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ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務

2017年05月23日

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■概要
ベトナムにおいてはプロダクト・バイ・プロセス・クレーム形式は一部の特別な状況においてのみ認められている。ベトナム国家知的財産庁(英語「NOIP」)は、このクレーム形式の特許性を判断する際に「物同一説」を採用している。一方、訴訟が生じた場合の侵害分析においては、最新の法規の示唆に基づき、管轄執行機関は「製法限定説」を適用すると考えられる。
■詳細及び留意点

1.プロダクト・バイ・プロセス・クレーム形式で記載可能な発明

 

 2010年3月31日にベトナム国家知的財産庁により発行された、特許審査ガイドライン(以下、「ガイドライン」)に定められているように、極めて複雑な構造を有する生産物(英語「product」、以下同様)(ポリマーなど)または様々な化合物を含む生産物(抽出物、画分(英語「fraction」)など)といった、出願の時点でその構造が分からない生産物の場合には、当該生産物をその製造方法により特定することができる(例えば、製法Yにより得られた生産物X)。

 

 ただし、その製法の技術的特徴が、当該クレームに記載の生産物と先行技術の他の生産物とを比較または区別する上で十分なものでなければならない(第5.7.2f項)。したがって、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに記載された生産物がその生産物自体の特性(構造、組成、各成分の量など)により定義可能であると、審査官が判断する場合、審査官はプロダクト・バイ・プロセス形式によるクレームの記載について拒絶理由を通知し、生産物自体の特性によりクレームを定義づけるよう出願人に要求する。

 

2.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの実体審査における解釈

 

 ベトナムにおけるこのクレーム形式の特許性評価では、当該クレームに記載された製法によって示唆される生産物の特異的な構造および/または成分を考慮に入れて、生産物自体のみが審査される(すなわち、物同一説)。

 

 具体的には、ガイドラインの規定に従い、このクレーム形式の新規性を評価する際に、審査官は当該クレームに記載された製造方法の特徴によって特異的な構造および/または成分が生産物にもたらされるかどうかを検討しなければならない。その製法により必然的に先行技術の生産物とは異なる構造および/または成分の生産物が生み出されると、当業者が結論づけることができれば、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームは新規性の要件を満たしている。

 

 対照的に、当該クレームに記載された製法により製造された生産物が、先行技術の生産物と同じ構造および/または成分を有する場合には、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームに記載された生産物は、たとえ異なる製法により製造されるとしても、新規性を欠いているとみなされる。ただし、当該クレームに記載された製法が、異なる構造および/または成分を有する生産物を生み出すこと、または異なる機能を有し、それにより構造および/または成分に変化をもたらすことが可能な生産物を生み出すことを、出願人が立証できる場合を除く(第22.2.2.5(3)項)。

 

具体例

 

 ガイドライン(第22.2.2.5(3)項)では、製法Xにより製造されるガラスに関する発明であって、先行技術に同じガラスを製造する製法Yが既に開示されているという具体的な事例が取り上げられている。この事例が示しているのは、これら2つの製法で製造されたガラスが同じ構造、形状および/または材料を有する場合には、当該発明は新規ではないということである。

 

 対照的に、製法Xが先行技術にはまだ開示されていない特定の温度での温置段階(英語「incubation step」)を含んでおり、この温置温度のおかげで、製法Xにより製造された当該クレームのガラスが、製法Yにより製造されたガラスと比べて増大した亀裂抵抗および破損抵抗を有する場合には、当該発明は新規性を有する。なぜなら亀裂抵抗および破損抵抗の増大は、先行技術のガラスと比べて当該クレームのガラスが異なる製造方法のおかげで異なる内部構造および微細構造を有することを示唆しているためである。

 

3.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの侵害判断における解釈

 

 ベトナムにおいてプロダクト・バイ・プロセス・クレームに対する侵害の可能性を評価する場合、当該クレームに記載された製法は限定事項として考慮されると考えられる(すなわち、製法限定説)。

 

3-1.背景

 

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの侵害分析については、このクレーム形式の技術的範囲または権利行使に関する明示的な規定は、ベトナム知的財産法や関連法規には存在しない。また、ベトナムにおいてこの問題に関する判例法はこれまで存在しなかったため、審決も存在しない。それゆえ、訴訟が生じた場合、この特殊なクレーム形式に関する侵害評価は、産業財産分野における行政違反行為の処罰に関する2013年8月29日付けの政令No. 99/2013/ND-CPの複数の条項について詳述し、指針を示す、科学技術省の2015年6月26日付けの最新の通達No.11/2015/TT-BKHCNに基づいて行われると考えられる。

 

3-2.通達No. 11/2015/TT-BKHCNに基づく解釈

 

 この通達の規定によれば、当該クレームに記載された全ての本質的な技術的特徴が同一または均等の状態で被疑侵害品に存在する場合、その被疑侵害品は当該クレームにより保護される生産物と「同一」または「均等」とみなされる。その一方で、被疑侵害品が当該クレームに記載された少なくとも1つの本質的な技術的特徴を含んでいない場合、その被疑侵害品は「同一ではない」または「均等ではない」とみなされる。

 

 つまり、双方の技術的特徴は、(a)当該クレームに記載された他の特徴と同じ性質、同じ目的、同じ目的達成方法を有し、同じ関係にある場合には「同一」とみなされ、さらに(b)類似性または互換性のある性質、実質上同一の目的、および実質上同一の目的達成方法を有する場合は「均等」とみなされる(規則11)。

 

 それゆえ、製造方法の特徴により定義されているプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合、被疑侵害品は、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームに記載された製法と比較して同一性、類似性または互換性のある性質、同一または実質上同一の目的、および同一または実質上同一の目的達成方法を有する製法により製造される場合に限り、プロダクト・バイ・プロセス形式の特許クレームを侵害していると解釈することが可能である。

■ソース
・ベトナム特許審査ガイドライン(2010年3月31日発行)
・ベトナム科学技術省による通達No.11/2015/TT-BKHCN(2015年6月26日付)
・ベトナム政令No. 99/2013/ND-CP(2013年8月29日付)
■本文書の作成者
Vision & Associates (ベトナム特許事務所)
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期

2017.01.24

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