるものであるとみなした。「プロダクト・バイ・プロセス」形式を、化学分野やバイオテクノロジー分野ではなく、機械分野に適用することは、当時のロシア特許庁において想定していないことであったのである。その後、控訴審において、知的財産裁判所は、本件特許が無効であるとのロシア特許庁の結論に同意した。しかし、N. Rassomagina判事は、次の実用新案権者の主張を、ロシア特許庁も知的財産裁判所も見直していない、という自身の意見を表明した。その主張とは、金属の単なる蒸着と異なり、真空蒸着では装置の新しい要素を生み出すことが可能となること、すなわち、真空蒸着では、非真空の金属蒸着後よりも高い反射率を有する新規の反射面を得ることができるというものであった。
後に、知的財産裁判所最高会議は、N. Rassomagina判事の意見に同意し、実用新案権者のさらなる控訴に基づき、ロシア特許庁の無効審決を取り消した。本実用新案権は有効に存続している。
この判例は、「プロダクト・バイ・プロセス」形式のクレームの認識および審査に関するロシア特許庁のサポートが十分でないことを示すものである。「プロダクト・バイ・プロセス」形式のクレームは、特許権取得段階において、特別なアプローチを必要とする。特許庁の一般的なアプローチとしては、化学製品またはバイオテクノロジー製品に関するものを除いて、このタイプのクレームに例外的な対応をしていない。しかし、ロシア特許庁が、技術的観点および手続的観点の双方から、広範な意味において「プロダクト・バイ・プロセス」クレームを扱うためのロシア特許庁ガイドラインを詳細に定める必要性があることが、上記プラクティスにより示されていることは明らかである。
■ソース
ロシア連邦民法第4法典ロシア特許庁規則
■本文書の作成者
GORODISSKY & PARTNERS(ロシア特許事務所)■協力
日本技術貿易株式会社■本文書の作成時期
2017.02.04