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シンガポールにおける登録特許の取消手続と特許出願に対する第三者情報提供について
2016年06月07日
■概要
シンガポールでは、登録特許の取り消しを求める手続として、取消制度が設けられている。一方、シンガポール特許庁に係属中の特許出願に対する異議申立制度、特許付与後の異議申立制度、第三者情報提供制度は設けられていない。第三者は、係属中の特許出願に対して非公式の情報提供を行うことができるが、情報提供された資料を審査に採用するか否かはシンガポール特許庁の裁量に委ねられている。■詳細及び留意点
【詳細】
シンガポール特許の有効性について、取消手続によって、特許の登録後に争うことができる。一方、特許登録局(以下、シンガポール特許庁と記載)に係属中の特許出願に対する異議申立制度はない。また、公式な第三者情報提供の制度も設けられていない。
以下、シンガポール特許出願または登録特許の有効性を争うための手続について説明する。
1.登録特許についての取消手続
シンガポール特許法では、登録官(Registrar、特許庁長官に相当)は、シンガポール特許庁に提出された申請に基づき、取消理由に該当する特許を取り消すことができる(シンガポール特許法第80条)。この取消手続は、何人も申請することができる。したがって、第三者は、登録特許の有効性に関して、取消手続によって争うことができる。
なお、(1)侵害訴訟における無効の抗弁により、(2)非侵害の確認判決を求める訴訟において、(3)特許侵害を理由とした脅迫に対する訴訟(シンガポール特許法第77条)における請求または反訴の請求として、特許の取消を求める場合は、シンガポール高等裁判所に取消手続を提起することができる(シンガポール特許法第82条)。
1-1.シンガポール特許庁による取消手続における取消理由
シンガポール特許庁の登録官は、以下の理由のいずれかに基づき、特許を取り消す権限を有する(シンガポール特許法第80条)。
(a)特許の新規性または進歩性が欠如している、または、特許を産業上利用することができない
(b)特許が、特許を受ける権原のない者に付与された
(c)特許明細書が、当業者が実施することができるように発明を明確かつ完全に開示していない
(d)特許明細書に新規事項が追加されている
(e)特許明細書に、認められるべきでなかった補正または訂正が行われた
(f)特許が不正に取得された、もしくは、不実表示、所定の重要な情報の不開示または不正確な開示があった
(g)特許が、同一の優先日を有し、同一の者またはその権原承継人により出願された、同一の発明に関する2以上の特許の1である
1-2.シンガポール特許庁による取消手続の流れ
取消手続の流れ(出典:シンガポール知的財産庁ウェブサイト)
(1)取消申請
取消申請人が特許の取消を申請。取消申請に際して、取消申請人は理由陳述書を提出する。理由陳述書には、取消理由、関連事実、を記載する。
(2)答弁書
特許権者は、取消申請に対して、答弁書を提出することができる。特許権者から答弁書が提出されない場合、取消手続の審理は、特許権者が不参加の形式で進められる。
(2a)補正案
特許権者は、答弁書の提出と同時に、明細書(クレームを含む)の補正案を提出することができる。
(2b)補正案の公開
特許権者による補正案提出から2か月で、補正案は公開される。
(2c)補正に対する異議
何人も、補正案の公開から2か月以内に、補正案に対して異議を申し立てることができる。
(3)事件管理協議(1回目)
答弁書が提出された後に、両当事者の参加の下、事件管理協議が実施され、取消手続の進行に関して協議する。
(4)取消申請人による証拠提出
取消申請人は、特許権者の答弁書および補正案(ある場合)を受領してから3ヶ月以内に、取消を裏付ける証拠を提出することができる。
(5)特許権者による証拠提出
取消申請人が提出した証拠の受領から3ヶ月以内に、特許権者は、特許の有効性を裏付ける証拠を提出することができる。
(6)取消申請人による追加証拠の提出
特許権者が提出した証拠の受領から3ヶ月以内に、取消申請人は、特許権者が提出した証拠に対する応答として、追加証拠を提出することができる。
(7)事件管理協議(2回目)
取消申請人による追加証拠の提出期間が終了した後1か月で、シンガポール特許庁の登録官は、2回目の事件管理協議を開催する。事件管理協議において、登録官は、取消申請人に対して再審査を請求するよう指示することができる。登録官による再審査の請求指示から2か月以内に、取消申請人は、シンガポール特許庁に再審査の請求を行わなければならない。登録官による再審査の請求指示に対して取消申請人が再審査の請求を行わなかった場合、取消申請は放棄されたものとみなされる。
(8)再審査
取消申請人によって再審査が請求された場合、シンガポール特許庁の審査官による再審査が行われる。
再審査では、両当事者の主張および明細書に対して行われた補正が考慮される。再審査報告書には、特許が取り消されるべきか否かに関する勧告が記載される。
(9)事件管理協議(3回目)
登録官は、再審査報告書の結論を考慮して、さらなる事件管理協議を開催することができる。さらなる事件管理協議において、登録官は、両当事者の代理人に対して、口頭審理の前に追加書面を提出するよう命令することができる。
(10)口頭審理
口頭審理において、両当事者の主張を聴取した後、登録官は決定を下す。
(11)決定
登録官は、口頭審理中に決定を両当事者に伝える。口頭審理中の決定が留保された場合、登録官は、決定理由を記載した書面を作成し、両当事者に通知する。
(12)控訴
シンガポール特許庁での取消手続の決定を不服とする当事者は、登録官の決定が通知されてから28日以内にシンガポール高等裁判所に控訴することができる。
2.特許出願に対する第三者情報提供
シンガポール特許庁に直接出願された特許出願、またはシンガポールに国内移行された後のPCT出願には、第三者が情報提供を行うための公式な手続はない。ただし、情報提供を希望する第三者は、シンガポール特許庁に書面で情報を提供することにより、非公式の情報提供を行うことができる。情報提供された資料を審査に採用するか否かはシンガポール特許庁の裁量に委ねられている。
PCT出願の国際段階において第三者情報提供がなされた場合、この第三者情報提供による情報は、PCT出願がシンガポールに国内移行された際に、WIPOの国際事務局からシンガポール特許庁に送付される。シンガポール特許庁の審査官が、特許出願の審査における新規性および進歩性を検討する際に、PCTの国際段階で提出された第三者情報提供の情報を考慮するか否かは裁量に委ねられている。
■本文書の作成者
Rodyk & Davidson LLP(シンガポール法律事務所)■協力
日本技術貿易株式会社■本文書の作成時期
2015.02.15