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ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明【その2】
2016年05月23日
■概要
ニュージーランドでは、2013年ニュージーランド特許法(「新法」)の第11条において、コンピュータプログラムは、特許を受けることができない旨規定されている。また、ビジネス方法に関しては明確な規定はないが、特許を受けることができない可能性が高い。■詳細及び留意点
【詳細】
ニュージーランドにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明について、全2回のシリーズで紹介する。(その2)
2-7.コンピュータプログラム
コンピュータプログラムそのものは、発明あるいは「新規製造の態様」(manner of new manufacture:方法・製造物・製造方法などを含む広い概念)ではないとされているため、新法第11条に基づき、特許を受けることはできない。ただし、組込型コンピュータプログラムに関する発明、コンピュータプログラムを利用した発明、コンピュータプログラムを含む発明については、特許付与の対象になる可能性がある。
しかし、特許付与の対象になるためには、発明の実際の寄与がコンピュータの外部に存在することが必要であり、コンピュータ自体に影響を与える発明である場合には、処理されているデータの種類または使用されている特定のアプリケーションに依存しないことが必要である。発明の実際の寄与を判断するに際して、長官または裁判所は、以下を考慮しなければならない。
- 実体的なクレームの内容、および実体的なクレームの内容による実際の寄与(クレームの記述形式や出願人が主張する寄与ではない)
- 解決または対処すべき課題または問題は何か
- クレームに関連する実際の製品や方法が、どのように課題や問題を解決しているか
- 解決または対処すべき課題または問題を解決することによる利点や利益
- 長官または裁判所が考慮すべきと判断するその他事項
ニュージーランド知的財産庁が発行した特許審査基準は、コンピュータプログラムに関連した発明が特許を受けることができるか否かを判断するための5つの指針について言及している。この5つの指針は、AT&T Knowledge Ventures LP, Re [2009] EWHC 343 (Pat)において、以下のように定められている。
- クレームされた技術的効果が、コンピュータ外部で実施されるプロセスに技術的効果を有するか否か
- クレームされた技術的効果が、コンピュータアーキテクチャのレベルで動作するか否か、すなわち、処理されているデータまたは動作しているアプリケーションにかかわらず、その効果が生じるか否か
- クレームされた技術的効果の結果として、コンピュータが新規の方法で動作するか否か
- コンピュータの速度または信頼性の向上が見られるか否か
- 発明が解決しようとする課題が、単に回避されるのではなく、クレームされた発明により実際に課題が克服されているか否か
クレームされた発明が、5つの指針を全て満たす場合には、その発明が単なるコンピュータプログラムそのものではなく、特許を受けることができる発明に相当する可能性があることを示している。
新法第11条は、ニュージーランドにおいて特許適格性の有無を特定するために役立つ具体例を2つ例示している。第一の例は、特許適格性があるとされる例であり、第二の例は、特許適格性がないとされる例である。この二つの例について、以下に論じる。
- 特許適格性があるとされる具体例
-
出願中のクレームは、既存洗濯機を使用する際の改良された衣料の洗濯方法に関するものである。この方法は、洗濯機に組み込まれたコンピュータチップ上のコンピュータプログラムによって実現される。このコンピュータプログラムは、洗濯機の動作を制御する。洗濯機は、この発明を実施するために、何ら大きく変更されていない。
この発明について、実際の寄与は、衣料をより綺麗にし、少ない電力を使用する洗濯機の新規かつ改善された操作方法であると考えられる。
この洗濯機に関して従来とは異なる唯一の点が、コンピュータプログラムである一方、実際の寄与は、(コンピュータプログラムそのものではなく)コンピュータプログラムによって制御される洗濯機の動作ということになる。コンピュータプログラムは、プロセッサによって実行されることで、実際の寄与に相当する「洗濯機の動作」を制御するものでしかない。
この例においては、実際の寄与は、コンピュータプログラムそのものに存在するわけではないため、当該クレームは、特許を受けることができる発明(すなわち、衣料を洗濯する新規方法を使用する際の洗濯機)に関するものである。
- 特許適格性がないとされる具体例
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発明者は、会社登記に必要な法律文書を自動的に完成するプロセスを開発した。
クレームされたプロセスは、ユーザーに質問するコンピュータに関するものである。その回答は、データベースに保存され、その情報はコンピュータプログラムを使用して処理され、必要な法律文書が作成され、ユーザーに送付される。
使用されるハードウェアは従来のものである。唯一の新規な点はコンピュータプログラムである。
この発明について、実際の寄与は、コンピュータプログラムであること自体にのみ存在すると考える。コンピュータ内における方法の単なる実施により、当該方法を特許化することはできない。したがって、このプロセスは、新法の目的における発明ではない。
2-8.ビジネス方法に関する発明
新法においても旧法においても、ビジネス方法特許は、明確に除外されていない。ビジネス方法特許に関する具体的なガイドラインはない。旧法では、経済的努力の分野における有用性を持つ「人為的に創造された状態(artificially created state of affairs)」を実現することを条件として、ビジネス方法特許を認めてきた。「人為的に創造された状態」を生じない純粋なビジネス方法(すなわち、単なるスキームや計画)は、通常、旧法下でも認められていない。「人為的に創造された状態」の要件を満たすために、旧法下での出願人が取り得る戦略は、コンピュータプログラムまたはコンピュータを実現するビジネス方法をクレームすることである。
しかし、コンピュータプログラムそのものは、新法では特許付与の対象外とされているため、純粋なビジネス方法に関するクレームだけでなく、コンピュータを付随的に利用するだけのビジネス方法に関するクレームも、新法に基づき特許を受けることができない可能性が極めて高く、ビジネス方法に関するクレームは、コンピュータプログラムそのものとみなされることになる。
2-9.ボードゲームに関する発明
旧法に基づく出願について、ボードゲーム「ボード(盤)上にコマやカードを置いたり、動かしたり、取り除いたりして遊ぶゲームの総称」に関する発明は、クレームに以下の点が含まれている場合、一般的に特許を受けることができるとみなされる。
- 装置
- ゲーム用の駒
- (明細書に添付された図面において示された通り)そのマーキングの特徴に新規性を有するボード
- 明細書に開示された規則に従って関係するゲーム用の駒
新法は、ボードゲームの特許性を除外していないため、新法に基づくボードゲームの特許性に関する要件は、旧法に基づく要件と同じになると考えられる。
2-10.マオリ族の伝統的知識に関する発明またはマオリ族の価値観に反する発明
マオリ族は、ニュージーランドの先住民族である。マオリ族の伝統的知識に由来する発明、またはその利用がマオリ族の価値観に反するとみなされる発明は、新法に基づき、拒絶される。マオリ族諮問委員会には、ニュージーランド特許庁からの要請に応じて、特許出願においてクレームされた発明が、マオリ族の伝統的知識、原産植物・原産動物に由来するか否かについて、意見を提供する機会が与えられている。そして、マオリ族の伝統的知識、原産植物・原産動物に由来する場合には、当該発明の商業的利用がマオリ族の価値観に反するか否かについて、意見を提供することもできる。
■ソース
- ニュージーランド特許法(1953年旧法および2013年新法)
- ニュージーランド特許規則(1954年旧規則および2014年新規則)
- 「知的財産法」(第2版)(2012)、Finch, I.著、Wellington: Brookers Ltd.
- ニュージーランド知的財産庁特許審査マニュアル
http://www.iponz.govt.nz/cms/patents/examiners-manual
■本文書の作成者
Pipers Intellectual Property(ニュージーランド特許事務所)
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期
2016.03.01